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嫁が魔王の娘だった件 〜Dランク盾使いの僕ですが、ツンデレで世界最強の妻を一生守り抜くと決めました〜  作者: 神無月 奏
第一部 辺境編

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第7話 迷い猫

グレンツの村から戻った僕たちは、しばらく黒い球について調べていた。

だけど、なんの手掛かりもなく行き詰まっていた。


そんな中、僕は一人で冒険者ギルドにいた。


「本当にこの依頼でいいんだな?」


ギルドマスターが念を押した。


「はい。お願いします」


「もう一度言うが……絶対にやめておいた方がいいぞ」


「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ」


ギルドマスターはしぶしぶといった感じで依頼書を手渡してくれた。



——僕は、みんなを集めて依頼の説明をした。


「は?」


「おいおい……」


「わぁ~!」


反応が面白かった。


「ライルよぉ。迷い猫の捜索と保護ってなんだよ。俺たちの受ける依頼か?」


「あはは……最近、張り詰めた依頼ばっかりだったから、たまにはこういうのもいいかなと思って」


「お前が言うならやるけどよ……」


シドはしぶしぶだが了承してくれたようだ。


「しょうがないわね……ま、猫を捕まえるなんて簡単じゃない! さっさと終わらせちゃうわよ」


「猫ちゃんですか~可愛いですよね~」


ティナとクレアも一応やる気になってくれたみたいだ。


依頼内容は、迷子になってしまった猫の保護。

三毛猫で赤い首輪をしているそうだ。

保護して、ギルドに引き渡すまでが僕たちの仕事だった。


僕とティナ、シドとクレアの二組に分かれて捜索することにした。


「こういうことならまかせなさい!」


ティナが得意げに言った。


「このあたりだと猫の気配は……三匹ね。こっちから行ってみるわよ」


そう言うと、一気に走り出した。


「あたり! やっぱりこの依頼、余裕だったわね!」


一発目で対象を見つけてしまった。さすがだ……

だけど、その猫はティナを見た瞬間、ものすごい勢いで逃げ出した。


「なによ、あの猫! 私を見るなり逃げ出すって失礼じゃない!」


「ティナ、すっごく怖い顔をしてたからね……」


「なんか言った!?」


「……なにも」


猫は必死に逃げている。

狭い路地に入り、建物の屋根を走る。

ティナもそれに遅れることなく付いていく。


——だめだ、追いつけない。

ティナの姿がどんどん小さくなっていき……見失ってしまった。


とりあえず大通りに出ることにした。

しばらく歩いたけど、ティナはだいぶ遠くまで追いかけていったようだ。


「ライル殿ではないですか!」


聞き覚えのある声だった。


「イーサン殿……?」


「覚えていてくださいましたか! イーサンでいいですよ」


「この街にいらしてたとは、驚きました」


「コルネ村での駐留が終わったので、王都に帰る途中です」


僕は無意識に身構えてしまった。


「ははっ! 団長殿は来ていないですよ。騎士団は先に王都に戻りました」


「そうですか……」


見透かされてしまったようだ。


「それより、ライル殿は誰かをお探しでしたか?」


「いえ、ギルドの依頼中でして……」


僕は、依頼で猫を探していること、その猫の特徴をイーサンに伝えた。


「それなら、私も協力させてください!」


「え?」


「ライル殿たちにコルネ村でのお礼ができればと、この街に立ち寄ったのです。お会いできただけでも幸運なのに、その機会までいただけるとは!」


「お礼をされるようなことしましたっけ……?」


「何をおっしゃいます! あの魔物の大群から村を守ってくれたではありませんか!」


「……!」


僕は言葉を失ってしまった。

——あれを見られていたのか? だとしたら……


「これでも一応、勇者と呼ばれております。あの状況を見れば、大量の魔物が出たことくらいはわかりますよ」


「そう……ですか」


「どのように魔物を排除したのか気にはなりますが、怪我人が出なかったことが何よりです」


——見られたわけではないようだった。


「さて、それではさっそく探してきます」


そう言うと、イーサンは街の中へ消えていった。

入れ替わるように、ティナが戻ってきた。


「ちょっと、あんた何サボってるのよ!」


「いや……サボっているわけじゃないんだけど」


「あの猫、思ったよりもすばしっこいわね! どうしてくれようかしら……」


そのとき、建物の上からあの猫が顔をのぞかせていた。

挑発するようにこちらを見下ろしている。


「……」


「ニャ」


「あんの猫! もう許さないわ!」


——あれ……なんか魔法を使おうとしてない?


「ちょっと、ティナ落ち着いて! 猫の保護が目的だからね!」


「……待ちなさーい!!」


また追いかけっこが始まった。



どれくらいの時間がたっただろうか。

ティナが疲れた様子で戻ってきた。


「作戦変更よ!」


「え?」


「あいつ、私が近づくと気配だけで逃げるみたい。居場所はわかっているから、あんたが捕まえなさい」


やっぱり動物の勘は鋭いのだろうか。

かといって、ティナに捕まえられないものを僕が捕まえられるのだろうか……


ティナの指示した方向へ歩いていくと、開けたテラスのような場所に出た。

建物の隙間から光が差し込んでいた。

そこにはあの猫と、それを撫でているイーサンの姿があった。


僕は目を疑った。

あれだけ逃げていた猫が、警戒した様子も見せずに仰向けになって、されるがままになっていた。

その横にはクレアがいて、イーサンと楽しそうに話している。


「すごいです。この子、こんなにリラックスして。イーサンさんって動物がお好きなんですね」


「私は田舎の出身でして。子供の頃はよく森で動物たちと触れ合っていました」


「うらやましいです。私はずっと孤児院でしたので」


クレアは少しだけ寂しそうな表情をした。


「そうでしたか……では、いつか私が故郷の森を案内させていただきますよ」


「本当ですか! うれしいです」


クレアとイーサンはずいぶんと打ち解けているようだった。


「本当にこの子はおとなしいですね」


イーサンが猫を撫でながら顔を上げる。


「きっと優しい人のことがわかるんですよ」


僕はチラッと、ティナのことを見てしまった……


「な、なによ!」


「いや、ティナも本当は優しいのになって……」


「ば、ばっかじゃないの!? こんなときに何を言っているのよ!」


ティナの顔が赤くなった。


「……あんなに苦労したのに、こんな簡単に捕まえられるって勇者の能力か何かなの?」


——そんな能力はないと思うけど。

イーサンも苦笑していた。


「そういえば、シドもクレアもよくここがわかったね」


少し離れた壁にもたれかかっていたシドに声をかけた。


「そりゃあ、俺は情報網をフル活用したからな。情報屋をなめんなよ」


「私は街の人たちに教えてもらいました~。みなさんから色々いただいちゃいました」


クレアの荷袋がパンパンになっていた。

イーサンはひとしきり撫でたあと、その猫をクレアに託した。


「クレアさん。あとはお願いします」


「はい! お預かりしますね」


そう言うとクレアは猫を抱きかかえた。

だいぶ人に慣れている猫なんだろうか、おとなしく抱えられていた。

僕も猫を撫でようとしたんだけど、なぜかシャーって言われた……

ティナがちょっと嬉しそうだった。


「では、私はこれで。またお会いしましょう」


「はい。ありがとうございました」


イーサンは颯爽と去っていった。

——ああいう人が勇者なら、この国も安泰なのかな。


僕たちは、保護した猫を連れて冒険者ギルドに戻ってきた。

猫を冒険者ギルドに預ければ依頼完了だ。

預けられた猫は、あとで飼い主さんが引き取りに来るそうだ。


そういえば、なんでギルドマスターは、この依頼を出し渋っていたのだろう……

かなり引き留められた気がするけど、捕まえるのが大変なのをわかってたのかな。


ギルドの中に入ると、ちょうどギルドマスターがいた。


「依頼の猫を保護してきました。引き取りをお願いします」


そう言って、クレアに猫を渡してもらおうとした。

なぜか、ギルドマスターは不機嫌だった。


「……」


「どうしたんですか?」


「おい、こっちに近づけるんじゃねぇ!」


少しずつ後ずさっていく。


「この子すごく可愛いんですよ。バルドさんも撫でてあげてくださいよ~」


「やめろ! おい! ミレイユ、なんとかしろ!」


カウンターの向こう側で見ていたミレイユさんがため息をついた。


「はぁ……まったく。バルドは昔から猫がだめよね……」


「しょうがねぇだろ! 苦手なもんは苦手なんだ! おい、クレアやめろ! そいつの顔を近づけるんじゃねぇ!」


ティナもシドも、すごく悪い顔をしていた。


「いやぁ、面白ぇもんがみれたな。この依頼やってよかったわ」


「本当ね! あんなギルドマスターはじめて見たわ。今度から猫を連れて歩こうかしら」


「おまえら、覚えとけよ!」


「はいはい。バルドは役に立たないからあっちで受付でもしてなさい」


——なんだかんだで忙しい一日だったけど、こういう日もいいよね。

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