第27話 案内された先
僕は慌てて来た道を戻ろうとした。
「ライル、大丈夫よ。いざとなれば祭壇ごとぶち抜くわ。それよりも先に進みましょ」
——ティナが成長している!?
「今、失礼なこと考えてたでしょ……」
ティナにジト目で見られた。
僕たちはそのまま奥へ進むことにした。
通路を抜けると広間に出た。
天井は高く、建物二階分くらいの高さがある。
この部屋も淡い緑色の光で照らされていた。
両側の壁際に、石像が二体ずつ並んでいる。
どれも天井の半分ほどの高さで、壁を背にして広間の中央を向いていた。
僕たちが部屋の中央に差しかかったとき——
ズズ……と、石と石が擦れる低い音が、足元から響いた。
一番手前の石像の首が、ゆっくりとこちらを向いた。
ほかの三体も、同じように首を回す。
そして、床を踏み鳴らしながら、一歩ずつ近づいてくる。
「おい、ピア。あれは止められねぇのか?」
「無理っす! ゴーレムは魔力を込めた人間の命令しか聞かないっす」
そう言っている間に、ゴーレムはこちらにどんどん迫ってくる。
僕たちを叩き潰そうと、ゆっくりと腕を上げる。
「コアを破壊すれば止まるっす! コアは胸の中心にあるんすけど、埋まってるので物理攻撃じゃ壊せないっす!」
「わかったわ!」
ティナが駆け出す。
一番手前の一体の胸あたりを思いっきり殴った。
瞬間、ゴーレムの上半身が吹き飛ぶ。
続けざまに、その後ろのもう一体も破壊する。
「めちゃくちゃっすね……うちのバカマスター以上っすね……」
ピアさんは杖を前に突き出した。
「魔女っ子ピアさんも負けていられないっす!」
そう言うと、杖の先から炎の線が伸び、二体のゴーレムをまとめて貫いた。
胸に大きな穴が開き、縁が赤く焼けただれている。
二体は、まるで魂が抜けたかのように膝から崩れ落ちた。
「無詠唱ですか!?」
クレアが目を丸くしている。
「へっへ~ん。天才魔女っ子っすから!」
「ギデオンさんとそっくりですね~」
「なんとっ! あんなバカマスターと一緒にしないでくださいっす!」
ピアさんはがっくりと項垂れた。
「さて、ゴーレムさんを調べますか……見事に粉々っすね~」
——切り替えが早い。
「ん~これは何すかね? 見たことがないコアっす」
ピアさんがゴーレムの残骸から黒い球を拾い上げた。
僕たちの視線が一斉にその球に集まる。
「ちょっと見せてくれ」
シドがピアさんの手元を覗き込んだ。
しばらく黙って球を見つめてから、眉を寄せる。
「……いや、違うな。コルネ村で見たやつは、もっと細けぇ文様がびっしり彫ってあった」
言われてみると、球の表面には、渦を巻くような線が一本走っているだけだった。
「ふむふむ……これ、ゴーレムを動かすための術式っすね。魔力を溜めて、少しずつ流す仕組みっす」
ピアさんは球を灯りにかざした。
「マスターなら作れそうっすけど、こんな気味の悪い色にはしないと思うっす」
「ここが黒い球に関係しているのは間違いなさそうだね」
「そうだな。この先、こんなのが続くのは勘弁してほしいけどな……」
通路は一本道だった。
抜けるたびに部屋があり、ゴーレムが現れる。
ティナとピアさんが、一瞬で片付けていく。
それが数回続いた。
——分かれ道がひとつもない。
まるで、どこかへ案内されているみたいだ。
何度目かの部屋を抜けた先で、通路の右手の壁に、扉が一つあった。
ここまで、扉のついた部屋は一つもなかった。
僕たちは顔を見合わせた。
ティナが扉の外で気配を探る。
「誰もいないみたいね」
「罠があるかもしれないから気を付けよう」
「じゃあ、俺にまかせておけ」
シドは仕掛けがないことを確認すると、ゆっくりと扉を開けた。
中はがらんとしていた。
背の高い本棚がいくつもあるが、その中身はすべて空だった。
机には何かが置かれていたのだろうか、黒くなった跡だけが残っている。
部屋の一番奥の机に小さな箱が置かれていた。
金色の縁取りで飾られた、いかにも高価そうな箱だ。
シドが箱を調べ始める。
「仕掛けはなさそうだな」
そう言って箱を開けた。
「こりゃあ……」
黒い球が一つ、布に包まれて入れられていた。
ただ、文様は彫られておらず、つるっとした見た目だった。
「コルネ村で見たものともゴーレムから出てきたものとも違うね……」
「とりあえず、持って帰ってマスターに調べさせるっす」
僕はシドから球を受け取って頷き、そっと革袋にしまった。
部屋を出ると、僕はみんなに確認した。
「どうする? 一応、手がかりになりそうなものは見つけたけど、引き返す?」
「進むに決まってるでしょ」
「そうだな。ここまで来て戻るのはもったいねぇ」
「行きましょう」
「私は付き添いなんで、おまかせするっすよ」
「進もう。ただし、十分に注意しないとね」
全員が頷く。
しばらく進むと、通路の両側に、いくつも横道が現れるようになった。
覗いてみると、どれも小さな部屋に行き当たって終わっている。
ベッドがいくつも並んだ部屋。長い机と椅子が置かれた部屋。
ここで、何人もが寝泊まりしていたらしい。
だけど、どの部屋にも人の姿はなかった。
その中に異質な部屋があった。
人が入れるような大きな檻がいくつも置かれている。
中には何もいなかったが、壁のいたるところに血の跡があった。
僕は気味の悪さを感じて扉を閉めた。
結局、先へ続いているのは、真ん中の通路だけだった。
やがて、通路の先に、両開きの大きな扉が見えてきた。
扉の前で、ティナが一瞬だけこめかみを押さえた。
「ティナ?」
「……なんでもないわ。行きましょ」
扉を押し開ける。
中は、これまでで一番広い部屋だった。
左右の壁と、正面の奥に、それぞれ大きな扉がある。
床には、見たことのない文様が、部屋いっぱいに描かれている。
一歩、足を踏み入れた瞬間。
床の文様が一斉に紫色の光を放つ。
その光は、僕たちが通ってきた通路にも広がっていく。
「……っ」
ティナの膝が、がくりと折れた。
「ティナ!」
「なに、これ……身体が、重い……」




