6 闇夜の墓地
月明かりもささない夜だ。
墓地は静寂に包まれていた。
湿った夜風が草はらを撫でるさわさわという音だけが響いていた。
私とカメリアは、誰のものとも知らない墓石の影に潜み、墓荒らしの犯人がくるのを待っていた。
暗闇の中では視界が悪く、スタンフォード警部補と彼女の部下の姿は確認できない。
本当はこの墓地には誰もいないのではないか、とそんな不安がよぎる。
がらがら、がらがら。
遠くから、金属がぶつかり合う音が聞こえた。
音は下の方から坂道を登ってこちらに近づいてくる。
私は音がした方向に目を凝らした。
ゆらゆらと赤い炎が浮かんでいた。
松明の炎だ。
松明を持った人間が、金属の音を立てながら坂道を登ってきている。
やがてその人物は、輪郭が見える距離まで近づいてきた。
ひどく痩せた男だ。
右手に松明をもち、左手で鶴橋とショベルを引きずっていて、それらがぶつかり合ってがらがらと音を立てているのだ。
男は墓地に入ると、墓石をひとつひとつ眺めはじめた。
松明の明かりを頼りに、墓石に刻まれた文字をじっくりと読んでいる。
「こいつは駄目だ、男だ…。
隣は…女だが年を取りすぎだ…。」
しゃがれた低い声で男が呟く。
男は今夜掘り起こす墓を吟味しているようだ。
やがて男はひとつの墓に目星をつけると、ショベルに足をかけた。
ざく、ざく、ざく。
男は一心不乱に墓を掘り起こす。
はねた土が顔にかかるのにも構わずに、男はひたすら掘り続ける。
だから男は、背後に現れた人物に気が付かなかった。
肩を掴まれ、初めて男は自分以外の人間がいたことを知った。
「失礼、私は警察のものです。
ここ数日目撃されていた、墓を荒らす不審な人物とは貴方のことですね。」
スタンフォード警部補は威厳ある声でそう告げた。
「離してくれ!」
男は金切り声で叫び、スタンフォード警部補の手を振り払った。
しかし、すでに警官たちが彼を囲み逃げ道を塞いでいた。
「ただおれは…探していただけなんだ…。」
警官の持つ明かりが男の顔を照らす。
ぎょろぎょろと動く大きな目。
髭の生えた細い顎。
それから、割れた額。
そこから流れた血がべっとりと顔を汚し、赤黒く乾いていた。
「おれはただ、もう一度会いたかったんだよ…。
あの城で見たような、美しい死体に…。」
男は聞き取りづらい、くぐもった声でそう言う。
男はどこか恥じらうような様子だった。
「お名前をお聞かせ願います。」
スタンフォード警部補が男に問う。
男は視線を泳がせながら答えた。
「ラルフだ…。
おれはラルフだ…。」




