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宵の姫君  作者: さら更紗
Ⅱ 蠢動
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Ⅱ 蠢動 ー5


「つまりこういうことね」

 やっと部屋に落ち着くと、ターシャはすぐにナルに説明を求め、ナルは手話と指文字を交えて説明してくれた。

 手話の方が分かりやすいが、動きが大きくなるので、外に内容がバレやすい。指文字は見づらく複雑だが、第三者には分かりにくいという利点があった。

 ターシャは一応どちらも理解できるが、手話の方が断然楽だった。だが今の状況では、よほど安心できる場所でないと、手話は使えない。

 本当はこんな初めての宿で、たとえ個室内でも手話を使うのは躊躇われたが、疲れ切っているターシャを労わって、ナルが差しさわりがないところは手話にしてくれた。

 指文字にしても、手話にしても、誰にでも理解できるものではない。聾唖者でないターシャがそれらを使えるのは、ターシャとユースティスとナル、三人の絆の証でもあった。

『ラウルがお父様を嵌める為に、今回のことを仕組んだと』

 ラウル・サボンはユースティスの父親であるが、野心に満ち溢れ、汚い手段をとることも厭わない。

 公国の要職にありながら、大公の椅子に野心があることを、隠そうともしなかった。

 そんな態度なのに、中央から排除されないのは、サボン家が古くからの家門であることと、軍部の中央に深く根差していることが関係していた。

 ついに、と言われても、驚きはしない。

 だがこんなふうにガザをダシにするようなやり方は、良い手とは言えない。ガザとの関係が悪化してしまえば、国を乗っ取った後が困る。

 そんなことも分からない人ではないだろうに。

 ターシャは、人の悪い笑みを浮かべた、婚約者の父親の顔を思い浮かべた。何度かしか会ったことはないが、よく覚えている。ユースティスと親子と言われても、本当か疑いたくなるほど、似ていなかった。ここまで性根がそのまま顔に出ている人も、ある意味珍しい。

 腐った性根だが、彼は愚か者ではない。

 何か裏があるのか、それともそうなっても構わない何かがあるのか。

『それでユースティスは、ラウルのところに捕らえられていると』

 ターシャが確認すると、ナルは悲壮な顔で頷いた。ナルは昔、ラウルの館に捕らえられ、ひどい目にあったことがある。

 ユースティスに会ったのは、父の一報があった時だ。「行方不明」の一報を、公舎で一緒に聞いた。その後すぐに、確認してくると出て行ったのが最後だ。

 ユースティスが戻ってくる前に、「謀反の疑い」の報告を受け、彼に会うことなく今に至る。

『ユースティスは()()()()のね』

 もう一度同じことを繰り返したターシャの意図が分かって、ナルの顔は怒りで真っ赤になった。

 分かっている。ユースティスが「謀った」方ではない。ましてや、あのラウル・サボンと組むなどありえない。

 だが、ターシャはナルのように、盲目的に人を信じることはできない。「可能性」として、全て洗い出してしまう。

 ユースティスが自ら出向いたのではなく、ラウルに捕らえられたのなら、ラウルの目的はどちらだろう。

 陥れる大公家から息子を離しておく為か、それとも何かをさせる為か。

 ラウルは息子だからと言って、情をかけるタイプではない。むしろ、喜んで傷つける。

 どちらにしても、ユースティスを握られていては、どうしようもない。

 だが、自分とナルでどうしようというのだ。ナルは一応は動けるが、武人でも隠密でもない。あくまで侍従だ。玄人(プロ)と対峙すれば、歯が立たない。ましてや、公女(ターシャ)を守りながらなど、論外だ。

「やっぱり蘭に知らせるべきだった」

 ターシャが呟くのを見て、ナルは激しく首を横に振った。

『蘭は知っていたよ。ユースティスがラウルのところにいることなんて、とっくの昔に知っていた』


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