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嫁が魔王の娘だった件 〜Dランク盾使いの僕ですが、ツンデレで世界最強の妻を一生守り抜くと決めました〜  作者: 神無月 奏
第一部 辺境編

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第17話 揺れる心

全員、動いていた。


僕はクレアをかばうようにして抱きかかえる。

ティナの髪が揺れ、目が赤く光った。

向かって来る矢がすべて爆ぜる。


「シド!」


シドは頷いて森の中へ消えた。

ティナが矢をすべて防いでくれている。

だけど、防いでいるあいだは反撃できないみたいだ。

——早くしないと!


クレアの傷はかなり深い。

一刻の猶予も許さない状況だ。

だけど、僕にはどうすることもできない!



……飛んでくる矢の数が減ってきた気がする。

気のせいではなかった。

雨のように飛んできていた矢が次第に減っていき、やがてぴたりと止まった。


「ティナ!」


僕はティナを呼ぶと、クレアを抱えて山賊のアジトに飛び込んだ。

中には縛られた山賊たちが転がっている。

血だらけのクレアを抱えた僕を見て、目を剥いていた。

だけど、今はそんなことはどうでもいい!


急いでクレアをベッドに寝かせた。

呼吸が浅い……


「……失敗しちゃい……ました。ごめん……なさい」


クレアが声を絞り出した。


「しゃべっちゃだめだ!」


僕は祈るような思いでティナを振り返った。

ティナは怯えたような表情をしていた。

迷っているのだろう……でもそれは一瞬だった。


「ライル!」


ティナの顔にもう迷いはなかった。


◇◆◇◆◇


「シド!」


ライルが何を言おうとしているかわかっていた。

俺は森に身を潜め、静かに、素早く移動した。

刺客どもの矢を、なんとしても止めなけりゃならねぇ。


ライルもクレアもティナがついているから大丈夫だ。

俺は自分にそう言い聞かせた。


すぐに一人を見つけた。

後ろから静かに近づき、急所に短剣を突き立てた。

まずは一人。


あの矢の数だ……

五人や十人じゃないだろう。

——俺にやれるか?

いや、俺がやらなきゃ、あいつらが危ないんだ……やるしかねぇ!


次の奴を見つけた。

……だが、すでに絶命していた。

胸には何かで射抜かれたような穴が開いていた。


そのすぐ近くにも同じような死体……


——なんだ!?


異様な光景だった……

俺たちを狙っていた刺客の奴らの死体が二十……いや三十体は転がっていた。

すでにこの辺りには、俺以外に生きている人間はいなかった……


……!

一瞬だが、視線を感じた。

背中の汗が止まらない。

ここには何かがいる……


俺はゆっくりと後ずさってその場を後にした。

結局、その何かは俺に襲い掛かることはなかった。


◇◆◇◆◇


「クレア!もう少しだから頑張るのよ!」


クレアは力なく頷いた。


「ライル、私の詠唱が終わると同時に矢を抜いて!」


「わかった!」


そう言うと、ティナは詠唱を始めた。

だけど、その言葉は人間のものではない。

僕も聞いたことがない呪文だった。


ティナの身体が青白く光った。

徐々にその光が強くなっていく。

額には大量の汗がにじんでいる。


詠唱が止まった。


「今!!」


僕は一気にクレアの胸に刺さった矢を抜いた。


「うっ……」


クレアが苦悶の表情を浮かべた。

その瞬間、ティナを覆っていた青白い光がクレアを包み込む。

その光は次第に淡い光になり、消えていった。


ティナが肩で息をしていた。


クレアの土気色だった顔色に、血の気が戻っていく。

今は穏やかな表情をしていた。


クレアがゆっくりと起き上がった。


「……私、助かったんですか?……さっきのあの魔法は」


ティナがクレアをぎゅっと抱きしめた。


「クレア、ごめんね……」


「ど、どうしたんですか?」


「ううん、なんでもない……」


——今はクレアが助かったことを喜ぼう……



「クレアは!?」


しばらくして、シドも無事に戻ってきた。

ベッドに座っているクレアを見て、目を丸くしている。

僕は、シドに頷いてみせた。


「そういうことか。何にしろ、クレアが無事でよかった」


「うん。外の様子はどうだったの?」


「あぁ、刺客は三十人くらいいた。装備からして、かなり手練れみたいだった……」


僕はびっくりした。


「……全部シドが?」


「いや、俺がやったのは一人だけだ……あとは、俺が見つけたときには死んでた……」


「え?どういうこと?」


僕は理解できなかった……

誰かが助けてくれたのだろうか。


「知らねぇよ。ただ、全員の胸に何かで貫かれたように、ぽっかりと穴が開いてやがった」


それを聞いたティナが、おもむろに立ち上がって外に向かった。

そして、ある一点を見つめている。

その顔は怒っているようだった……


「ティナ、どうしたの?」


「なんでもないわ……」


そう言うと、また建物の中に戻っていった。



その夜、僕たちは山賊の拠点で休むことにした。

ここは意外に快適だった。

ちなみに、山賊たちは縛り上げて、納屋に押し込んである。


僕たちは、暖炉がある一室でくつろいでいた。


「あ、あの。ティナさん」


クレアが口を開いた。


「ん?なに?」


「……私を助けてくれたときの魔法、あれは神聖魔法ではないですよね?」


「……うん」


ティナが目を伏せる。


「ちょっと俺は散歩に行ってくるわ」


シドが立ち上がった。


「いや、シドもいてくれ……」


僕は席を外そうとしたシドを引き留めた。


「私、教会で色々な神聖魔法を習いましたが、あの魔法は見たことがなくて……」


「……そうね」


「呪文も聞いたことがない言葉でした……」


「……うん」


ティナが今にも泣きそうな顔をしていた。


「クレア、あのね……」


僕が口を開きかけたときだった。


「ライル、ありがと。でも、自分で言うから大丈夫」


僕はティナの手をそっと握りしめた。

ティナも僕の手を握り返してから、ゆっくりと手を離した。


「クレアに話さなければいけないことがあるの」


「……はい」


クレアも今まで見たことがないくらい真剣な表情だった。


「あのね……私は……私は、魔族なの……」


「……え?」


クレアは絶句していた。

数分間の沈黙が部屋を支配していた。


「ま、魔族って、昔、人間の国を滅ぼしたっていう……あの魔族ですよね?」


「うん……」


「きょ、教会では魔族は敵だって……忌むべき存在だって……」


「そうよ……だから、クレアには知られたくなかった。ずっと友達でいてほしかった。ずっと仲間でいてほしかったから!」


ティナの目から涙が溢れていた。


「え、え?ライルさんは知っていたのですか!?」


「うん。まぁ魔族と結婚しているし、半分は魔族みたいなものかな……」


クレアの顔がみるみる青ざめていく。


「じゃあ……シドさんも……」


「いや、俺は人間だぜ。だが、二人のことは知っていた。黙っていてすまねぇ」


クレアも泣いていた……

それからしばらく、誰も口を開くことができなかった。



どれくらい経っただろうか。

暖炉の火が消えかけていた。


「私は、何を信じればいいのかわからなくなってしまいました……」


クレアがうつむいたまま、重い口を開いた。


「皆さんの言葉を信じればいいのか……教会の教えを信じればいいのか……」


彼女が顔を上げる。


「でも、ティナさんと過ごした日々は嘘じゃなかった。ティナさんは私のことをいっぱい褒めてくれました……」


目から涙が溢れた。


「私には教会の教えが間違っているかどうかは、わかりません。でも、ひとつだけわかっていることがあります」


……その顔は何かを決意した顔だった。


「私は、ティナさんと一緒にいたい!皆さんとこれからも一緒にいたいです!!」


「クレア!」


ティナがクレアを抱きしめた。

クレアもティナに抱きついている。


「ティナさん、ずるいですよぉ」


そう言って、声を出して泣いていた。


僕は、そっと暖炉に薪をくべた。

——長い夜になりそうだ。

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