↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宵の姫君  作者: さら更紗
Ⅲ 激流
PR
46/100

Ⅲ 激流 ー3



『嘘だ!』

 ナルが怒りのあまり、手を震わせてそう言うのを見て、ターシャはため息をついた。

『わたしだってそう思うわよ』

 地下でのことを二人に聞かせたところだった。ユースティスの姿はなく、謎の男がいたこと。男が持っていたユースティスの手紙。

 二人に話しても、現実味がなかった。

 情報に感情がついていかないのだ。妙に冷静なのは、そのせいだった。

 男が言ったことが本当のことだとは、到底思えなかった。だが、実際ユースティスはそこにおらず、男が持っていた手紙は本物だった。

 手紙の内容は、男が言った通り、ターシャとの離縁を望むものだった。

「大公の行動には失望した。君と同じ道は歩めない。この国を良い方向に導くために、君との婚約を解消したい」

 信じられない、嘘だと思いたいことが、ユースティスの字で綴られていた。

 人は信じたくない言葉を聞くと、思考を停止させてしまうらしい。ターシャの頭は凍り付いたように、考えることを放棄していた。

 陽はそれまで黙ってターシャの話を聞いていたが、ぼそりと言った。

「その男は何者なんだろうな」

 翡翠の目の男。彼の言葉に、動けなくなるほどの衝撃を受けたはずなのに、ターシャは彼が敵だと断ぜずにいた。

 あの時、彼はおそらくターシャたちを助けてくれた。

 衝撃のあまり立ち尽くしていたターシャを、男は引っ張って館から連れ出した。地下から抜ける、秘密の通路を男は知っていた。

 ラウルに神の薬とやらの説明を終えた陽は、館を辞しても、庭をうろついてターシャを待っていた。急に花壇の側から、見知らぬ男に手を引かれて現れたターシャに、驚きを隠せないようだったが、すぐにターシャの許に飛んできてくれた。

 男は陽の姿を認めると、何も言わずに館の中に戻ってしまった。

 陽は追いかけようとしたが、ターシャが陽の袖をつかんで引き留めた。

 振り返った陽は、彼女のあまりの顔色のなさに、黙って追うのを止め、二人でこの宿屋に戻って来たのだ。

 男は、ラウルに気付かれないように、ターシャを逃がしてくれた。それが純粋に善意によるものだとは思っていない。彼にも何か思惑があるのかもしれない。

 だが、少なくとも……

「敵意は感じなかったわ」

 ナルが何か言いたそうな顔でターシャを見た。だが、結局彼の手は何の言葉も発さなかった。

 ターシャは苦しくなって、うつむいた。

 分かっている。自分は今、混乱しているのだ。

 陽の腕がターシャの頭を抱えるように伸びてきて、優しく撫でた。何度も何度も。

 子ども扱いしないで、ほうっておいて、とターシャの心は反発するのだが、それはどれも言葉にならなかった。撫でる手を止めて欲しくなかった。

「大丈夫」

 優しい陽の声が降ってきた。

「確かめに行こう」

 顔を上げると、なんの拘(こだわ)りもない陽の顔があった。

 そうか、この人には何の関係もないのだ。公国もガザも。公女ターシャとユースティスの関係も。大公であるターシャの父が謀反の疑いをかけられ、行方不明であることも。

 ただ、ターシャが苦しそうだから、助けようとしてくれている。

「最後まで付き合ってあげるから」

 その薄情さが、ターシャには救いになった。

 ターシャは何度も頷いた。

「ありがとう」

 ターシャが言うと、陽はまたターシャの頭を撫でた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。