Ⅴ 涙 ー3
「やっぱり、もう修行する子を見つけてもらわないとだめね」
蘭は薬草でいっぱいになった籠を背負いなおすと、大きなため息をついた。
この村唯一の薬師である不肖の息子が、村から姿を消してから、半年ほど経とうとしていた。この村で薬師になると、姿を消したくなるのかもしれない。
しかしいなくては困るのが、薬師という生業である。仕方がないので、父親と息子が薬師であり、多少の知識がある自分が、息子の代わりに臨時薬師を努めているのだ。
陽は調剤済みの薬を、ほとんど満量ストックしていた。ここまでしっかり準備していたということは、おそらく、いつでも村を空ける気があったのだろう。
はなまつりの夜、ターシャが朝になっても帰ってこないと、陽は慌てたように蘭のところに来たかと思うと、すぐに村を出て、ターシャを探しに行った。
「全く自分の気持ちもよく分かっていないくせにね」
蘭は一人にやけながら、そんなことを独り言ちる。
信にそっくりだと言われる陽は、実は三人の子どもたちの中で一番恋愛事には疎いんじゃないかと、蘭は思う。
村の迷惑も顧みず、心配で追いかけて行った時点で、特別ではないという言い分は通らないんじゃないかしら。
だが陽は、それが罪悪感から来るものだと思っているようだ。
蘭がターシャの婚約者の行方を知っていながら教えなかったのは、蘭に思惑があったからだが、陽はそうとは知らなかった。それでも結果的に隠してしまっていたことに、罪悪感を覚えている。
それゆえに混乱しているのかもしれない。自分がターシャを気にかけるのは、罪悪感か愛情か。
「ふー」
楽しい想像をしているうちに、針森の端までたどり着き、蘭はそこにちょうどよくある腰掛岩に腰を下ろした。慣れ親しんだ針森でも、奥まで来るのは骨が折れる。
座りたくなるその場所にある岩は、その為にあつらえたかのように、腰掛けるのに最適の大きさだった。
なんとなく崖の向こうを見やって、蘭は黒い点のようなものに気が付いた。もう少し先に目をやると、点が集まっている。
あら、来たのね。
蘭はしばらくして、よいしょっと立ち上がった。




