4 冥婚
「あれは5年前のことです。」
ミヒャエル神父は声を落として語り始める。
「お一人で教会に来られたハーン男爵、いえ、ゲラルト様が、クラウゼ伯爵家のご令嬢クリスティーネ様と結婚すると申されました。」
しかしゲラルトは、教会にて誓いを立てることはしないと言った。
「クリスティーネ様は重い病にかかっているため教会に来ることができない、とゲラルト様は言ったのです。」
式を挙げることはできないが、結婚の証人になってほしいとゲラルトはミヒャエル神父に頼んだ。
ミヒャエル神父は、病に伏せったクリスティーネを不憫に思った。
「クリスティーネ様はご家族を相次いで亡くされたばかりだと風の噂に聞いておりましたから。
ご両親と義兄を事故で亡し、姉も行方がわからず、クラウゼ伯爵家の人間はクリスティーネ様だけになってしまわれた。
病にかかったのもその悲しみのためだろう、と私は胸を痛めたのです。」
ミヒャエル神父は善意から、クリスティーネのために祈りを捧げようと彼女に会いに行くことにした。
そして彼は、あの古城を訪れた。
「ゲラルト様はクリスティーネ様と、彼女の生家で暮らすのだとお聞きしていました。
けれども私が訪れたとき、ゲラルト様は居られないようでした。」
屋敷には使用人すらいなかった。
誰かいないのか、と屋敷をさまよったミヒャエル神父は、ついにその部屋にたどり着いた。
「最初は、クリスティーネ様は眠っておられるのかと思いました。
青ざめた、血の気のない顔でございました。」
祈りを捧げようと、彼女の手を取ったミヒャエル神父は驚愕する。
その手は、氷のように冷え切っていた。
「クリスティーネ様は、亡くなっていたのです。
ゲラルト様は神を欺き、死者と誓いを立てようとしていたのでございます。」
ミヒャエル神父は司祭にゲラルトの罪を報告した。
教会の禁忌を犯したゲラルトは、司祭により破門された。
「少しお聞きしても宜しくて?」
ミヒャエル神父の話に真剣に耳を傾けていたカメリアが申し立てた。
「貴方がご覧になったクリスティーネ様の遺体はどんな様子でしたの。」
「先ほど申し上げた通り、眠っているかと思うほど綺麗な状態でした。」
「彼女の顔は崩れていなかったのですね。」
カメリアの言葉に、ミヒャエル神父は身体をこわばらせた。
「ご遺体の顔は、崩れていませんでしたが…。」と言い淀む彼の目は揺れ動く。
「貴方は、あの城で何を見たのですか。」
ミヒャエル神父は懺悔するかのように重い口を開いた。
「お恥ずかしながら、あの時の私は神職について日が浅く未熟だったのでございます…。
ですから、恐怖に惑わされ幻を見たのです…。」
教会の教えでは、幽霊の存在を認めていない。
故にミヒャエル神父は己が見たものを幻だったと言っているのだ。
「その幻は、どんな姿でしたの。」
「赤黒く崩れた、痛ましい顔が私を見ていました…。」




