Ⅵ 断罪 ー9
とうとうなのか、やっとなのか、ユースティスは自分の心を量りかねていた。
自分が率いているというよりは、周りを囲む兵たちに、自分が連れていかれる錯覚に陥った。
アラン大公が見つかった。
その一報を聞いたとき、ユースティスは鈍器で殴られたような気分になった。
驚いたからではない。
この瞬間をおいて他にはないというほどの、絶好のタイミングだ。
他の者に先んじて情報を手に入れ、一番に駆け付けられる。さらには慌てたその他の悪者が、取るものも取りあえず、後に続くだろう。
アラン大公を捕らえ、功労者としてこの国の覇権を握ろうと、光に集まる害虫のように、アラン大公の元に集うだろう。
さあ、とユースティスは一人の少女に、心の中で語りかける。
自分の願いを叶えるべく、いつも先を見ている少女。出会った時から、その熱量に自分は魅了されていた。
さあ、害虫どもの首を獲れ。
我らの首を掲げ、栄光の道を行け。
桂妃庭が見えてきた。
この国が太陽神国からアウローラ公国になった時、かつて夜の君と呼ばれた太陽王の妃が、王宮から移り住んだ場所だ。
それから夜の君は桂宮と名前を変え、ひっそりと生きているはずだ。死んだという知らせは聞いていないから、おそらくまだ生きているだろう。
だが、それも定かではない。それだけ、夜の君もこの場所も打ちすれてられた場所だった。
大公が桂妃庭にいるという情報は、誰しもその真偽を疑うだろう。なぜなら、アラン大公と夜の君は、互いに憎みあうほど、嫌いあっていたからだ。
夜の君は、大公がまだ王太子だった時、他の者を使って、彼を暗殺しようとしたことがあった。暗殺は一度きりで、未遂に終わり、夜の君への追及はうやむやになったが、それ以来も彼女の態度は変わらなかった。
アラン大公の方も、夜の君が追い出されるように桂妃庭に移ることになった時、止めることなくただ見送った。その時、夜の君についていったのは、女官ただ一人だったという。大公がそれ以上は許さなかったという噂もある。
追われたアラン大公を、もし夜の君が見つけたとしたら、喜んで破滅へと差し出すだろう。
だから、そんなところに大公が匿われているとはだれも思わない。そもそも、夜の君の存在が皆の記憶から、ほとんど消えかかっている。
「あれか」
陽がターシャの隣で馬を駆けながら、声を上げた。
庭園というが、元王妃の庭園にしては、質素でひっそりとしていた。
「そうね」
答えながらターシャはぎゅっと手綱を握った。
もうすぐ、ユースティスもこちらに来るはずだ。
ユースティスは文官だ。自分の兵を持っていないわけではないが、規模は小さい。自ら駆けつけようとする主に、側近たちは驚いただろう。
うまくごまかせたのかしら。
そういうところが、ユースティスは甘いと思う。
確実に事を成したいのなら、軍に顔が利く父親をけしかけて、軍を動かすべきだ。そうすれば、ターシャがガザの力を借りてでも、ラウルと一派を一網打尽に出来る。うまくやれば、ユースティスはその後の難を逃れることだってできるかもしれない。
だが、それをしないのは、軍同士の戦いとなれば規模が大きくなるし、ターシャがガザに負債を背負わされる可能性があるからだ。
それと後は、こちらの方が理由としては大きいのかもしれないが、自分が全てを背負いたいから。
本当に甘ったれで、潔癖すぎだ。
だが、ターシャはユースティスのそこが好きだった。
遠くに馬群が見えた。やはり少人数だ。
それでわたしに勝てると思うな。
ターシャの一団は、ユースティスたちより早く、桂妃庭に飛び込んだ。




