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宵の姫君  作者: さら更紗
Ⅰ 幻の村
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22/33

Ⅰ 幻の村 ー22


 どういうつもりなのかしら。

 ターシャは腹を立てながら、広場の出口に向かっていた。

 確かに灯りは綺麗だったし、パチェは美味しかった。同年代の村の女性と話せたのは収穫だろう。

 でも蘭も陽も香が焚かれることなど、言わなかった。その気になった男たちの中にいたら危ないことくらい、ターシャにも分かる。

「あれ、きみ」

 呼び止められて、ギクリとした。そのまま聞こえなかった振りをしようと思ったら、手を掴まれた。

 強引ではなかったが、ターシャは足を止めて振り返ってしまった。

 ここに自分で来た以上、被害者のように悲鳴を上げることは出来なかった。

 振り返ると、純朴そうな男がはにかみながらターシャを見ていた。手はもう放してくれている。

「やっぱり。新しく村に来た()だよね。どこに行くの?もしかして……一人?」

 緊張しているのか、声が少し震えている。この要領の悪さでは、おそらく相手がいないのだろう。

「よかったら、僕と……」

 勇気を振り絞った言葉に、ターシャはしかし、答えることはできない。

「いいえ、ごめんなさい。わたしは誰とも契るつもりはないの。だから、今から帰ろうと……」

「え、でも、じゃあ、どうしてはなまつりに来たの?」

 信じられないという顔で、男はターシャに詰め寄った。断る口実だと思ったのだろう。

「あの、綺麗なまつりだって聞いて。本当に、誰ともそのつもりはないのよ」

 言えば言うほど、男の顔は頑なになっていった。

「僕が嫌ならそう言えばいいのに」

「そうじゃないわ。本当にごめんなさい」

 逃げるようにそう言うと、男はターシャの手首を掴んだ。

 先ほど掴まれた時には感じなかった恐怖をターシャが感じた時、二人の間に誰かが割り込んできた。気が付くと、ターシャの手を掴んでいた男の手は、その闖入者に捕まれ、ターシャから引きはがされていた。

 黒い外套を羽織り、明らかにはなまつりの参加者ではない。外套についているフードはかぶっておらず、その者がまだ若い男であることはすぐに分かった。、お前」

 邪魔をされた男の言葉から察するに、闖入者は針森の人間ではなさそうだった。その顔を見て、ターシャは心底驚いた。

「ナル!」

 ターシャがナルと呼んだ闖入者は、ターシャの顔を見ると、ホッとしたように息をついた。それから男を軽く押すと、男はよろめいて尻餅をついてしまった。

 ナルは気に掛ける様子もなく、無言でターシャの手を掴み、引っ張って歩き出した。

 男は尻餅をついたまま、唖然として二人を見送っていた。

 あの人は、今夜は大人になれないかもしれない。ターシャはそんなことを思って、「ごめんなさい」と心の中で手を合わせて謝った。

 そうしている間も、ナルはずんずん歩いて行く。

「ナル、待ってよ。速い!」

 ナルには聞こえないことを承知で、そう叫ぶ。ナルは頓着しない。ターシャが「公女」であっても、そうだ。そこが気に入っているところだが、とりあえず立ち止まってくれないと、話も出来ない。

 ターシャは引っ張られている手を、思い切って引いた。ナルが驚いた顔で振り返る。

 ターシャはゆっくりと口を動かした。

『マッテ。ハヤイ』

 ナルはたちまち悄気(しょげ)て、立ち止まった。

 ナルの口が『ターシャ様』と呟く形になった。ターシャの手を離し、指文字をつくる。

『テス様を助けて』

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