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宵の姫君  作者: さら更紗
Ⅴ 涙
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76/100

Ⅴ 涙 ー3



「やっぱり、もう修行する子を見つけてもらわないとだめね」

 蘭は薬草でいっぱいになった籠を背負いなおすと、大きなため息をついた。

 この村唯一の薬師である不肖の息子が、村から姿を消してから、半年ほど経とうとしていた。この村で薬師になると、姿を消したくなるのかもしれない。

 しかしいなくては困るのが、薬師という生業(なりわい)である。仕方がないので、父親と息子が薬師であり、多少の知識がある自分が、息子の代わりに臨時薬師を努めているのだ。

 陽は調剤済みの薬を、ほとんど満量ストックしていた。ここまでしっかり準備していたということは、おそらく、いつでも村を空ける気があったのだろう。

 はなまつりの夜、ターシャが朝になっても帰ってこないと、陽は慌てたように蘭のところに来たかと思うと、すぐに村を出て、ターシャを探しに行った。

「全く自分の気持ちもよく分かっていないくせにね」

 蘭は一人にやけながら、そんなことを独り言ちる。

 信にそっくりだと言われる陽は、実は三人の子どもたちの中で一番恋愛事には疎いんじゃないかと、蘭は思う。

 村の迷惑も顧みず、心配で追いかけて行った時点で、特別ではないという言い分は通らないんじゃないかしら。

 だが陽は、それが罪悪感から来るものだと思っているようだ。

蘭がターシャの婚約者の行方を知っていながら教えなかったのは、蘭に思惑があったからだが、陽はそうとは知らなかった。それでも結果的に隠してしまっていたことに、罪悪感を覚えている。

 それゆえに混乱しているのかもしれない。自分がターシャを気にかけるのは、罪悪感か愛情か。

「ふー」

 楽しい想像をしているうちに、針森の端までたどり着き、蘭はそこにちょうどよくある腰掛岩に腰を下ろした。慣れ親しんだ針森でも、奥まで来るのは骨が折れる。

 座りたくなるその場所にある岩は、その為にあつらえたかのように、腰掛けるのに最適の大きさだった。

 なんとなく崖の向こうを見やって、蘭は黒い点のようなものに気が付いた。もう少し先に目をやると、点が集まっている。

 あら、来たのね。

 蘭はしばらくして、よいしょっと立ち上がった。


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