Ⅴ 涙 ー6
結局、ターシャたちは燦に会うために、蒼碇にある燦の邸宅を訪ねた。
急報を伝えに来た隼に、そのまま案内してもらったのだ。
王女の館というには質素な館だ。確かに燦が一人で住むのなら、このくらいの大きさが適当だろう。だがそれにしても飾り気がなさすぎる。
そのことに、ターシャは燦の地位に対する頓着のなさを感じた。
燦はターシャが来ることを予期していたようだった。私邸にも関わらず、きちんとした外出着を身に付けていた。役所で会った時の訓練着のようなものではもちろんなく、シンプルだがきちんとしたドレスだ。
部屋に通され、燦と目が合ったとき、燦がターシャを心底案じていることが伝わってきた。
「ターシャ、あなたはどうしたいの?」
心配する言葉も、抱きしめられることもなかったが、それでもターシャはすぐに分かった。
やっぱり、この人は信頼できる。
「ガザ王に取り次いでもらえないでしょうか」
燦を通すのはずるいと思う。
公女としてなら直接来いと、言われるかもしれない。
だが、そう言われても、こちらの方が勝算がある。その為なら、プライドなどいつでも捨てられる。
「分かったわ」
燦は即座に頷いた。燦にちゃんと伝わった。ターシャは緊張した心のどこかが、ホッと緩んだのを感じた。
「わたしも行く。すぐ用意するわ」
そう言って、燦は余計な言葉はかけず、すぐに部屋を出て行った。
「馬を出してくる」
成り行きを承知した隼も、すぐに部屋を出て行く。
残されたターシャは、ようやく部屋の椅子に腰かけた。
「よかったかしら」
振り向きもせずに、同じく部屋に残された二人の男に話しかけた。正確に言えば一人だ。ナルは顔を見ないと言葉が通じない。
「よかったも何も、ターシャの国のことだ。俺は口が出せない」
言葉だけ聞くと、冷たく聞こえるが、この男はこういう言い方しかできないのだと、ターシャは最近分かってきた。
「でも、あなたは燦王女が嫌いなんでしょ。一緒になど、いたくないんじゃない?」
ターシャがそう言ったのは、半分本心だが、陽の気持ちを慮ったわけではない。
それでもついてきてくれるのかという、不安と期待の混ざり合った、自分でも何の為か分からない、確認だった。
「それはそれ、これはこれだよ。ターシャを助けるつもりで一緒にいるから、最後まで助けるよ」
「……ありがとう」
陽の顔は見られなかった。
これからは助けてもらうだけでは駄目だ。彼らを利用することになるだろう。そうでもしないと、恐らくたどり着けない。
「ターシャ」
その陽がターシャを呼んだ。
そこに緊張を感じて、ターシャはようやく振り返る。
「ナルがおかしい」
その言葉を聞く前に、ターシャはすぐにナルの異変に気が付き、駆け寄っていた。
頭を押さえ、眉間に皴を寄せ、ギュッと目を瞑っている。額には汗が滲んでいた。
瞑った目の片方を何とか開いて、ナルがターシャを見た。苦しそうな顔で苦笑いするように唇が「ニッ」と歪んだ。頭を押さえていた手を離し、形を作る。
『久しぶりだときついな』
苦痛が去ったのか、丸めていた背中が恐る恐る伸ばされた。
『彩が近くにいるみたいだ』




