↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嫁が魔王の娘だった件 〜Dランク盾使いの僕ですが、ツンデレで世界最強の妻を一生守り抜くと決めました〜  作者: 神無月 奏
第二部 王都編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
22/33

第22話 旅立ちの前に

本話から第二部が始まります。

——王国のとある部屋。

王国騎士団長コンラッドは跪き、うつむいたまま声を絞り出した。


「刺客が全滅いたしました……」


王国の暗部を担う暗殺部隊の……それも精鋭中の精鋭が三十人。

冒険者どもを確実に葬り去り、オーブを回収できるはずだった。

だが、結果は全滅。


屈辱以外の何物でもなかった。

それよりも……それだけの戦力を動かしておきながら収穫はゼロ。

目の前にいる男の目を見ることができなかった。


「困りましたね……」


顔を上げた。

しかしその男は、大して困ったような表情をしていなかった。

冷たい視線で騎士団長を見下ろしている。


「次こそは必ず奴らを始末し、オーブを回収してみせます」


「できるのですか? ほかの方にお願いしてもよいのですが……」


「宰相殿! 次は刺客の数を二倍……いや、三倍にして事に当たらせますので、どうか今一度機会を!」


コンラッドはそう言って深く頭を下げた。


「いいでしょう。次こそはお願いしますよ」


宰相と呼ばれた男は、にやりと笑った。


◇◆◇◆◇


おばばの家で聞いたこと、これから王都に向かうことを義両親に伝えた。

二人とも、僕たちがそうするだろうとわかっていたみたいだ。

「渡したいものがあるから、あとで大広間に来るように」と言われた。

ちなみに、ティナはそのあと、お義母さんに捕まっていた。


僕たちはそれぞれ、出発の準備を整えて大広間に集まった。

すでに大広間には、義両親とオットーさんが待っていた。

お義父さんが頷くと、オットーさんはテーブルに掛けてある布を丁寧にめくる。


布の下にあったのは、畳まれた外套と、長い杖だった。


オットーさんは外套を畳んだまま両の掌に載せ、胸の高さに捧げ持った。

そのままシドの前まで進み出ると、深く一礼する。


「陛下からでございます」


灰色がかった、何の飾りもない外套だった。

裏地にだけ、細い銀糸で見慣れない文様が縫い込まれている。


「お、俺に!?」


シドは戸惑った様子で、お義父さんと僕を交互に見る。


「受け取るがよい」


そう言うと、お義父さんはシドに頷く。

僕も軽く頷いた。


「せっかくだから着てみなさいよ」


ティナが促した。

シドは、恐る恐る外套を羽織る。

その瞬間、シドが消えた……


「なんともないんだが……どういう効果があるんですかね?」


シドの声だけが聞こえた。

よく見ると、シドのいた場所に輪郭だけがぼんやり浮かんでいた。


「すごいね……シド、見えなくなってるよ」


「は? 何言ってんだ?」


「本当に見えなくなってます」


シドがそこにいるのに、気配も感じ取れなかった。


「こちらは、霧織りの外套(ネーベルマンテル)と申します。ご覧のように相手から見つかりづらくなるほか、足音を消す効果もございます」


そう説明するオットーさんに気を取られていると、不意に肩を叩かれた。

振り返っても誰もいない。


「へぇ……こりゃすげぇや」


少し離れたところでシドの声だけが聞こえた。

たしかに、足音も聞こえなければ、気配も感じない。

ティナが急に後ろに向かって肘を突き出した。


「げほっ……おい!」


「あんたがいたずらしようとするからでしょ」


——ティナにはわかるみたいだ。


「一定の実力者には効果がありませんので、過信なさいませぬよう」


「早く言ってくれよ!」


シドが抗議の声を上げて外套を脱ぐ。


オットーさんが、テーブルの上の杖を両手で持ち上げた。

シャラン——と、音が大広間に響く。


白木の長い柄の先に、銀の輪がいくつも通されている。

輪の中心には、乳白色の宝玉がはめ込まれていた。


オットーさんは杖を捧げ持ったまま、クレアの前に進み出た。

クレアは杖から目を離さず、小さく息をのんだ。


クレアは杖に手を伸ばしかけて、止まった。

その腕には、聖典が抱えられたままだった。

杖と聖典を見比べて、眉を下げる。


「……貸しなさい」


ティナが、クレアの腕から聖典を抜き取った。


「あ……ありがとうございます、ティナさん」


クレアは両手で杖を受け取ると、石突きを床について立てた。

シャラン、と輪が鳴る。


「おお……」


誰からともなく声が漏れた。

杖を立てたクレアの姿に、大聖堂で見た女神像が重なった。


「こちらは、慈愛の錫杖(セラフィーナ)と申します。女神セラフィーナ様の意匠を写した品にございます」


「女神様の……」


クレアは杖を抱きかかえるように持った。


「この杖には、術の魔力を数倍に高める効果がございます」


「へぇ……じゃあ、クレア。何か魔法を使ってみなさいよ」


ティナがそう言うと、クレアは初級の回復魔法を唱え始めた。

その途端、杖から柔らかな白い光が溢れ出す。


「わ、わ、わっ!」


クレアはびっくりして詠唱を止めてしまった。

杖から光が消えていく。


「……とんでもないわね、その杖」


「す、すごいです……ありがとうございます!」


「う、うむ。気にするでない」


なぜかお義父さんが気恥ずかしそうにしていた。

その様子を見て、お義母さんが一歩前へ出る。


「ライルさんにはこれを」


お義母さんが腕に抱えていた包みを解くと、中からカイトシールドと呼ばれる形の盾が現れた。

深い青の地に、銀の曲線文様が縁から縁まで流れている。

その中央に、翼を広げた一羽の鷺(さぎ)の紋章が彫られていた。

今までに見たどの紋章とも違う。

縁には細かな傷がいくつも残っていたけど、どれも丁寧に磨かれていた。


「私が昔使っていたものです。ティナをお願いしますね」


「はい!」


僕は強く頷いた。

次は私の番かと、ティナがそわそわしている。


「これから厳しいことが待ち受けているやもしれぬ。みな気を付け……」


「ちょっと待って! 私のは!?」


お義父さんの言葉をさえぎって、ティナが抗議の声を上げた。

お義母さんがため息をついて、ティナを見た。


「あなたは、すでに持っているでしょう……」


「けち!」


ティナはそっぽを向いてしまった。


「ごほん……みな気を付けるのだぞ」


僕たちはそれぞれお礼を言って城を後にした。

転移の魔法陣の前では、おばばが待っていた。


「準備はええかの」


おばばは僕たちの顔を一人ずつ見て、目を細めた。


「……気を付けて行くのじゃよ」


全員が魔法陣に入ったのを確かめて、おばばが短く呪文を唱えた。

視界がゆがみ、目の前が暗くなる。

目を開けたときには、見覚えのある森の中に立っていた。


◇◆◇◆◇


——ライルたちが旅立ったあと、魔王の居室。


ヴァルドリックは窓辺に立ち、街の外れのほうを見ていた。


「あなた。あの子たちに、私たちのことを伝えなくてよかったのですか?」


フレイヤの問いかけにも、ヴァルドリックは振り返らなかった。


「……まだ、そのときではない」


窓の外に目を向けたまま、ヴァルドリックは続けた。


「ティナとライル、その仲間たちを頼んだぞ」


部屋には二人しかいない。

それでも、返事は窓の上から降ってきた。


「御意」


第二部もよろしくお願いします。

面白いと思っていただけたら、ブックマークや★での評価をいただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。