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嫁が魔王の娘だった件 〜Dランク盾使いの僕ですが、ツンデレで世界最強の妻を一生守り抜くと決めました〜  作者: 神無月 奏
第二部 王都編

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第26話 罠

ティナは振り下ろされた石の拳を軽々と受け止めた。

続けざまに二撃、三撃。

ティナはそのすべてを片手で受け止めている。


「……まじか。少し見てみるか……」


「いや、ギデオンさん、止めてください! 壊されちゃいますよ!?」


「む……しょうがない。おい! 止まれ!」


ギデオンさんの声が響いた。

振りかぶった腕がぴたりと止まる。

石の人型は、何事もなかったように部屋の隅へ戻っていった。


「ちょっと! どういうことよ!?」


ティナが抗議の声を上げる。


「だから、勝手に入るなって言っただろうが」


「気配なんて全然なかったわよ!」


「そりゃそうだ。あいつは生き物じゃねぇからな。……しかし、こいつの攻撃を軽々と受け止めるとはな……もう少し強化しないとだめか……」


ギデオンさんは考え込んで独り言のように呟き始めた。


「いや……今のままで大丈夫だと思いますよ……」


「そうか?」


そう言うと、さっきの板と同じものを四枚取り出した。


「こいつはここの鍵だ。これを持っていないやつは侵入者とみなされて、さっきのようになる。しかも、持ち主の魔力を登録してある。盗まれても、本人以外が持ってりゃ襲われる」


「すげぇな……」


「はっは! 天才だからな。ほら、一人ずつ握って、魔力を流せ」


「えっと……僕とシドは魔法が使えないんですけど……」


「大丈夫だ。誰でも少しくらいは魔力を持っている。握って板に意識を集中しろ」


僕は言われた通りに板を握りしめて、意識を集中する。

僅かだけど、僕の手から板に何かが流れている感じがする。

文様がかすかに光った。

シドとクレアも、同じように登録を済ませた。


最後にティナが板を握った。

その途端、板が激しく光り、ばらばらに砕けた。


ギデオンさんが、片眉を上げた。


「……おい、魔力を込めすぎだ。お前、どんだけ魔力が多いんだよ。ほんの少し流す感じでやってみろ」


僕とシドは、思わず顔を見合わせた。


ギデオンさんは懐からもう一枚、板を取り出した。


「ご、ごめんなさい……」


ティナが目を逸らしながら謝る。

ギデオンさんはしばらくティナを見ていたけど、それ以上は何も言わなかった。


ティナが恐る恐る板を握った。

今度はうまくいったようだ。

ティナも安堵した表情をしていた。


「よし。じゃあ、俺は戻るからな。この隠れ家にあるものは自由に使ってかまわん。何かあったらギルドに来い」


「ありがとうございます」


ギデオンさんはそう言うと、ひらひらと手を振って出ていった。



それから五日間、僕たちは王都を歩き回り、黒い球や教会についての噂を集めた。

だけど、一向にめぼしい情報は得られなかった。


「なぁ、ライル。ここからは俺一人で動かせてくれ。四人で歩いてたら目立ってしかたねぇ」


「でも……一人で大丈夫なの?」


「ああ、この外套があれば大丈夫だろ」


「……わかった。ただ気をつけてよ。その外套が効かない人もいるみたいだからね」


「わかってるって。情報屋をなめんなよ」


そう言うと、外套を羽織って街に消えていった。


それから毎日、シドは一人で街へ出かけていった。

四日目の夕方、隠れ家に戻ってきたシドは、珍しく真剣な顔をしていた。


「……ちょっと面白ぇ話を拾ってきたぜ」


シドは椅子にどかっと腰を下ろした。


「東の外れにある、古い教会だ。最近、夜になると地下に人が出入りしてるらしい。しかも、そいつらが黒い球を抱えてるのを見たって奴がいる」


「黒い球を……!」


「ただな……」


シドは腕を組んだ。


「何日も何も出てこなかったのに、今日になって急に、あっちこっちで同じ話を聞いた。できすぎてる気がしねぇでもねぇ」


「罠……という可能性もあるのかな」


「わからねぇが、注意しとくに越したことはねぇな」


「かといって、このまま見過ごすわけにもいかないね。まずはギデオンさんに相談してみよう」


僕たちは魔術師ギルドに向かうことにした。


日が沈みかけた頃、魔術師ギルドに着いた。

昼間は本を読む魔術師たちで埋まっていた机も、今はがらんとしている。

カウンターでは、ピアさんが帳面を片付けていて、その横でギデオンさんが退屈そうに頬杖をついていた。


「あれ~? 皆さん、こんな時間にどうしたんすか?」


シドが聞いてきた話を、カウンター越しにギデオンさんへ伝える。

ギデオンさんは頬杖をやめ、最後まで黙って聞いていた。

そして、話が終わるなり、短く言い切った。


「罠だな」


「だよな……」


シドも相槌を打っている。


「でも何か手掛かりがあるかもしれないです。黒い球がそこで扱われているならほうっておけません」


「おいシド……こいつはいつもこんななのか?」


ギデオンさんは、僕を横目に見ながらシドに尋ねる。


「まぁ、大体こんな感じだな……」


シドはそう言ってため息をついた。

ティナも首を横に振っている。


「私はライルさんに賛成です!」


クレアがギデオンさんをまっすぐに見てそう言った。


「まったく、馬鹿ばっかりだな……しょうがねぇ。おいピア、お前も付いていってやれ」


「へ? 受付はどうするんすか? っていうかマスターが行けばいいじゃないっすか~」


「俺はやることがあるんだよ。受付はゴーレムにでもやらせとけ!」


「さぼりっすね~。しょうがないな~。カモン! ごーれむちゃん!」


ピアさんがそう言って杖を掲げると、飾りだと思っていた人形が動き出す。

隠れ家にいるゴーレムよりも二回りくらい小さかった。


「オハヨウゴザイマス」


ゴーレムはカウンターまでゆっくりと歩いてきて、おもむろに声を発した。

——口がないのにどこから声を出しているんだろう。


「クソマスターハ、イマハフザイデス。ズットカエッテコナイカモシレマセン」


「あ……リセットしとくの忘れたっす……」


ゴンッ!


デコピンじゃなくてゲンコツだった。



僕たちは夜になるのを待って、古い教会に忍び込んだ。

教会の中を調べたが、地下へ通じる道らしいものは見当たらなかった。


「……あれ?」


クレアが祭壇の前で足を止めた。


「祭壇が、女神様の真下からずれてます。教会の祭壇は、必ず女神様の正面に置くものなんです」


言われて見ると、床の石に弧を描くような擦れた跡がある。

何度も動かされた跡だ。


シドが祭壇に手をかけて押すと、重い音を立てて横に滑り、下から石の階段が現れた。


「……あっさり見つかりすぎだな」


シドが小さく呟いた。

階段の先は真っ暗で何も見えない。


「何も見えないっすね~。ちょっと待っててくださいっす」


ピアさんが杖を軽く振ると、小さな光の玉がふわふわと浮かんだ。

その光が僕の周りをくるくる回っている。

僕はみんなの顔を見て頷き、階段を降りていった。


階段を降り切ると、そこは長い通路だった。

壁に等間隔で埋め込まれた石が、緑がかった淡い光を放っていた。


ピアさんが杖を振ると、光の玉がすっと消えた。


「こりゃ、灯りは要らないっすね」


僕たちは、まっすぐに延びる通路を奥へと進んだ。

しばらく歩いたところで、後ろから、重い石が擦れる音がかすかに響いた。

振り向くと、緑がかった光の続く通路の先、降りてきた階段のあたりにだけ、白い月明かりが落ちていた。


その白い光が、細くなっていく。

月明かりは一本の線になり、そして、消えた。


ゴン——


「閉じ込められた!?」

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