表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宵の姫君  作者: さら更紗
Ⅰ 幻の村
PR
5/33

1 幻の村 ー5



「こんなことをしている場合じゃないわ」

 ターシャはブツブツ文句を言いながら、チィの実を干し台の(ざる)の上に並べていた。チィの実は小さいうえにまん丸で転がりやすい。

「あ、また」

 癇癪を起しかけて、ターシャはまた大きくため息を吐いた。イライラしている彼女は、先ほどから並べている実を崩してしまい、一向に仕事がはかどらない。

「こんなこととは、ひどい言いようだね、(あん)

 隣で薬草の下処理をしていた陽が、呆れたように言った。

「そういうことではなくて……ヨ、ヨ、よう」

「陽」

 一生懸命、陽の名前を呼ぼうとしたターシャは、バッサリと本人に発音を直されてしまった。

 ターシャがガザから来たと偽るために、陽はターシャが名乗った「アン」を「杏」に改めてくれた。

「素性を隠した方が、確かにいいかもね」

 そう賛成してくれた時は、優しさからかと思ったが、「それなら村の者の名前も正しく呼べるようにならないと」と、強制的に特訓が始まったのだ。

 最近では、単に陽の嫌がらせなのかもしれないと、思い始めている。


 ようやく会えた蘭と、陽が連れてきた蘭の夫の信に、ターシャは事のあらましを語った。

 蘭以外の人間に話すのは躊躇われたが、信は大丈夫という蘭の言葉に、ターシャも心を決めて語った。

 といっても、ターシャにも分からない事の方が多かった。

 父である大公アランが、出かけていった公務先のガザで行方不明になったと、知らせが届いたこと。追って届いた知らせは、「帝国への叛意の疑い」とあった。

 お母様は冷静だった。嫁いだ姉に連絡し、自分たちも準備しようとした。

 お父様に叛意などあろうはずがない。

 それは分かっていても、真実が必ずしも勝つわけではないということも知っていたからだ。

 だが、支度をしようと私室を出ようとしたところで、外が騒がしいことに気が付いた。それが兵士たちの怒号だと気が付いた時、初めて、母の顔が真っ青になった。

 それから、隠し通路に押し込まれたのだ。

 お母様は一緒に来なかった。

 ラン様を頼ってと言い残し、通路の蓋を閉め、閂を掛けたらしい。ターシャが押しても、扉は開かなかった。

 もう進むしかなかった。

 あとは自分でもよく覚えていない。隠し通路は都の外まで続いていた。下水路に沿うように作られていたらしい。

外に出ると、ただ、必死に西に向かい、針森を目指した。

 よくたどり着いたものだと思う。

 日常用とはいえ、ドレスを着ていた。目立たないわけはない。すぐに豪奢な裾を破いて短くして、髪に飾った装飾品もすべて取って、一つ括りにした。できるだけ町の娘の恰好に近づけようとはしたが、不自然であることは自分でも分かっていた。

 途中で行商人の馬車に同乗することができたが、ほとんど徒歩だった。お金を持っていく暇などなかったし、大公家の装飾品は高価すぎて怪しまれる。

 ろくに食べ物も食べられず、宿場町でも宿には泊まれなかった。

 ただの公女の自分が、一人でここにたどり着けたのは、奇跡だとしか思えなかった。

 だからこそ、焦るのだ。

 この奇跡を無駄にしたくない。

 真相を知り、間に合うのであれば、父と母を助けたい。

 だが、真相どころか、父と母の安否すら分からなかった。

 蘭は途中で口を挟まず、最後まで聞くと、ターシャの頭を撫でてくれた。

「よくがんばったわ。とにかく、今は体を休めなさい」

 一刻も早く、と急いて詰め寄るターシャに、「俺たちが探ってみるから安心しろ」と言ったのは信だった。

 心配そうなターシャの顔を見て、蘭は微笑んだ。

「大丈夫よ。信はアランの親友なの」と蘭が言うと、信は思いっきり顔をしかめた。

 大公である父を、蘭がそんな風に気軽に呼ぶことに、ターシャは驚いた。

 その間に蘭は陽を呼び、ターシャはまた陽の家に戻されてしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ