5 墓荒らし
私とカメリアが教会を後にした時、空は茜色に染まり始めていた。
行きと同じ、足場の悪い細道を降りながら、私はカメリアに話しかけた。
「ミヒャエル神父の古城を訪れた際の体験は、コンラート氏の使用人の体験と酷似していましたね。」
2人は眠っているように見える美しい死体を発見した。
そしてその後、崩れた顔に変化した亡霊に会っている。
「ミヒャエル神父は、崩れた顔の女性を己の恐怖心が見せた幻だとおっしゃった一方で、眠るような遺体は現実だと認識していましたわ。
クラウゼ伯爵令嬢クリスティーネだと確信しておられました。」
クラウゼ伯爵令嬢の遺体があったからこそ、彼女との婚姻をはかったゲラルトは破門されたのだ。
少なくともあの城に遺体があることは事実なのだろうか。
「ミヒャエル神父が古城を訪れたのはクリスティーネが亡くなってすぐだったなら、彼女の遺体が眠っているようにみえてもおかしくはありません。
しかし、5年経っても同じように綺麗な状態のままということはあり得ないのではないですか。」
5年の歳月の中で、遺体は腐敗し白骨化する。
生前がどれほど美しかったとしても、死後の肉体は変わり果ててしまう。
カメリアも「命がつきたその瞬間から、肉体は変化し続けるものですわ。」と言う。
5年経っても美しいままなのは、怪異故か、それとも。
下り坂が墓地に差し掛かったとき、私は墓地の様子が先ほどから変わっていることに気づいた。
行き道では物静かだったその場所に、何やら大勢の人影がある。
その中に、見知った顔の女性を見つけた。
「スタンフォード警部補ではありませんか。」
女性は私の声に気づき、こちらに会釈した。
「お久しぶりです、カメリア様、ヒルダさん。」
スタンフォード警部補は、熟練の女性刑事である。
彼女は以前、カメリアと共に幾つかの事件を解決している。
それらの事件を通して、スタンフォード警部補はカメリアを信頼してくれている。
「スタンフォード警部補は、どうしてこちらに?」
スタンフォード警部補は、「この近辺で発生している墓荒らしを調査しに来たのです。」と言う。
「墓荒らし、ですか?」
「2週間ほど前から、夜中に何者かが墓を掘り起こし棺を開ける事案が多発しているのです。
犯人は若くして亡くなった女性の墓を狙っているようです。」
墓を暴くなど、死者に対する冒涜だ。
見知らぬ者の墓を掘り起こしているなら、目的はなんだろうか。
「近隣の住民の目撃証言によれば、犯人は痩せた男で、顔に大きな怪我をしていてまるで崩れたようにみえるそうです。」
また、女の死体と崩れた顔だ。
私はカメリアの方を見やった。
カメリアも同じ事を考えていたようだ。
カメリアは、「2週間前というと、コンラート氏の2人の使用人が古城を訪れた直後ですわね。」と言う。
「我々警察はこのまま墓地で夜を待ち、犯人を捉えるつもりです。」
スタンフォード警部補の言葉を受け、カメリアは「私もご一緒させてはいただけませんか。」と頼んだ。
「もしかしたら、墓荒らしはあの古城の幽霊と関係しているかもしれませんわ。」




