第1章:嫌な回想
『世界は、彼に何の恩義も負っていないと、彼はそう思った。
ゆえに彼は、憤りを胸に、ただちに世間に背を向け、
そして孤独の中、自らの誇りを糧として、 その魂を養った』
ーウィリアム・ワーズワースー
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If you could time travel. Which historical period would you want to be in?
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「よし、じゃあ、この英文の意味が分かる人はいるかな?」
教室は水を打ったように静まり返った。
誰一人として動こうとせず、手を挙げる者もいない。
「先生! 分かります!」
「おっ、林か。じゃあ、みんなにも分かるように説明してくれるか?」
「はい! 『もしタイムトラベルができるなら、あなたはどの歴史時代に一番行ってみたいですか?』という意味です!」
「正解! じゃあ、黒板に訳を書いてくれ。できれば、自分の答えも一緒に書いてみようか」
……これで何度目だろう。
高校生活初日だというのに、僕は何時間もの授業で、
いったい何度目になるのか分からないほど最初に手を挙げていた。
国語。
生物。
物理。
そして今度は英語。
秋田を離れ、東京の高校へ進学する前、僕はここの授業がさぞかし難しいに違いないと思っていた。
それと同時に、輝かしい高校生活を思い描いてもいた。
自分と同じ志を持つ優秀な仲間たちと出会い、互いに切磋琢磨しながら、有名大学への合格を目指す。
誰もが自由に知識を共有し、学問について思う存分語り合える。そんな健全で知的な環境に身を置く。
それこそが、僕が東京の神田学院への進学を決めた理由だった。
……なのに。
いざ初日を迎えてみると、ここの授業はどうにも簡単すぎる気がするのだ。
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そもそも、僕はこれまで十五年間暮らしてきた秋田で、そのまま高校生活を送ることだってできた。
両親も妹も、僕と離れ離れになることを望んでいたわけではない。
それでも、僕はすべてを捨てて東京へ出てきた。
田んぼと畑、そして年老いた人々ばかりが暮らす、あのド田舎を飛び出して。
東京で最高の高校生活を送り、人生で一番輝かしい青春の思い出を作りたかったのだ。
そう!
僕が大好きなラブコメ漫画の主人公たちのように!
僕の思い描いていた物語では、主人公は勉強ができるものの、
コミュニケーションが少し苦手な男子高校生だった。
そんな彼が、ひょんなことから可愛い女の子と知り合う。
やがて新しい友人たちにも恵まれ、週末にはみんなで遊びに出かけたり、部活動に打ち込んだり。
そして、青春ならではの笑いあり、涙ありの騒動を経験していくのだ。
これぞ、正真正銘の高校生活!
それこそが、僕の長年の夢だった。
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……だったのだが、現実はというと。
「おい、またあいつかよ」
「四時間連続じゃね? ずっと手ぇ挙げてるけど、そんなに目立ちたいわけ?」
「マジで勘弁してくれよ。俺らと話すときはあんなに会話が続かねえくせに、先生の前じゃずいぶんと張り切るんだな」
「どうせ自分のこと、めちゃくちゃカッコいいとか思ってんじゃね?」
「勉強しか取り柄のない奴が、友達できないのも当然だろ」
教室のどこかから、クスクスと忍び笑いが聞こえてきた。
僕が教室の後方から黒板へ向かって歩いているとき、偶然、その陰口が耳に入ったのだ。
……しかも、その声の主は。
僕がずっと仲良くなりたいと思っていた、クラスメイトたちだった。
……どうして?
先生の質問に答えるために手を挙げることが、そんなに悪いことなのだろうか。
それなら、僕にどうしろというのだ?
先生がクラス全員に質問しても、黙って座っていろとでもいうのか?
それとも、誰も授業に関心を示さず、先生を失望させるのを黙って見ていろとでも?
……本当に、理解できなかった。
僕は昔から、周囲の空気を読むのが苦手だった。
勉強の成績だけは人並み以上なのに、どういうわけか、コミュニケーション能力だけはいつまでたっても追いついてこない。
秋田で過ごした中学時代も、似たようなものだった。
幸い、先生たちには気に入られていたので、いじめの標的になったことはない。
けれど、だからといって、誰かが自分から話しかけてくれるわけでもなかった。
はっきり言ってしまえば……。
僕は孤独だった。
親友と呼べる相手が、一人もいなかったのだ。
誰かと会話をしようとするたび、僕は彼らが言うところの「トレンド」に、まったくついていけないことを思い知らされた。
Tok-Tokで流行している新しいダンス。
どこかの歌手や俳優が交際を発表したという話。
今、世間で話題になっているドラマ。
あるいは、変わった料理を出す新しいレストランの話。
そんな話題を振られても、僕にできるのは頭をかきながら、気の抜けた返事をすることくらいだった。
「えっと……ああ、そうなんだ。へえ、すごいね……」
正直に言おう。
僕は、そういうものにほとんど興味がなかった。
僕の趣味は時代小説。
それさえあれば、何時間だって夢中になっていられる。
けれど、残念ながら、学校には僕と同じ趣味を持つ人間がいないようだった。
昔は秋田。
今は東京。
どこへ行っても、本当の意味で気の合う友達を見つけられない。
もしかすると、東京で過ごす三年間の高校生活も、これまでと同じように何の実りもなく終わってしまうのかもしれない。
……まあ、仕方ないか。
僕は静かに教壇へ上がると、チョークを手に取り、自分の答えを黒板に書き記した。
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I WOULD TRAVEL TO THE MIDDLE AGES
(僕なら中世に行きます)
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(次回に続く)
注釈:なし




