↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宵の姫君  作者: さら更紗
Ⅳ 狂気
PR
65/101

Ⅳ 狂気 ー5



「これは明らかに公国の策略ですぞ」

 崑(こん)の当主が唾を飛ばしながら、大声で言うのを、炎は顎を撫でながら聞いていた。

崑の隣で遜(そん)の当主が、眉間にしわを寄せ、宙を睨んでいた。允(いん)の当主は人形のように、青白い顔で押し黙っている。

 カエルムらしき麻薬の被害が、ガザ帝国内に報告され始めたのは、前回の氏族会議のすぐ後だった。ガザは広大で、辺境や山奥の村の情報が届くのは時間がかかる。カエルムは地方から広がり始めたらしく、氏族会議より前にはもう兆しがあったと考えられた。

 それがどうも、公国から入ってきているという情報を持って帰ってきたのが、情報を集めていた隠密たちからの、最大で唯一のものだった。

 もっとも、各氏族が情報の出し惜しみをしている可能性はある。かく言う炎も,得た情報を全て出したわけではない。

 ただ、公国から入ってきたのは確かなようだった。国内での流通ルートは確認できなかった。逆に、公国から入ってくる流通ルートを押さえることができたのだ。

 だがそれは、かつてのカエルムほど高価ではなかった。煙草ほどの値段で、実際煙草と偽って売ったというものもあった。

 煙草と変わらぬ価格では、そうと言われれば、疑わないだろう。問題はそうしてまで、ガザで売りさばいた意図だ。

 公国で出回っていたのも、その下地づくりか?

 何のために?

「自分の国で起こった過去の悪夢を、ガザで起こしてやろうというのだろう」

 その悪夢の原因が、自分の国(ガザ)であったことなど忘れたかのように、遜の当主が軽蔑の声を上げた。

 カエルムが公国のドムという町を滅茶苦茶にしたことは、ガザでも公国でも、よく知られている。一つの町を滅ぼしかねなかったことを重く受け止め、国王炎はカエルムの全面禁止を強行したのだった。

 允という氏族がカエルムに関わっていた以上、それは簡単なことではなかった。炎が即位したばかりの不安定な時期なら尚更だ。

 だが、それを押さえつけてまで、カエルムを葬る必要があった……

「……ガザを潰そうというのか」

 炎の呟きに、遜の当主が重々しく応えた。

「ではやはり公国の陰謀ですな」

 遜にとって、公国は大事な取引先だ。それなのに、まるでけしかけるように言う遜の当主を、炎はじっと見た。

 公国からのルートがあるなら、公国がまるで無関係ということはあるまい。だが、これは遜が言うような単純な事件とは思えない。

 誰がどこまで関わっているのか。先の師団への攻撃事件とは、関係があるのか。

 しかしそれが分かるまで、公国を放っておくことはできない。

 ルートを潰さなくてはならないし、不利益を被ったなら、報復しなくてはならない。そうせねば、国民が納得しないからだ。矛先は、容易に王城に向く。

「調査団を公国へ送ろう。同時に国境を封鎖。国境に一個師団を派遣し、国境警備隊と共に、厳戒態勢をとれ」

 炎は氏族長たちにも聞こえるように、声を張り、隣にいた国軍大将の櫂(かい)に命じた。

「はっ」

 櫂がすぐに部屋を出ようとすると、崑の当主の太い声が引き止めた。

「お待ちください」

王の命令の邪魔をするとは……櫂は険しい顔で足を止めた。だが、崑の当主の言を無視するわけにはいかない。

「なんでしょう」

「どちらの国境でしょうか。我が国と公国との国境は、黄神山脈を除けば、二か所ありますが」

 確かにガザと公国を行き来できる場所は、二つある。それが、ドム近くの国境と針森である。

 櫂は、原因がカエルムということもあり、ドムへ続く国境だと思った。それに誰が言ったわけではないが、針森は不可侵であることが暗黙の了解だった。公表はされていないが、針森は王妃凛の故郷だからだ。

「状況を考えれば、どちらも封鎖することをお勧めしますが」

 崑の当主の言に、櫂はギクリとしたが、炎はあっさり頷いた。

「そうだな、そうしよう」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。