Ⅰ 幻の村 ー20
薬師小屋とは村を挟んで反対側の、森に入る入り口に、広場のようなところがある。そこが今日の会場のようで、ターシャは蘭の家で衣装を着付け、髪を結いあげてもらってから、まつりに向かった。
自分の衣装が再び日の目を見るということで、蘭の娘の夕が着飾ったターシャを見に、蘭の織小屋にやってきていた。
夕は父である信と同じ、石師を生業に選んだので、信と同じ小屋に住んでいる。
蘭はこの時初めて夕に会ったのだが、愛嬌があり可愛らしい人だった。夕にはもう夫がおり子どももいる と聞いて、自分と同じくらいの歳ではないかと思っていたターシャは驚いた。思わず歳を訊くと「十八よ」と答えが返ってきて、ターシャは唸ってしまった。
夕は衣装を着たターシャを見て、喜んでターシャを褒めてくれたが、それと同時に二年前の自分の「はなまつり」を思い出したらしく、懐かしさそうに思い出に浸っているようだった。
どうやら夕は子どもの頃から、今の夫である従兄のことが大好きで、押しに押して結婚に漕ぎつけたらしい。その従兄は四つ上らしいので、「はなまつり」の相手は当然違う男だったということになる。
好きな人がいるのに嫌ではなかったのか尋ねると、夕は何を聞かれているのか分からないと言った顔で首を傾げた。
「嫌?全然。やっと大人になって、静に相手にしてもらえると思ったら、嬉しくて待ち遠しかったわ」
その話を傍らで黙って聞いていた蘭が、くすっと笑った。
「杏、あんたは自分の好きなようにしたらいいよ」
蘭はともかく、自分とあまり変わらない夕の前で子ども扱いされたようで、ターシャはムッとしたまま口を噤んだ。
蘭と夕に見送られて織小屋を出たときは、イライラと落ち着かなかったターシャだが、幻想的な明かりに導かれて歩くうちに、いつの間にか気持ちが浮き立つのを、自分でも感じていた。
はなまつりは十六歳になる男女のみが参加できるまつりであるが、それ以外の者は、基本この夜は家から出ない。
夜の村に自分たちしかいない。それだけで、別世界に来たようだった。
蘭の家は村の中ほどにあるので、各生業の家も多い。道を進んで行くと、はなまつりに向かう若者たちが、ポツポツと集まってきた。
緊張と興奮の入り混じった表情で、黙って歩いている。ターシャはともかく、村の若者同士顔見知りだろうに、挨拶程度もおしゃべりをする者はいなかった。
それがこのまつりが、儀式の意味合いが強いものだという証拠でもあった。
キョロキョロするのをやめて、ターシャも彼らについて、歩を進めていった。




