7 ネクロフィリア
ラルフと名乗った墓荒らしの犯人は、警察の監視の下近くの病院に運ばれた。
額を怪我していた上、彼の精神状態が危ぶまれたからだ。
ラルフが確保された翌日、スタンフォード警部補はカメリアに詳細を知らせてくれた。
ラルフは、行方不明になっていたコンラート氏の使用人だというのだ。
墓荒らしの犯人は、あの古城で姿を消した男だったのだ。
カメリアと私は、ラルフに話を聞きに行くことにした。
私たちが病室の扉を開けたとき、ラルフは「それ以上近づかないでくれ!」と悲痛な声で叫んだ。
「突然押しかけてごめんなさい。
お体が優れないようでしたら、日を改めますわ。」
カメリアが謝ると、ラルフは「違うんだ、体は平気だ…。」と首を振った。
「おれは、女が怖いんだよ…。」
ラルフはきょろきょろと落ち着きなく視線を動かした。
「おれは生まれてこの方、ずっと女に怯えていたんだ…。
顔を見るだけで、怖くて怖くて…。
ずっと女を避けて生きてきたんだ…。」
ラルフの話す語尾は震えており、彼の視線は一度もこちらに向けられることはない。
私とカメリアという2人の女性の来訪を受け、彼は極度の緊張に晒されているようだ。
「あの城で彼女に会ったとき、初めて女を綺麗だと思ったんだ。
彼女をじっと見ても、ぜんぜん怖くなかった。
おれは気づいたよ、怖くないのは彼女が死んでるからだって。」
ラルフはひどく恥ずかしそうに顔を赤らめた。
「死んだ女なら怖くないのかと思ったから、他の死体も見たくなった。
だけどどうしても見つからないんだ、あんな綺麗な死体は…。
彼女の血の気のない肌は滑らかで、甘い匂いがして…。」
「そこまでで結構ですわ。
私は貴方のご趣味についてお伺いしたいわけではないので。」
ラルフが「ひっ」と小さな悲鳴をあげたが、カメリアはかまわずに話を進める。
「私がお聞きしたいのは、貴方があの古城で何を見たのか、ですわ。
貴方が見たのは、その女性の死体だけですか。」
「いいや、女がいた。」
ラルフも崩れた顔の亡霊を見たのだろうか。
しかしラルフは、女性の顔が崩れていたかはわからないと言う。
「言っただろ、おれは女が怖いんだよ。
顔なんかまともに見れるものか。
最も、おれにとっちゃどんな顔をしていようが女は怖いけどな。」
カメリアは、「その女性はどこにいたのですか。」と聞いた。
「おれが横たわる彼女を眺めていたら、後ろから女の声がしたんだ…。
振り返ったら女がいた…。
それで、そいつが…。」
ラルフの身体はかたかたと細かく震える。
思い出すのも恐ろしいと言うように。
「女性は何をしたのですか。」
「いきなりおれの額を殴ったんだ…!」
ラルフの額の怪我は、古城の亡霊によるものだった。
殴られたことでラルフは気を失った。
目覚めたとき、彼は森の中にいたという。
「幽霊に城から追い出されたのでしょうか。」
けれどカメリアは、「それは違いますわ、ヒルダ。」と微笑む。
「あの古城にいるのは、幽霊などではありませんわ。」




