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嫁が魔王の娘だった件 〜Dランク盾使いの僕ですが、ツンデレで世界最強の妻を一生守り抜くと決めました〜  作者: 神無月 奏
第一部 辺境編

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第20話 初めてのお友達

すっかり日が暮れてしまった。

街灯が辺りを照らしている。

食堂からは食欲をそそる匂いが漂い、客席は仕事終わりの人たちでにぎわっていた。

酒場からは陽気な歌が聞こえてくる。

昼間とは違った活気で溢れていた。


クレアは泣いたことで少し落ち着いたのか、街の様子を興味深そうに眺めていた。

昼間はティナに手を引かれていたクレアが、今は隣で手をつないでいる。


僕たちは夜の街を通り抜け、城の門にたどり着いた。


「おいおい……なんだこりゃ」


「すごいお城ですね……」


シドとクレアは口をぽかんと開けて城を見上げていた。

——そうなるよね。

ティナは誇らしそうに腰に手を当てて、胸を張っている。


門に近づくと、ティナの顔を見た門番の兵士の一人が慌てて中へ走っていってしまった。

何か嫌な予感がする……

しばらくすると、門の奥から大男が肩を怒(いか)らせながら歩いてきた。

お義父さんの側近で、ティナのお目付け役のガレンさんだった。


「げ……」


ガレンさんを見るなり、ティナがくるりと後ろを向いて、来た道を戻ろうとする。


「姫様!」


耳を塞ぎたくなるような大声だった。

ティナがびくっと直立した。


「あれほど無断転移なされてはなりませんと、何度言ったらわかるのですか!」


「き、緊急事態だったんだから、しょ、しょうがないのよ!」


「言い訳は無用です!」


それからしばらく、ガレンさんによるお説教が続いた。

僕たちは、怒られてしゅんとなっているティナを眺めているしかなかった。


「婿殿も婿殿ですぞ!」


なぜか僕まで巻き込まれた。

その僕を見て、ティナがにやっとしたのがわかった。


お説教が終わると、謁見の間ではなく食堂に案内された。

正式な晩餐用の食堂で、二十人は座れる長いテーブルが部屋の真ん中に据えられている。

一番奥の席にお義父さんが、その隣にお義母さんが、すでに座っていた。


「遅かったではないか! すぐに着くという報告だったので料理を用意して待っておったのだぞ」


——誰から聞いたのだろう。

料理からは、まだ作ったばかりというように湯気が立ち昇っていた。

ティナは何かを言いたそうにしていたが、言葉を飲み込んだようだった。

そして、シドとクレアに向きなおる。


「父と母よ……」


それを聞いたクレアがきょとんとして尋ねる。


「え? ティナさんのお父様って二人いるんですか?」


「「「「は?」」」」


お義母さん以外の全員が、不思議なものを見るような目でクレアを見ていた。

お義母さんだけは、小さく首をかしげている。


「だって……リンドルでお会いしたお父様は、別の方でしたよね……」


「……あぁ! あれは、魔力で変装していたのよ」


ティナが説明する。

それを聞いたお義母さんの片方の眉がぴくっと動いた。


「あら、いつリンドルに行かれたのですか? 私は何も聞いていませんね……あとでゆっくりとお話ししましょうか」


そう言ってお義父さんのほうを向き、にこっと笑った。

お義父さんの顔がみるみる青ざめていく。

お義母さんは、ティナにも同じ笑顔を向けた。


「ティナもね」


ティナはスッと僕の後ろに隠れて、半分だけ顔を出している。

隠れながら袖を引っ張ってくる。

なんとかしろということなのだろう。

——僕にどうこうできる状況じゃないと思うんだけど……


「あ、あの……せっかく用意していただいたお料理が冷めてしまいますので……」


我ながら苦しい助け舟だった。

だけど二人の反応は早かった。


「うむ! そうだな! ライルがそう言うなら仕方あるまい!」


「うん! そうよね! ライルが言うんだから、しょうがないわね!」


——え!? 僕なの?

そんな二人を見て、お義母さんは、小さくため息をついた。

なんとか立ち直ったお義父さんは僕たちに席を勧める。


僕とティナはお義母さんの側に、シドとクレアはその向かいに座った。

シドは、さりげなくクレアを奥の席に押し出していた。


席に着くと、焼いた肉の脂と香辛料の香りが鼻をくすぐった。

厚く切った肉の表面に、網の焦げ目がくっきりとついている。

シドの喉がごくりと動いた。


「まずはご挨拶を。私はティナの母のフレイヤです。娘がいつもお世話になっております」


お義母さんが、シドとクレアに向かって静かに頭を下げた。


「ク、クレアと申します! こちらこそ、ティナさんにはいつも助けていただいて……」


「……シドです」


いつものシドからは想像できない、小さな声だった。


「うむ。堅苦しい挨拶はそのくらいでよい。冷める前に食べるがよい」


執事のオットーさんが、音も立てずに杯を満たしていく。

クレアはナイフを持ったまま、お義父さんの顔をじっと見ていた。


「あの……本当に、リンドルでお会いしたお父様なんですね」


「うむ。あのときは世話になったな、クレア殿」


「魔族の人って角(つの)があるのではないのですか?」


ティナが口に含んだワインを吹き出しそうになった。


「ちょっとクレア……私にも角(つの)はないでしょ!」


「あ……そういえばそうですね」


クレアはこてんと首をかしげた。

納得したのか、料理を一切れ口に入れる。

その目が丸くなった。


「おいしいです!」


それからは、ナイフが止まらなくなった。


一方でシドは、ほとんど食事に手を付けていない。

——気持ちはわかるよ……


その様子を見たお義母さんが声を掛けた。


「シドさん。そんなに緊張なさらないでください。あの人が何か言ってきたら、私に言ってくだされば大丈夫ですから……ね、あなた?」


そう言って、お義父さんに笑顔を向ける。


「う、うむ。そもそも、ティナの友人を無下にするつもりはないぞ……」


「は、はあ……」


シドは、おそるおそる料理を口に運んだ。

そしてクレアと同じように目を丸くする。

シドも食べる手が止まらなくなった。


ふと自分の皿に目を移すと、なぜか付け合わせの人参が増えていた。

ティナがせっせと僕の皿に移している……


「ティナ? 何してるの?」


「ライル、お腹すいてるでしょ? あげるわ!」


——いや、人参が嫌いなだけだよね……


食事を終えるとそれぞれの部屋に案内された。

僕はティナの部屋、シドとクレアには一部屋ずつ客間が用意された。


「私、クレアとお風呂に行ってくるわ!」


部屋に戻ったティナは唐突にそう言うと、部屋を出て行ってしまった。

その直後、お義母さんからの遣いの女官が訪ねてきた。

うまく逃げたようだ……


◇◆◇◆◇


危なかったわ!

もう少しでお母様に捕まるところだったわ。

まったく……お父様がいけないのに、なんで私まで怒られるのよ!


早くクレアを誘ってお風呂に行かなくちゃ。

お風呂を見たらきっとびっくりするはずよ。

ライルと一緒に入れないのは残念だけど……


クレアの部屋をノックする。


「クレア、いる?」


「はい」


クレアが扉を開けて顔を出した。

まだ神官服のままだった。


「一緒にお風呂に行きましょ!」


「お、お風呂ですか!? 行きます!」


そういえば、友達と一緒にお風呂に入るなんて初めてかも!

なんだかわくわくしてきたわ。

脱衣所に着くなり、さっさと着ていたものを脱ぎ捨てて浴場に通じる扉を開ける。

もわっと、湯気が立ち込めていた。


「す、すごいです! こんなに広いお風呂は初めてです! ……でもちょっと恥ずかしいですね」


浴場に入ってきたクレアの顔がほんのり赤い。

——ま、負けたわ……


「壁からお湯が出てますよ!? あ、この石鹸もいい匂いです」


クレアには見るものすべてが新鮮みたい。

喜んでもらえてよかった。

背中を洗いっこしてから、二人で湯舟に浸かった。


「お湯に浸かるなんて初めてです。気持ちいいですね~」


「クレアが元気になってよかった」


クレアは少し考えたあと、にっこりと笑った。


「ありがとうございます。私、ティナさんみたいなお友達がいてくれて幸せです」


なんでこの子はいつもまっすぐなんだろう。

少し涙が出てきちゃったわ……


「私がクレアを傷つけてしまったんじゃないかと思って、心配してたの……」


「え? なんでですか? ティナさんは何も悪くないですよ。……それに私はティナさんを信じるって決めていますから」


私はクレアに抱きついた。


「ちょ……ティナさん!?」


クレアは顔を真っ赤にしていた。


◇◆◇◆◇


「ただいま!」


ティナが部屋に戻ってきた。

お風呂に行く前よりも、なんだかすっきりした顔をしていた。


「あ、ライル。私、今日はクレアの部屋で寝るわ! 明日は朝からおばばのところに行くから、寝坊しないでよね! じゃあ、おやすみ!」


そう言って、枕を持って出て行ってしまった。


「……え?」


パタンと扉が閉まる。

ただでさえ広いベッドがやけに広く感じる。


——今日は早く寝よう……

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