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嫁が魔王の娘だった件 〜Dランク盾使いの僕ですが、ツンデレで世界最強の妻を一生守り抜くと決めました〜  作者: 神無月 奏
第二部 王都編

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第23話 新たな旅立ち

リンドルの街もなんだか懐かしい気分だ。

僕たちは街に戻ってきた足で冒険者ギルドに向かった。

黒い球のこと、王都へ行くことをギルドマスターに伝えるためだ。


受付カウンターでギルドマスターに取り次いでもらった。


「おう、久しぶりじゃねぇか。どうした?」


「ちょっと相談があるんです」


「ここじゃダメな話か?」


僕は小さく頷いた。


「じゃあ、付いてこい。ミレイユ、お前も来てくれ」


そう言うと、階段を上がっていく。

ギルドマスターは、二階の一番奥にある自分の部屋の前で立ち止まった。


「入れ」


そう短く言うと扉を開けて中へ入っていった。

そして、部屋の中央にあるソファにどかっと腰を下ろす。

ミレイユさんも隣に座る。


「まあ、座れや」


僕とクレアはソファに座った。

ティナは僕の後ろで腕を組んで仁王立ちしていた。

シドは、壁にもたれかかっている。


ギルドマスターは僕の持っている盾に目をやった。


「しばらく見ない間にずいぶん装備が変わったじゃねぇか。そりゃ並の代物じゃねぇぞ……」


「色々ありまして……」


「そうか」


ギルドマスターはそれだけ言って、それ以上は訊かなかった。

ミレイユさんがクレアの錫杖を見て目を見開く。


「クレアちゃんの錫杖もすごいわね。Aランクの冒険者でも持ってないわよ」


「えへへ」


クレアは錫杖を嬉しそうに抱えた。


僕は、まず依頼の報告をすることにした。


「ゴブリンの集落は片付けました。ただ、その帰りに襲撃に遭いました」


「襲撃って、魔物か?」


「いや、人間だぜ。それもかなりの手練れだった」


僕が答えるより先に、シドが口を挟んだ。


「手練れか……お前ら、よく無事だったな」


「なんとかな」


「無事ならいい。……で、話ってのはそのことか?」


「いいえ」


僕は、革袋の口を開けて、黒い砂をテーブルの上に広げた。


「グレンツの村で見つけた物です。見つけたときは、球の形をしていました」


「グレンツっていやあ、領主が住民を皆殺しにしたって噂の村だよな」


「はい。でも、村を襲ったのは魔物の群れでした。その魔物を呼び寄せたのが、この球だと思います」


「どういうことだ? こんなので魔物を呼び寄せられるのか?」


ギルドマスターは砂に触れ、怪訝な顔をしている。


「聞いた話だと、この球は周りの魔力を吸って力を増して、魔物を呼び寄せるらしいんです」


その言葉を聞いた瞬間、ギルドマスターの顔が険しくなる。

隣のミレイユさんも同じだった。


「……それは本当なのか?」


ギルドマスターの声には怒りが混じっているようだった。


「はい。この球はコルネ村にもありました。……そのどちらにも王国騎士団が関わっていたようです」


「中央か……で、お前らはどうしようとしてるんだ?」


「王都に向かいます」


「お前ら、それがどういうことか、わかってるのか? 敵の腹の中に飛び込んでいくようなもんだぞ。おい、シド。ちゃんと止めたのか?」


ギルドマスターが血相を変えて、シドを問い詰めた。


「いや、こればっかりは俺も止められねぇ」


ギルドマスターはティナを見る。


「ライルが行くなら、私も行くわ。当然でしょ」


次にクレアを見た。


「はい! 私も行かなきゃいけないと思ってます」


クレアはいつもの笑顔ではなかった。

まっすぐにギルドマスターを見て答えた。

ギルドマスターはその様子を見て、ミレイユさんと顔を見合わせる。

ミレイユさんは困ったように首を横に振った。


「はぁ……ちょっと待ってろ」


ギルドマスターはため息をつくと、席から立ち上がり、自分の執務机に向かった。

しばらくして、一枚の羊皮紙を持って戻ってきた。

封蝋はギルドの印ではなかった。

見たことのないものだ。


「王都に行ったら、まずは魔術師ギルドに行け。これは紹介状だ」


「冒険者ギルドじゃないんですか?」


「ああ、向こうの魔術師ギルドのギルドマスターは、古い知り合いでな……癖はあるが、お前たちの力になってくれるはずだ」


「変わっているけど、頼りになる人よ」


ミレイユさんは複雑な表情をしていた。

僕は紹介状を受け取ると、大切にしまった。


◇◆◇◆◇


——ライルたちが出ていったあと、ギルドマスターの部屋。


「ねぇ、バルド。あの魔物の群れの話……」


「……ああ、二十年前と同じだな」


バルドは苦虫を噛み潰したような顔で、言葉を絞り出す。


「あのまま行かせちゃってよかったの? もし、私たちみたいになったら……」


ミレイユが不安げな表情で俯いた。


「俺も付いて行ってやりたいが、それもできねぇ……だけどな、なんとなく、あいつらなら大丈夫だって気がしているんだ」


「……そうね。あの子たちなら、もしかしたら……」


◇◆◇◆◇


ギルドを出たあとは、王都へ行く準備をするため、いったん解散した。

王都へは歩いて二週間はかかる。

馬車で行けば半分くらいだろうけど、襲撃される可能性がある以上、無関係の人たちを巻き込む選択肢はなかった。


僕とティナは、まず宿屋に向かった。

長く世話になった部屋を引き払うためだ。

女将さんに王都へ行くこと、しばらく戻って来られないだろうことを伝えた。


「寂しくなるねぇ……でも、ちゃんと戻ってくるんだよ! そんときゃ、ティナちゃんに家でも建ててやりな!」


そう言って、僕の背中をぱぁんと叩いた。

そのあと、女将さんはティナを抱きしめていた。

——家か……いつか、ちゃんと建てられるだろうか。


宿屋をあとにしたティナは、かなり急いでいるようだった。

もう一か所、行きたいところがあるそうだ。

なんとなく察しはつくけど……


案の定、串焼き屋の前で足を止めた。


「おじさん! 串焼き二百本ちょうだい!」


「はいよ!」


「ちょっとティナ! おじさん、待ってください!」


店主が串を手にしたまま、僕とティナを交互に見ている。


「ティナ、二百本も頼んでどうするの……王都に行くまでに腐っちゃうよ……」


「しばらくは串焼きが食べられないのよ!? 五百本でもいいわ! おじ……」


僕はティナの口を手で強引にふさいだ。

ティナがモゴモゴ言っている。

じたばたしているティナを横目に、店主に事情を話す。


「いやぁ、そんなに気に入ってくれて嬉しいね。実はな、俺の弟が王都で串焼き屋の露店を出してるんだ」


それを聞いた瞬間、ティナの顔がぱあっと明るくなる。

僕の手を振りほどくと、屋台のカウンターに身を乗り出した。


「おじさん、ほんとなの!?」


「ああ。味も保証するよ」


ティナは飛び跳ねて喜んでいた。

串焼きは二十本で手を打った。


◇◆◇◆◇


ライルさんたちと別れたあと、私は孤児院に来ていました。

王都へ行ったらしばらくは、ここに来られないと思います。

だから、今、院長先生とお話ししておかなければなりません。


孤児院に着くと、子供たちがお出迎えしてくれました。

今日もみなさん元気いっぱいです。

でも、どうしてもエルデンハイムで見た王の家が忘れられません。


誰でも気軽に入って来られるように、院長室の扉はいつも開いています。


「院長先生、ただいま戻りました」


「クレアさん、おかえりなさい」


いつもと変わらない優しい笑顔です。

院長先生に訊きたいことがあるのに、切り出せませんでした。


「まずは座ってお茶でも飲みましょうか」


そう言ってお茶を入れてくれました。

ハーブの香りがします。庭で採れたものですね。

少し気持ちが落ち着いた気がします。


「院長先生。自分の信じていたものが間違っていたとわかったとき、どうすればいいのでしょうか」


院長先生は私の顔をじっと見つめました。


「クレアさんはすでに信じるものを見つけたのではありませんか? 私にはそう見えますよ」


私は、膝の上で両手を握りしめました。


「……旅の途中で、ある国に行きました。そこでは、子供たちが一人も飢えていませんでした。親のいない子も、みんな大切に育てられていました」


院長先生は、黙って聞いてくださっています。


「それを見て、わからなくなりました。私たちが信じてきた教会は、本当に正しいのでしょうか。教会は、困っている人を救うためにあるのではないのですか?」


院長先生は、手元のカップに目を落としました。

しばらくして、静かに口を開きます。


「……今の教会は、私たちのためにはありません」


いつもと同じ、穏やかな声です。

でも、その言葉には悲しみが含まれていました。


「王都の教会にいるのは、権力と、自分の身を守ることにしか関心のない人たちです。あの人たちに、人を救う力はありません」


「院長先生……」


「実は私も王都の教会にいたのですよ。クレアさんと出会うずっと前です。でも、私には耐えられませんでした」


院長先生は、少しだけ笑いました。


「ですから、あなたが疑問に思ったことは、間違いではありませんよ」


胸につかえていたものが、すっと下りていきました。

私は、ずっと教会の教えを信じてきました。

でも、私が信じたかったのは、教会ではなかったのかもしれません。


「院長先生。私、王都へ行きます。……王都の教会を、本当に人を救える場所にしたいです」


院長先生は目を閉じて、ゆっくりと頷きました。


「あなたなら、きっと大丈夫です。でも、無理だけはしないでくださいね」


◇◆◇◆◇


リンドルの門を出ていく四人の姿を、遠くから見つめる者がいた。

その者が小さく手を挙げる。

物陰に控えていた者たちが、一斉に散っていった。

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