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宵の姫君  作者: さら更紗
Ⅱ 蠢動
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Ⅱ 蠢動 ー10


 傷口を見て、ターシャはグッと息を呑んだ。

 死ぬほどじゃない。

 その言葉だけで安堵していたなんて、自分はなんて浅はかなんだろう。

 巻きなおすためにほどいた包帯は、元々そんな色だったかのように、赤く染まっていた。

 背中から脇腹にかけての長く走った傷は、それがターシャを庇った結果だと物語っていた。

 赤く裂けた傷は、薄桃色の肉を覗かせ、まだドクドクと血を盛り上がらせていた。

 自然と呼吸が早くなる。

 それを気付かれないように、息を整えようとするが、かえって呼吸と動悸がちぐはぐで苦しくなってしまった。

 陽は丁寧に傷を洗い、消毒をすると、血止め粉を振った。それから新しい包帯を巻きなおし、最後にさらしを巻いて固定した。

 ナルはその間、暴れたりはしなかったが、陽が身体に触れるたびに、うめき声を漏らし、痛みに耐えていた。

 治療が終わると、最後に飲んだ痛み止めの薬が効いたのか、ナルはうつぶせの姿勢のまま、眠ってしまった。

 それを見届けると、陽は振り返って、ターシャの顔を見た。

「杏、君も休んだ方がいい」

 それまで黙って見ていた「じいさん」が、何か言いたそうな素振りをみせたが、あきらめたのか、部屋の隅を指さして言った。

「あそこに毛布が積んである。好きに使うといい。儂は上で寝てくるよ」

 言うが早いが、梯子を上って、上階(うえ)に上がって行った。

「すまないな、ダン」

 陽は上階に向けて、そう言ったが、返ってきたのはわざとらしいため息だけだった。

「ダンはマルゴ(ここ)の治療師なんだけどね、残念ながら腕は今一つなのさ。マルゴ唯一の治療師にもかかわらずね。それで俺がこの町に泊まった時、負傷した町の人間が帰ってきた。結構ひどくやられていて、ダンはオロオロするだけだったから、俺が代わりに診てやったわけ」

「へぇ、じゃあ、陽は命の恩人みたいなものね。あんたがたまたま町にいて良かったわね」

 ごく素直にそう思って言っただけだったが、陽は面白いことを言われたかのように、声を上げて笑った。

「まぁ、俺にとっても、そいつらが怪我して帰って来てくれてよかったけどね。おかげで、荷物は返してもらえた」


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