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処刑少女VSスパイ少女(手描き挿絵あり)  作者: azakura
【1章】《反旗》のエルゼ
4/7

1-3

 ロボットに捕らえられたエルゼは駆け付けた公安の者に逮捕され、二日間の勾留後に検察が起訴し、さっそく裁判が始まった。勾留時、対面での取り調べはなかった。ヘルメットのような装置を着けられて睡眠薬を飲まされ、動機や目的など抜き取られた情報を本人確認されただけだ。嘘はすぐに見破られるようで、事実のみが捜査機関側に伝えられてしまった。


 エルゼは『スパイ罪』の容疑で起訴された。


 裁判では人間の弁護士がエルゼに付いた。科学の街とはいえ、そこはコンピューター任せではなかった。同じく人間が担当する検察と、まるで手続きのように淡々と会話が交わされ、わずか三日間の裁判でAIと人間が判決を下した。


『スパイ罪』が認定され、死刑判決が下された。


「私は十六歳です。十八歳未満での犯罪は国際法で死刑が禁止されています。それにAIが判決を下すことにも納得いきません。しょせんブラックボックスではないでしょうか。はっきり言います。この判決はありえません」


 面会する弁護士に伝えた。

 だが、弁護士は申し訳なさそうに首を横に振る。


 ――『スパイ罪』は《加速する科学の不夜城(イマジナリーパート)》で制定された厳格な条約で、街ではいかなる情報も特区の機密情報として扱われる。街に悪意を持って潜入し、情報を盗み、外国に流すのは何人であっても、たとえ未成年の者でも許されない。特に軍需産業にも手を広げているフォーゲルグループに情報が渡り、かつて小国を堕としたり、軍隊に亀裂を与えたりしたスパイ組織が手にするなど言語道断。過去、街は海外から幾多の諜報行為を受けて研究成果が流出した痛い過去があり、安全保障上の危機にも繋がるため、スパイ行為に対しては非常に厳しくせざるを得ない事情があった。そのため、最高刑の死刑が未成年のエルゼにも容赦なく適用された。


 ――AIの裁判官については、過去あらゆる刑事裁判を学習したAIが下す判決はほぼ百パーセントの精度を誇ると研究で証明されており、また、裁判にてAIが導入される議論は住民投票でも三分の二以上の賛成を得ている。最終的には人間の裁判官がジャッジするため、AIに関するエルゼの主張も退けられた。

 それでも国際法を盾に無罪を勝ち取ってみせると、弁護士は控訴を検討する旨をエルゼに伝えてくれた。

 結論、控訴審は開かれたのち二日で判決が下され、――一審の判決を支持。即座にエルゼは上告を申し立てたが、それは六時間後に棄却された。


 死刑が確定した。


       ◇


 刑の執行まで拘置所で待機することになり、そして今に至る。

 エルゼは抱える膝をぎゅっと抱き寄せた。まるで小さい子供が母親にすがるような力で。

 いつ刑が執行されるかは伝えられない。自殺を防ぐためだ。

 仲間の助けの気配もない。狭い独房の中で、隣り合わせの死の恐怖が彼女の心を蝕んでいた。


(共犯が捕まらない限り執行されることはないと弁護士は言ってたけど……)


 未成年が死刑囚になっている事実がありえないので、弁護士の言葉に説得力はなかった。


「――エルゼ・フォーゲル。出なさい」


“儀式”の開始は前触れもなく訪れる。


「……?」


 刑務官が柵の前に立っていた。それも、五名。

 エルゼの背中に冷たいものが流れた。

 教誨師と面会する、外で運動する時など、独房の外に出る時に刑務官に呼ばれることは日々経験している。時刻が決まっているのだが、今はその決まった時刻から五時間も前で、朝早い。


(まさか)


 黒目が白目の中をふらふら泳ぐ。血圧が落ちる。それでもエルゼは抵抗せず、刑務官たちに黙って付いていかざるをえない。

 冷たい廊下を歩き、刑務官が扉を開けると、ゆったりした黒いガウンを身に纏う、よく知った教誨師がエルゼを出迎えた。


「うそ……」


 察した。

 察して。


「これから刑を執行する」


 刑務官が伝えた。


 十畳ほどの密室の教誨室にて。

 椅子に座り、テーブルを隔てた対面で教誨師から話があったが、一言も頭に入らない。横には金ぴかに輝く仏壇があった。これから命を引き換えに罪を償う自分のためのもののようで、その存在が怖かった。饅頭など甘い和菓子を差し出してくれたが、甘いものが大好きのエルゼでもそれを口に入れる気が起きず、一口たりとも手が付けられなかった。遺言を書く時間が与えられたが、何も書けなかった。そして最後は何かを祈らされた。


 前室と呼ばれる、執行室の手前の部屋に連れていかれた。初老の拘置所長の男が待機していた。書類を手に、街の公安組織の長の命令で刑が執行されることを正式に読み上げられる。国の法務大臣ではなく、最終権限はあくまで街の公安にある。

 エルゼの顔に血の気はなかった。

 相手を騙すための狡猾な演技は得意だが、この顔色と生気の抜けた表情は決して演技ではない。

 少女は絶望に染まっていた。

 そして三人の刑務官がエルゼを囲み、手錠をかけ、目隠しを施し、身体をロープで拘束しようとする。


「いやぁぁ!!」


 エルゼはボブの髪を振りまき、精一杯に身をよじって抵抗した。

 落ち着きなさい! 痛みはない! すぐ楽になる! 刑務官はエルゼを抑える。


「離して! 触るな! 死にたくない! 死にたくない!!」


 甲高い悲鳴が部屋に響き渡った。


「気持ちはわかるが、これは君が向き合わなければ――……」


 拘置所長が諭すように告げた、その時のことだった。


「刑の執行、待ってほしい」


 聞いたことのない男の声が割り込んだのだ。刑務官がピタリと手を止める。


「あ、あなたは……なぜ、ここに?」

「彼女の拘束を解いてやってくれないか」

「は、はい!」


 手錠、そして目隠しが外される。

 目に光の戻ったエルゼの目線に立っていたのは、三十代だろうか、整えた口ひげと顎ひげを生やした、キリッと顔立ちの整った黒スーツの男だ。肌の皺などは三十代のようだが、その貫禄には四十代、もしくは五十代とも思わせるような佇まいがある。


「私が執行命令を出した手前で申し訳ないが、撤回する。エルゼ・フォーゲルの刑の執行は――先延ばしだ」


 男は拘置所長に告げると、冷や汗で頬と髪を濡らし、生来の赤い瞳を見開きながら呼吸を荒げるエルゼに、


「私に付いてきなさい」

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