表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
処刑少女VSスパイ少女(手描き挿絵あり)  作者: azakura
【1章】《反旗》のエルゼ
3/8

1-2

 フォーゲル氏ら上層部の指示を仰ぎ、そしてチームの指揮を務める序列1位の三女・レイから伝えられた任務。


 《加速する科学の不夜城(イマジナリーパート)》。

 日本の東京湾の海底をくり抜いてできた街だ。正式な名は“日本技術革新(にほんぎじゅつかくしん)特別(とくべつ)行政(ぎょうせい)()”だが、そんな堅苦しい呼び方は誰もせず“イマジナリーパート”という愛称で呼ばれている。


「複素平面の虚部が愛称なのも堅苦しいとは思いますけどね。理系の街らしいとは思いますが」


 とあるビルの屋上から、風に煽られながら宝石のように輝く街を眺め、エルゼは独り言のように呟いた。

 さしずめ、現実とは別次元にある世界を言い表しているのだろうか。


「まさにSF映画で見るような都会具合ですけど」


 時折手で遮りたくなるくらいにネオンでギラついている。

 ビルが建ち並び、ビルに張り付いた大型のディスプレイには『データセンターの冷却効率を従来の二倍に引き上げる新たな研究』というテーマのニュースが、滑らかな女のAI音声で流れている。目線を下ろすと、ビルの合間の道路では大小様々なロボットが徘徊していた。清掃をしたり道案内をしたり、自動販売機を担ったり。


「ほんときれ~。これがジャパニーズ的“映え”ってヤツ? 星空も本物みた~い」


 煌めくネオンにうっとり目を輝かせるのは次女のルシア。ちなみに今の任務の際には、彼女らはドイツ語で会話している。

 時刻は午後二時過ぎ。しかし空には満天の星空が輝く。


「ドーム型の街なので、プラネタリウムのように天井に照らされているんですよね。太陽も昇らないので一日中夜なのは好みが分かれると思いますが」

「夜のほうが仕事捗るよね。私はなんか夜のほうが好きかも」


 としたうえで、性格はどちらかといえば太陽寄りのルシアは、


「初めて来たけどまさに圧巻だよね。任務でよく香港に行くけど、それ以上の景色がこの国にあるとは」

「中でもあの一番高い塔が〈オリオンタワー〉。街のネットワークを管理している電波塔で、そのネットワークがあらゆる技術の基礎だとは聞いてる」


 IT技術に長けた七女のセレナが、塔を見上げてしみじみ呟いた。

 今回は日本語に長けたエルゼに加え、ルシアとセレナの三名で街に潜入した。


「今回の任務の目的はわかっていますよね? ルシア、言えますか?」

「あのー、お姉ちゃんをバカにしてる?」

「理系案件ですからルシアには難しいかもしれないと思いまして」

「えっと、えむあーる、だよね? 拡張現実と仮想現実の技術を組み合わせたヤツ。“複合現実”って技術」


 ルシアはたどたどしいが答える。


「そうですね、MRで正解です。さらに言うと、MRの技術を用いた《拡張戦線》という体験型のゲームに関わる情報を盗み出す、というのが本題です」

「本当に街そのものが舞台になるって。現実(リアル)の街にデジタルのモンスターを出現させてプレイヤーが倒していく、という」

「そうそう。なーんかウチのゲーム事業で取り入れたいらしいんだよね。ゲームのためにウチらがわざわざ動くのも癪なんだけど」

「ゲームだけではありませんよ。たとえば――……」


 現実にデジタル情報が付与されるので、たとえば工場の現場では、機械の操作手順を実物に重ね合わせながらタイムリーに表示できる。建築現場では、3Dモデルと設計図を表示しながらその場で確認と修正ができる、など。エルゼは説明した。


「なるほど~って、そういうのはセレナが説明しないとダメなんだよっ。《楔》のIT大臣でしょ?」

「ご、ごめん……」

「セレナ、謝らなくていいですよ。……あなたが目上なんですから」


 そう言うエルゼ(序列2位)の口元に、わずかながら小馬鹿にしたような歪んだ笑みが出るのを、ルシア(6位)は見逃さない。エルゼの頬をつねる。


「痛いですぅ~、別にバカにしたわけじゃないですってぇ~」


 七女だが序列は3位。姉たちの空間に溶け込めきれないながらも、セレナは次のように補足する。


「MRがあればスマホを手にしながらの作業が減らせる。街が関与するレベルの技術を持ち帰られればグループに大きな利益をもたらせるはず」

「そういうことなので気を引き締めていきましょう」


 ルシアを引き剥がしたエルゼは、


『街には無事に潜入できました』


 ドイツの本部にいる司令塔のレイにメッセージを送る。ルシアが開発した暗号化アプリだ。エンドツーエンド暗号化という気密性の高い技術を用いており、本部に設置されたサーバーにてデータが管理される。なおかつ一定時間経過後にデータが消えるようになっており、いくら科学技術に特化した《加速する科学の不夜城(イマジナリーパート)》といえども、メッセージを盗聴されることはないはずだ。


『潜入の際に気がかりはなかったか? 怪しまれたとか、些細なことでもいい』


 一分以内にレイからメッセージが返ってきた。


「んー、すんなり潜入できたよね。えってカンジで」


 ルシアは答えて、セレナも縦にうなずく。


「かえってそれが不気味なんですけどね」


 エルゼが報告すると、レイも『逆に怖いよな。ヤバすぎる街だから簡単にいくとは思うなよ。打ち合わせた手順を何度でもおさらいするように。気を引き締めていこうぜ』と返してくる。

 この任務の前に、『これまでで一番難しい任務になるかもな』とレイは言っていた。


(偽装したパスポートと観光目的であることを伝えたらすんなり来れたけど……。スタッフも平和ボケした顔立ちで、まさに平和な国に相応しい雰囲気。が、どうなるでしょうか)


 結果的にレイの警戒は当たった。


「マズッ、ロボットが増えてるって!」


 ルシアはロボットに拳銃を構えて発砲するが、樹脂製のような素材なのに、銃弾を食らってもまるで金属のようにビクともしない。


「こちらも行き止まりです!」


 汗を撒いたエルゼは別の道を見つけるも、すでに丸い警備ロボが先回りしていた。

 研究室の潜入まではうまくいった。街の高校生数名が研究室を見学する予定であることをエルゼが事前調査で探り、セレナがデータベースに不正アクセスして見学者のリストを入手。ルシアが参加予定の女子高校生を学習室に誘い込んで制服を盗み、エルゼが制服を着て高校生として研究室に潜入。見学中にこっそり抜け出したエルゼは他の二人を建物に招き、サーバーを見つけて手持ちのデバイスと接続したまではよかったのだが。

 それぞれの技術を駆使しての潜入は、まさに《楔》のスキルによる賜物だと考えていた。


 否――それは油断を誘うもので、結論――わざと誘い込まれた。


「エルゼ、逃げて! 私たちが囮になる!」

「うん、逃げて!」


 ルシアとセレナは強く言い放った。


「……っ、絶対に捕まらないでください!」


 《楔》にはいくつかのルールがある。

 チームには七名いるが、実績やスキルなどを総合して、上層部によって“序列”が決められている。ルールの一つ、もし複数名が捕らえられる場合は序列の高い者を優先して逃がす。今回はエルゼが2位、セレナが3位、ルシアが6位。

 とはいえ、エルゼは歯噛みする。本来は最高位の自分が任務の成功を導かなければならないのだ。

 エルゼは二人が抵抗する合間に背を向き、前を走り出した。


 だが、


「エルちゃん!」

「エル姉ちゃん!」


 二人が咄嗟にエルゼに伝える。


「なっ!?」


 ロボットは立ち向かおうとする二人を無視して、なぜかエルゼを追ってきたのだ。


(優先して……私を追ってる? まさかッ。……まさか序列が、割れてる?)


 ルシアの発砲などロボットは気にしない。セレナは近くのコンピューターに機器を接続して鬼の形相でクラッキングを試みるが、間に合いそうにない。ロボットはひたすらにエルゼを追ってくる。


「仕方ありません……ッ」


 エルゼは決意し、


「セレナ、ルシア! 私が時間を稼ぎます! 逃げてください!」

「で、でも……」


 セレナは弱そうに眉をひそめたが、


「いいから! セレナ! 今からあなたがリーダーです! しっかりお願いします!」

「……っ」


 エルゼが見せた決死の覚悟を前に、二人は逃げ出した。

 エルゼは後ずさりする。が、背中に冷たい壁が当たった。


 壁際に追い詰められたスパイの少女は、どうしようもなく乾いた笑みが出て、


「これは……参りましたね」


 研究室にけたたましいブザーが鳴る。警備ロボットはさらに増える。ドローンも飛び交う。


 これはもう、逃げられるわけがなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ