Ⅱ 蠢動 ー21
「あいつを拾わなければよかったと、俺は今でも思う時がありますよ」
櫂が腹立たし気にそうぼやくと、炎は天を仰いで鼻をならした。
「そうしていたら、俺は王になれていないな」
櫂は王を恨めし気に一瞥したが、否定もせずに舌打ちをした。
炎が苦笑する。
「お前、主に向かって舌打ちするなよ」
「……舌打ちぐらい許してくださいよ」
こんな軽口が叩けるほど、二人の付き合いは長いし、その絆は固い。
だからこそ、心配している。
不動と言われる炎王は、実は王冠に執着していない。
当時、王にならないと、生き残れなかった。
一緒に生きようと決めたから、玉座を目指した。
どんな国を造るか見たいと言われたから、王であり続けた。
誰とか。
現王妃、凛である。
彼女がいなかったら、炎は王になどならず、遠征軍の隊長として走り続け、そのうちどこかで命を散らせていた。本人もそれでいいと思っている節があった。
「それで?どうしますか?」
気を取り直して王に問うと、炎はニヤリと笑った。
「俺は我が国の王だ。もちろん正攻法で行く」
炎は金の髪を震わせながら、吠えるように言った。
「氏族会議を開く」
氏族会議。文字通り四大氏族が顔を揃えて行われる会議だが、実は今まであまり開かれたことはない。勢力に差がありすぎるので、会議にならないのだ。よって通常は、炎王が主導の形で政治が行われる。もちろんそこには、膨大緻密な根回しが行われている。
その方が各勢力に角が立たず、効率的なのだ。
氏族会議を王が開くのは、氏族間で揉めさせるのが目的だ。それを氏族たちも分かっているし、よって用心して来る。そして、あわよくば、王族全も巻き込んでやろうと狙ってくる。
炎王らしくなってきた。
櫂は内心安堵のため息をついた。
無茶をしようとしても、強気なうちは、うちの王様は大丈夫だ。
当面の心配がなくなった途端、現金なことに、櫂も浮ついてきた。
危うい作戦だが、櫂の心は踊った。
無茶ばかりする国王の片腕という立場上、彼は今でこそ慎重な印象があるが、本来は炎に負けず劣らず、無茶をしたい気質なのだ。
「あとな」
炎はいたずらがうまくいった子どものように、顔を緩めた。
「凛は今、この城にはおらんぞ」
一呼吸おいて、櫂は礼儀を捨てた。
「は?」




