表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宵の姫君  作者: さら更紗
Ⅰ 幻の村
PR
11/33

Ⅰ 幻の村 ー11


「君が最近、陽のところに来たっていう人?」

 自分に目を向けられて、ターシャはベトベトになった手を広げたまま、慌てて立ち上がった。

「はい!ア、杏と申します」

 癖で膝を折って挨拶しそうになって、慌てて頭を下げてお辞儀をする。

 ターシャの勢いに、洋の方が驚いたようだった。

 ハハハと笑って、「元気だねぇ」と評している。ターシャは助けを求めようと陽をチラリと見たが、陽は腹を押さえて笑っていた。

「大変でしょう。こんな偏屈者と一緒にいたら」

 洋は濡れた布をターシャに渡しながら、そう言った。

ターシャは一瞬何かと思ったが、脂で汚れた手を拭くために渡してくれたのだと気が付いて、ありがたく受け取り、指を拭った。

 それにしても自分の親ほど年上の人から、偏屈呼ばわりとは、やはり陽は変わり者なのだ。

陽は「ひどいなぁ」と言いながらも、笑っている。どうやらその自覚はあるらしい。

「あら、陽じゃない。珍しいわね」

 今、まかない所に入ってきたばかりの女性が、陽に気が付いて声をかけてきた。

 陽と一緒にターシャが振り返ると、陽と同年代の女性が目を丸くして、ターシャを見た。

「しかも、知らない女の子連れてる」

 思ったことをすぐに口に出してしまうたちなのか、ターシャを目にした途端、驚いた顔でそう言った。

「やあ、(ほう)、久しぶり」

 陽は親し気に彼女に応じた。

 当たり前のことだが、陽が蘭や信以外の人間と普通にしゃべるのを目の当たりにして、ターシャは少しだけドキンとした。

 萌と呼ばれた女性は小柄で目が大きく、クルリと大きく巻いた髪が耳の下で揺れていた。

 陽には陽の生活がある。ターシャとの関りが全てなわけではない。

(あん)だよ。針森で遭難していたところを、たまたま俺が見つけたんだ」

 確かにそのままの事実を陽が口にしたので、ターシャは驚いた。なんとなく、自分のことは秘密だと思っていたのだ。「杏」と名乗ろうと言い出したのだから、尚更だ。

「そうなんだ。大変だったね」

 だが、萌はそう労わっただけだった。

 すぐに洋と同じように、陽の「変人ぶり」を暴露し、杏に気を付けるように念を押すと、薬師として弟子入りするのか、真剣な顔で訊いてきた。

 表情がクルクル変わる人だ。自分も喜怒哀楽が激しいと言われるが、この人はもっとだろう。

 そう思いながら、若干ターシャが気圧されていると、萌は「あ!」と何かを思いついて、飛び跳ねた。

「杏ちゃん、歳いくつ?」

「十六です」

 ターシャが答えると、萌は急に慌てだした。

「十六?もうすぐ、はなまつりじゃん!どうするの?」

「はい?」

 ターシャが聞き返すのに一歩遅れて、陽の「あー」という声が聞こえた。陽を見ると、口を開けて天を仰いている。

「そうか、杏、十六だったか」

 そう言えば、年齢をはっきり伝えてはいなかった。そもそも訊かれなければ、わざわざこちらからは言わないだろう。

 ところが萌は心から呆れたように、「あんたねぇ」と陽を詰っていた。

「年頃の子を預かっているのに、それはちょっとないんじゃない?」

 それからターシャの方に向き直ると、顔を近づけてきて、真剣にこう尋ねてきた。

「杏ちゃん、もう大人になってる?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ