Ⅵ 断罪 ー8
「懐かしい光景ですねぇ」
崖の下に見えるガザ兵士の姿に、信はおどけるように言った。
「それは嫌味か」
苦い顔をするコルニクスに、信は「嫌味くらい言わせてください」と、ちらりとも顔を見ないで言った。
昔のことだからと忘れるには、深い傷痕を残した事件は、今でも時折その痕跡を露わにする。
針森の端から崖になっており、その下にも森が広がっているが、そこはガザ帝国領となる。つまり針森はガザ帝国とアウローラ公国の国境となるのだが、そこから帝国軍が侵入し、針森の村が炎に包まれた事件があった。
村に火をつけたのは、村が帝国の駐屯地になることを恐れた村人であったが、その行動も公国からの圧力があってのことだった。
もう過ぎたこととして、恨み言を口に出したりはしないが、少々当てこすってしまうのは仕方ないだろう。
「あれは……遜の兵か?」
尋ねるコルニクスに、信はあきれ顔で答えた。
「俺はもう善良な針森の村民ですよ。どこの兵かなど、分かるわけがないでしょう」
「おっ、あちらにもいるな」
信が言うのを無視して、別の方向に潜む一団を指さす。
信はつられてそちらに目を向けた。
「ああ、あれは崑の者ですね。隠密の者だ。あの動きには見覚えがあります。何人かで陣形を組んでいるところを見ると、兵を動かす代わりに、隠密を集団で派遣したのでしょう。隠密どもの距離の取り方を見ると、やはりあちらの兵団は遜の者でしょうか。近衛兵や駐屯兵とは違う。私兵でしょう。允の者はすでに対処済みですので、残っているのは遜になりますね」
しゃべるだけしゃべってしまって、自分の顔に注がれる視線に気が付いて、信は嫌そうに元上司の顔を横目で見た。
コルニクスはニヤニヤと笑みを浮かべて、頷いた。
「素晴らしい洞察力だよ、善良な針森の方」
先ほどの嫌味の仕返しか。これは何を言っても駄目だ。信はあきらめて、コルニクスのニヤニヤ笑いを無視することにした。
「公国の不届きものたちも、向かってきていますか?」
公国とガザの両方から攻め込まれると、さすがに厳しい。
村の中に公国の間者というか、情報屋が入り込んでいるのは分かっていた。その者たちが雇い主のところに戻ってから、雇い主が送り出した者たちが村に到達するまで、どのくらい時間がかかるか。
それは雇い主の本気度にもよる。新しい麻薬の噂に、どのくらい食いつくか。
陽はそれを狙ったのだろう。邪な者をこの村に集めて、一網打尽にする。だが、肝心の、どうやって一網打尽にするつもりなのかが分からない。
まさか、村を犠牲にして、ということはないだろうが。
「今、公国はそれどころではないだろうよ」
珍しくコルニクスが、悪そうな顔で笑った。
「行方不明だったアラン様が見つかったからな」




