Ⅵ 断罪 ー3
「ラウル様、帝国の一個師団が国境近くに集結しているとの報告が!」
部下が叫ぶように報告するのを、ラウル・サボンは相変わらず、人を喰ったような顔で聞いていた。そばで聞いていた側近の方が、青い顔をしている。
大公の反逆事件をはじめ、近年ガザ帝国を襲っているカエルム被害の原因も公国にあると、帝国民の公国への悪感情が高まっていると聞いている。
ついに炎王が動いたのだと、側近は動揺していた。
「閣下、どうなさるので」
帝国に攻め入れられれば、公国の軍事力では歯が立たない。
「焦るな。牽制だけだろう。国境は越えん」
確信があるような言い方に、報告した部下にも安堵が浮かぶ。
いくら小さいといっても、公国を潰そうというのなら、一個師団くらいではどうにもならない。やるなら一気にというのが、あの国のやり方だ。
それでも、いつでも攻撃できるという意思表示には違いない。
「ドムには守りを固めておけと言っておけ。あと報告も怠るなと」
おそらく、ガザは民意の高まりに、公国への強硬姿勢を示しておかなくてはならなくなったのだろう。だが、カエルムの件は、ガザの氏族も絡んでいる。下手に攻め入って、暴露されるのは、ガザも避けたいだろう。
遜や允、崑が、どうにかするに違いない。
それよりも問題は国内の方だ。大公本人は結局見つからず、この国の権力の行方は宙ぶらりんなままだ。捜査中で引っ張るのも限界がある。
大公家は潰しておきたかった。ではだれをこの国の「王」に据えるか。
ラウルは自分が「王」になるつもりはない。「王」を傀儡に、権力を及ぼせる方法を探している。
当初は大公の腹違いの兄たちに目をつけていたが、あまりに愚鈍すぎて、傀儡にすらならない。次に息子を大公の娘と婚約させ、公子のいない大公家で大公に就かせようと目論んだが、何故か本人にはその気が全くなかった。
腑抜けの息子がこの度の事件で少し変わったと思ったが、公女との婚約を破棄したと言ってきた。こんな状況でも、いやだからこそ公女の婚約者という立場は使えると思っていただけに、ラウルは唖然とし、激怒した。
するとユースティスは、冷めた目でこう言った。
「あなたは大公家を潰したいのでしょう?大公家には彼女も含まれています」
歳が離れているのに強引に婚約させられた割には、仲が良いと思っていただけに、ラウルは驚いた。
甘さが抜けたのかと、ある意味感心したが、公女のことでユースティスをいたぶることができなくなったことが、残念だった。
まぁ、あの娘は賢しらすぎる。
ユースティスは、ラウルの館にターシャを連れてきたことはほとんどない。会わせたくなかったのだろう。
だからラウルがターシャの顔を見たのは、数えるほどしかないのだが、その数回だけでも、頭が切れることは分かった。神殿にガザの兵を少数とはいえ連れてきたことも、それを証明している。
すぐに帰っていったが、あの娘をガザは擁護していると見せているようなものだ。
その直後の軍の動き…
「やっかいだな」
どちらにしろ、賢すぎるものはいらない。
「除くか」
大公が潰れてしまえば、どうとでもできる。
やはり婚約を破棄してよかったのかもしれない。
「ユースティスは?」
ラウルは側近に尋ねた。顔色が戻っている。「威嚇」だと聞いて、ほっとしたのだろう。
こいつは駄目だな。ラウルは内心舌打ちした。こんなに顔に出ていては、自分の側近など務まらない。人員の見直しをした方がいいのだが、ろくな奴がいない。
側近は我に返ったように、背筋を伸ばした。
「今日は館に戻るとおっしゃられておりました。もうそろそろお戻りになられると思いますが」
その時、再び扉がノックされた。慌てたような音に、ラウルは眉を顰める。
転がるように飛び込んできたのは、先ほどの部下だった。
「なんだ?ガザ軍が国境を越えでもしたのか?」
唾を吐くようにそう言うと、部下は奇妙な顔でこう告げた。
「大公様が見つかったそうです!ユースティス様が今、向かわれているとのことです」




