Ⅰ 幻の村 ー19
明かりの道が出来ていた。
木のうろや小道の端、蔓の隙間や草の中にまで、小さな火が揺らめいていた。
都でも似たような明かりの演出はあるが、しっかりとした造りで防火対策も大丈夫と分かるものだったから、「はなまつり」のために灯された明かりが、一体どうやって周りに燃え移らないようになっているのか、ターシャには分からなかった。
火の周りを囲んでいる、どう見ても植物の葉にしか見えないものが、その秘密なのだろうか。
都のものがどうしても無粋なものになってしまうのに比べて、明かりの道はどこまでも幻想的だった。
これは確かに気分が盛り上がるだろうな。
ターシャは他人事のように思った。
十六歳で大人になる為のこのまつりに、もちろんターシャは行くつもりはなかった。
婚約者の安否も分からないこの状況で、こんな祭りが開かれるなんて、と自分でも八つ当たりだと思いながらも、「はなまつり」が近づくにつれ、浮かれてくる村の雰囲気を苦々しく思っていた。
それなのに、今まつりに向かっているのは、蘭のせいだ。
「べつにまつりに行っても、必ず契らなければならないということはないのよ。行くだけでも素敵なおまつりよ。せっかく十六歳でこの村に来たのに、知見を広げる機会を逃してしまうの?」と半ば脅され、強制的にはなまつりの衣装を着せられてしまったのだ。
その衣装は、蘭の娘である夕がはなまつりの時に着たそうだが、娘らしく可愛いものだった。勝手に官能的な衣装を想像していたターシャは、驚いた。
蘭が織ったというその衣装は、夕陽のような朱色だったが、決して派手でも鮮やかすぎることもなく、溶けて吸い込まれていくようだった。
裾についたフリンジがまたその彩の雰囲気に合っていて、ターシャは不本意ながら、一目で気に入ってしまった。そのせいで、最後の抵抗が弱いものになってしまった自覚はある。
それに、陽の態度だ。あれから陽の態度は何も変わらない。「はなまつり」が近づいてきても、特に何を言うわけでもない。
それは拒否したターシャを気遣ってというよりは、気にしていないというのが、最も近い言葉だろう。
はなまつりに行かず、ターシャが薬師小屋にいれば、陽とターシャは何事もなく普通の一日を過ごすだろう。
それはそれで、ターシャは気に入らなかった。一体自分がどうしたいのか、目的を見失っていたが、ターシャはとにかくこのモヤモヤを吹っ切りたくて、はなまつりがどんなものか、見に行くだけ行くことにしたのだった。




