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宵の姫君  作者: さら更紗
Ⅴ 涙
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79/101

Ⅴ 涙 ー6



 結局、ターシャたちは燦に会うために、蒼碇にある燦の邸宅を訪ねた。

 急報を伝えに来た隼に、そのまま案内してもらったのだ。

 王女の館というには質素な館だ。確かに燦が一人で住むのなら、このくらいの大きさが適当だろう。だがそれにしても飾り気がなさすぎる。

 そのことに、ターシャは燦の地位に対する頓着のなさを感じた。

 燦はターシャが来ることを予期していたようだった。私邸にも関わらず、きちんとした外出着を身に付けていた。役所で会った時の訓練着のようなものではもちろんなく、シンプルだがきちんとしたドレスだ。

 部屋に通され、燦と目が合ったとき、燦がターシャを心底案じていることが伝わってきた。

「ターシャ、あなたはどうしたいの?」

 心配する言葉も、抱きしめられることもなかったが、それでもターシャはすぐに分かった。

 やっぱり、この人は信頼できる。

「ガザ王に取り次いでもらえないでしょうか」

 燦を通すのはずるいと思う。

 公女としてなら直接来いと、言われるかもしれない。

 だが、そう言われても、こちらの方が勝算がある。その為なら、プライドなどいつでも捨てられる。

「分かったわ」

 燦は即座に頷いた。燦にちゃんと伝わった。ターシャは緊張した心のどこかが、ホッと緩んだのを感じた。

「わたしも行く。すぐ用意するわ」

 そう言って、燦は余計な言葉はかけず、すぐに部屋を出て行った。

「馬を出してくる」

 成り行きを承知した隼も、すぐに部屋を出て行く。

 残されたターシャは、ようやく部屋の椅子に腰かけた。

「よかったかしら」

 振り向きもせずに、同じく部屋に残された二人の男に話しかけた。正確に言えば一人だ。ナルは顔を見ないと言葉が通じない。

「よかったも何も、ターシャの国のことだ。俺は口が出せない」

 言葉だけ聞くと、冷たく聞こえるが、この男はこういう言い方しかできないのだと、ターシャは最近分かってきた。

「でも、あなたは燦王女が嫌いなんでしょ。一緒になど、いたくないんじゃない?」

 ターシャがそう言ったのは、半分本心だが、陽の気持ちを慮(おもんばか)ったわけではない。

 それでもついてきてくれるのかという、不安と期待の混ざり合った、自分でも何の為か分からない、確認だった。

「それはそれ、これはこれだよ。ターシャを助けるつもりで一緒にいるから、最後まで助けるよ」

「……ありがとう」

 陽の顔は見られなかった。

 これからは助けてもらうだけでは駄目だ。彼らを利用することになるだろう。そうでもしないと、恐らくたどり着けない。

「ターシャ」

 その陽がターシャを呼んだ。

 そこに緊張を感じて、ターシャはようやく振り返る。

「ナルがおかしい」

 その言葉を聞く前に、ターシャはすぐにナルの異変に気が付き、駆け寄っていた。

 頭を押さえ、眉間に皴を寄せ、ギュッと目を瞑っている。額には汗が滲んでいた。

 瞑った目の片方を何とか開いて、ナルがターシャを見た。苦しそうな顔で苦笑いするように唇が「ニッ」と歪んだ。頭を押さえていた手を離し、形を作る。

『久しぶりだときついな』

 苦痛が去ったのか、丸めていた背中が恐る恐る伸ばされた。

『彩(さい)が近くにいるみたいだ』

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