Ⅴ 涙 ー10
蒼碇から、王城のある全輪までは、馬を飛ばしても二日はかかる。
しかもそれだけの距離を、二人乗りで馬を走らせるわけにもいかず、仕方なく女性陣は馬車での移動となった。警備も目立つわけにはいかないので、隼と陽、ナル、あとは燦付きの護衛騎士である照という男が同行した。
歳は五十近くの、寡黙で頑健な騎士である。
「炎がわたしに付けてくれたんだけどね、照は忠誠を誓った父の側から離されたって、不満たらたらなのよ」
それなら、と燦は彼を炎のもとに送り返そうとしたが、それはそれで主君の命令を全うできないのは騎士の名折れと、憤りのあまり自害する勢いだったらしい。
結果、不満な顔を隠せないまま、燦の護衛騎士を務めている。
「まぁ、だから信頼はできるわよ。炎に失望されるのを、一番恐れているからね」
不器用な壮年の騎士は、険しい顔で殿を守ってくれていた。
陽はあれから、燦にケンカを売るようなことはしていない。こんな時だから、自重しているのかもしれないが、無表情な陽の顔が、一行をより緊迫した雰囲気にしていた。
たしかに事態は緊迫している。
公国では大神官の追放の宣旨は、神殿の支持者たちによる、追討を意味する。
そして今、神殿にはユースティスがいる。
大公に失望したというのは本心か。この追放の宣旨は、彼にとっても本意なのか。
掴みどころのない寄る辺のなさに、ターシャは暗い穴に落ち込んでしまいそうな不安を覚えた。人に対する信頼が覆された時、震えるほど怖くなることを、ターシャは初めて知った。
「ターシャ」
膝の上で組んだ手の上に、燦が手のひらを重ねてきて、ターシャはハッとした。組んだ自分の手が拳のように固く、冷たくなっていた。
怯えていることを、気取られてはいけない。
ターシャは努力して、自分の手の力を緩めた。
ターシャの手を包んでいた燦の手のひらが、ピクリと動いたが、燦は手を離さなかった。
燦がどういう立場を望んでいようと、ガザ王の娘であることには変わりない。燦を味方につけ、その上でそれがなくとも、公女の頼みを吞んでやろうと、炎に思わせなくてはならない。
「炎陛下には、二つお願いがあります」




