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宵の姫君  作者: さら更紗
Ⅰ 幻の村
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13/35

Ⅰ 幻の村 ー13


「陽?」

 薬草採りから帰ってくると、陽の姿が見当たらなかった。森の奥までは無理だが、小屋の周りの薬草の採取は、最近はターシャの仕事になっている。

 背中に背負(しょ)った大きな籠を土間に下ろし、もう一度外に出た。

 小屋の中で調薬作業をしているとばかり思っていたが、陽も採取をしに森に出たのだろうか?

 もしかしたら、ターシャに用事があって、探しに出たかもしれない。

 すれ違いになったのかも。

 跳ねるように外に出て、キョロキョロ周りを見ながら歩き回ってみるが、陽の姿はなかった。

 小屋で待っていれば戻ってくるだろうと思いながら、何となくあきらめきれなくて、ターシャは少し森の奥へ進んでいった。

 あまり奥まで行かなければ大丈夫。

 そう自分に言い訳しながらも、もし迷っても陽が探してくれるだろうと、どこか甘い期待も抱いていた。

 探り探り歩いていると、水音が聞こえた。

 ああ、あそこか。

 森の中の水場を、ターシャは覚えていた。

 あの場所なら分かる。わたしもなかなかやるじゃない。

 そんなことを思いながら近づいていくと、人の声が耳をかすめた。

 ああ、陽がいた、と思ったが、その声が高い女の人の声だということに気がついた。

 もちろん、針森には薬師だけが入るわけではない。

 狩りに採集に、大人も子どもも入ってくる。

 だが、こんな奥まで入ってくる村人は、そんなにいなかった。

 高い声は悲鳴にも聞こえた。ターシャは足を速めた。

 身体をかがめて灌木の隙間を抜けると、広いくぼ地になっており、そこに山から染み出した水が溜まって、小さな池が出来ていた。

 池のそばの草むらに、二つの人影を見つけて、ターシャは上げかけた声をすんでの所で飲み込んだ。

 二つの人影は男と女で、二人はほとんど服を着ていなかった。絡み合う二つの裸体の隙間で、女が掠れた高い声をあげ、ターシャは、ああ、あれは悲鳴じゃなかったんだ、と妙に冷静に思った。

 遠目でも男が陽であることは分かった。

 女が誰であるかは陽の(かげ)になって、ターシャには見えなかった。

 ターシャはその場から動けなかった。

 見たいのか見たくないのか分からないまま、ターシャは睦み合う二人から目を離せなかった。

 針森の風俗を理解していても、こんな昼間から、と反発や嫌悪を感じずにはいられなかったが、陽光に照らされた二人に、ある種の清々しさも感じていた。

 わたしはこんなところに身を潜めて、何をしているのだろう。自分がひどく惨めで醜いものに思えてきて、ターシャは一層身を縮めた。

 不埒なのは彼らではなく、自分であるような気さえしてきた。

 一刻も早くここから去るべきだ。

 分かってはいるのだが、どうしても目が離せなかった。

 やがて、二人が身体を離し、女が体を起こして初めて、ターシャはその顔が見えた。

 先日まかない所で会い、ターシャに「はなまつり」のことを教えた、(ほう)という人だった。

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