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嫁が魔王の娘だった件 〜Dランク盾使いの僕ですが、ツンデレで世界最強の妻を一生守り抜くと決めました〜  作者: 神無月 奏
第二部 王都編

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第28話 最強の弱点

ティナの様子がおかしい。


「ティナ! 大丈夫!?」


「ごめん……力が入らないわ……」


そのとき、背後で金属の擦れる音がした。

振り返ると、入ってきた扉の前に、天井から鉄格子が落ちてきた。

重い音が部屋に響く。


それと同時に、左右の扉が開け放たれる。

左の扉からは武装した人間がゆっくりとした足取りで出てきた。

ざっと見たところ、二十人くらいはいるだろうか。


右の扉からは、魔物が三体出てきた。

ただ、その見た目は異様だった。

頭はコボルドで体はオーク、腕は鱗で覆われている。

残りの二体も、別々の魔物を無理やりつなぎ合わせたような姿をしていた。


「うっ……」


クレアがえずいた。顔が青ざめている。


「教会の地下であんなものが……」


——まずい……ティナが動けない状況でこの人数を相手にするのは危険だ。


「正面の扉を目指そう! ピアさん、あの扉を破れますか?」


「まっかせるっす!」


ピアさんが杖を前にかざす。

ゴーレムを倒したときのように炎が一直線に扉に向かう。

扉が壊れる……はずだった。


ピアさんの放った炎が触れた途端、扉が一瞬光った。

跳ね返された熱が、こちらに向かってきた。


「なんとぉ!」


ピアさんが杖を振り下ろすと、迫ってくる炎の前に、もう一筋の炎がぶつかった。

二つの炎は、僕たちの目の前で弾けるように消えた。


「はぁ……はぁ……」


ピアさんは肩で息をしていた。


「……魔法を跳ね返す仕組みのようっすね。なら、これで!」


そう言って杖をかざすと、今度はいくつもの岩の塊が勢いよく扉に飛んでいく。

一つ目の岩で扉がゆがみ、二つ目で扉に穴が開いた。

次々にぶつかる岩で扉は跡形もなくなった。


「やっぱり物理的なものは跳ね返せないみたいっすね……でも、これで打ち止めっす……」


ピアさんは杖で身体を支えるようにして立っていた。

扉が破られたのを見て、刺客たちが一瞬ひるんだ。


「今だ!」


僕はティナを背負って扉に向けて走った。

クレアが続き、シドもピアさんを抱えて走っている。


なんとか扉を抜けた。

扉の先は、人が二人並んで通るのがやっとの細い通路だった。

そのあとを刺客たちが追ってくる。

あの異形の魔物も一緒だ。


「なんでティナさんだけが弱るのかはわからないっすけど、これは何かの儀式魔法っす。儀式魔法には、かならず魔力を供給する媒体か術者がいるっす!」


シドに抱えられたまま、ピアさんが言った。


「じゃあ、それを何とかすれば、ティナがもとに戻るってことか」


「そうっす! そしてその魔力はこの奥から来てるっす!」


部屋を出てもティナは動けないようだ。

このままだと追いつかれる。


「シドとピアさんはその供給源をお願い! 僕とクレアはここで足止めをする!」


僕はティナを下ろして、後ろに向きなおり盾を構えた。

クレアも僕の後ろに立って錫杖を構えた。


「すぐ戻るから死ぬんじゃねぇぞ!」


シドはそう言ってピアさんを抱えたまま通路の奥に走っていった。

刺客たちが追いついてきた。

その中から、一人の刺客がゆっくりと進み出る。


「対魔族用の儀式魔法はどうだ!? ずいぶんと弱っているようじゃねぇか!」


——ティナが魔族だということが気づかれている!?

そのための罠だったのか……

僕は奥歯を噛み締めた。


「その魔族と、オーブを渡せば命だけは助けてやってもいいぜ?」


ティナを渡す気などさらさらない。

——だけど、オーブって何のことだ……


「オーブなんて持っていない! 何のことだ!」


僕は盾を構えながら声を上げた。


「あぁ、お前らがどこかの村で盗んだ黒い球のことだ。持ってんだろ?」


——なるほど。黒い球がオーブか……


「ふざけるな! お前たちにティナは渡さない! もちろんオーブもだ!」


「……馬鹿な奴らだな。まぁどっちにしろ死ぬんだけどな!」


そう言うと、そいつは黒い球……オーブを掲げた。


「あいつらを殺せ!」


その声に反応して、異形の魔物が僕たちに襲い掛かってきた。

——絶対にティナとクレアを守る!!


そう思った瞬間、僕の目の前に、あの銀の膜が広がった。

異形の魔物たちはその膜に阻まれて、こちらに近づけないようだ。

魔物が膜に何度も爪を振り下ろす。


——この膜は僕の守る意思に反応するのか?

これなら、しばらくは耐えられるかもしれない。


「クレア、援護を!」


「はい!」


クレアは錫杖を掲げて、呪文を詠唱する。

詠唱を終えると、僕の前に数えきれないくらいの光の矢が現れた。

その矢は一体目の魔物を貫き、そのまま二体目の胸も撃ち抜いた。

二体の魔物はそれで絶命した。


だが、三体目の魔物に矢が触れた瞬間、矢がかき消えた。

跳ね返されたのではない。

魔物の身体に、吸い込まれるように消えていった。

そして、魔物が一回り大きくなった気がした。


「もう一回!」


クレアが放った光の矢は、魔物に吸い込まれ、魔物の身体がさらに一回り大きくなった。


「クレア、魔法はだめだ!」


——まずい、魔法で攻撃できないとなると、僕の剣でしか攻撃できない。

でも、僕の剣じゃあの魔物は倒せそうにない。


力を増した魔物が膜を殴りつける。

そのたびに、膜が薄くなっていくのがわかった。


魔物の背後では、刺客たちが通路を埋めるように並んでいた。

誰も動こうとしない。

膜が破れるのを、ただ待っている。


「ほらほら、もう少しで割れるぞ」


オーブを掲げた男が、楽しそうに笑った。


魔物が吠える。

そして、両手を膜に叩きつけた。


ぴしり、と銀の膜にひびが走る。

ひびは蜘蛛の巣のように広がり——


パリン。


乾いた音とともに、膜が砕け散った。

銀の欠片が、光の粒になって消えていく。


「今だ、殺せ!」


男の声を合図に、刺客たちが一斉に剣を抜いた。

魔物の巨大な拳が、僕の頭上に振り上げられる。


「ライル、逃げて!」


通路にティナの声が響き渡った。

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