Ⅰ 幻の村 ー13
「陽?」
薬草採りから帰ってくると、陽の姿が見当たらなかった。森の奥までは無理だが、小屋の周りの薬草の採取は、最近はターシャの仕事になっている。
背中に背負った大きな籠を土間に下ろし、もう一度外に出た。
小屋の中で調薬作業をしているとばかり思っていたが、陽も採取をしに森に出たのだろうか?
もしかしたら、ターシャに用事があって、探しに出たかもしれない。
すれ違いになったのかも。
跳ねるように外に出て、キョロキョロ周りを見ながら歩き回ってみるが、陽の姿はなかった。
小屋で待っていれば戻ってくるだろうと思いながら、何となくあきらめきれなくて、ターシャは少し森の奥へ進んでいった。
あまり奥まで行かなければ大丈夫。
そう自分に言い訳しながらも、もし迷っても陽が探してくれるだろうと、どこか甘い期待も抱いていた。
探り探り歩いていると、水音が聞こえた。
ああ、あそこか。
森の中の水場を、ターシャは覚えていた。
あの場所なら分かる。わたしもなかなかやるじゃない。
そんなことを思いながら近づいていくと、人の声が耳をかすめた。
ああ、陽がいた、と思ったが、その声が高い女の人の声だということに気がついた。
もちろん、針森には薬師だけが入るわけではない。
狩りに採集に、大人も子どもも入ってくる。
だが、こんな奥まで入ってくる村人は、そんなにいなかった。
高い声は悲鳴にも聞こえた。ターシャは足を速めた。
身体をかがめて灌木の隙間を抜けると、広いくぼ地になっており、そこに山から染み出した水が溜まって、小さな池が出来ていた。
池のそばの草むらに、二つの人影を見つけて、ターシャは上げかけた声をすんでの所で飲み込んだ。
二つの人影は男と女で、二人はほとんど服を着ていなかった。絡み合う二つの裸体の隙間で、女が掠れた高い声をあげ、ターシャは、ああ、あれは悲鳴じゃなかったんだ、と妙に冷静に思った。
遠目でも男が陽であることは分かった。
女が誰であるかは陽の陰になって、ターシャには見えなかった。
ターシャはその場から動けなかった。
見たいのか見たくないのか分からないまま、ターシャは睦み合う二人から目を離せなかった。
針森の風俗を理解していても、こんな昼間から、と反発や嫌悪を感じずにはいられなかったが、陽光に照らされた二人に、ある種の清々しさも感じていた。
わたしはこんなところに身を潜めて、何をしているのだろう。自分がひどく惨めで醜いものに思えてきて、ターシャは一層身を縮めた。
不埒なのは彼らではなく、自分であるような気さえしてきた。
一刻も早くここから去るべきだ。
分かってはいるのだが、どうしても目が離せなかった。
やがて、二人が身体を離し、女が体を起こして初めて、ターシャはその顔が見えた。
先日まかない所で会い、ターシャに「はなまつり」のことを教えた、萌という人だった。




