第16話 平穏な一日
——村の事件から半月後、王国のとある部屋。
「例の件、成功したそうですね」
その男は静かな口調で問いかけた。
「はい。あの魔道具にて魔物を呼び寄せることに成功いたしました」
問いかけられた騎士は、そう言って深々と頭を下げた。
「やっと……やっと、三百年前の秘術が蘇った」
男は感慨深げに頷いた。
「長かった……」
「はい。二十年前には多くの同胞を失ってしまいました」
「そうですね……あれがなければもっと早く完成していましたね」
「ですが、これでやっと、あなたがこの国の王となる足掛かりができました」
男は冷たい目で騎士を見た。
「滅多なことは言うものではありませんよ。今回の件、証拠は残っていないでしょうね?」
騎士は冷や汗をかいていた。
男の物言いは静かだが、凄まじい威圧感があった。
「ダルトン卿によって村は灰になっております」
「そのダルトン殿はどうしておられるのですか?」
「すでに領民虐殺の罪で、家臣ともども処刑しております」
男はにやりと笑った。
「コンラッド殿は冷酷なお方だ」
「……」
「それで……オーブは回収できたのですか?」
「申し訳ございません……ダルトンおよびその家臣を尋問しましたが、何者かが持ち去った可能性がございます」
男の目が細められた。
コンラッドは、目を合わせることができなかった。
「……心当たりは?」
「ダルトンの屋敷に冒険者が侵入しておりました」
「冒険者ですか」
「はい。その冒険者は、過去二回の実験も妨害しておりまして……」
コンラッドは忌々しげに顔をゆがめた。
「何としてもオーブを取り返してください。邪魔なようでしたら……わかりますね?」
「はっ!」
◇◆◇◆◇
同じ頃、リンドルでは——
「あの領主が処刑されたみたいだぜ。ずいぶん街の噂になってやがる」
「一発殴っておけばよかったわ!」
今回はティナの発言に同意だ……
とりあえず、敵は取った……ということでいいのだろうか。
色々あったけど、これでひとつ区切りがついた気がした。
あれから、特に変わったこともなく穏やかな日々が続いていた。
「そういや、あの黒い球について、それとなく探っているがまったく情報がねぇ……」
「うん、こっちも全然だよ」
「まぁ、大っぴらに訊いてまわることもできねぇしな」
「街のみんなに訊いてまわればいいじゃない」
クレアもうんうんと頷いている。
シドが頭を抱えた。
「あのな、そんなことしたら、俺たちが黒い球を調べてるって宣伝しているようなもんだぞ」
「え?いいじゃない。本当に調べてるんだし……それで黒幕が出てきたら捕まえちゃいましょ」
——ティナなりに考えたみたいだ。
「あんた……今、なにか失礼なこと考えてたでしょ」
ティナに睨まれた……
「な、なにも。でも……ほら!街の人たちを巻き込んじゃいけないから!」
「……それもそうね」
納得してくれたようだ。
「貴族が絡んでいる以上、あまり目立つことは避けねぇとな」
今回のことはギルドマスターにも報告していたが、「あまり変なことに関わるな」と、くぎを刺されてしまっていた。
完全に手詰まり状態だった。
「とりあえず、依頼をこなしながら、調査を進めよう」
「そうだな」
「そうしましょう」
「猫を探すのとかは嫌だからね!」
僕たちは、手ごろな依頼を受けることにした。
依頼内容は、ゴブリンの集落の掃討だ。
ギルドの調査結果では、五十匹ほどのゴブリンが集落を造っているということだった。
早速、掃討に向かった。
リンドルの街を出て、二日ほどで集落を見つけた。
こん棒や、さび付いた剣を持ったゴブリンたちが徘徊している。
報告よりも少し多い気がした。
「ったく、ギルドの調査もあてになんねぇな……」
「どう攻めようか」
「正面突破でいいじゃない!」
シドは肩をすくめる。
「まぁ、あのくらいなら問題ねぇか。それじゃリーダー、合図を頼むわ」
僕は頷いた。
クレアは聖典を両手でぎゅっと握っている。
「それじゃ、いくよ!」
僕の合図とともに、全員が飛び出した。
ティナが真っ先に群れの真ん中に突入する。
一瞬で五匹を倒していた。
よっぽど、鬱憤が溜まっていたのだろう……容赦なかった。
僕は確実に一匹ずつ倒していった。
シドも短剣を使って次々に仕留めていく。
クレアは僕たちの後方で何かを詠唱していた。
次の瞬間、クレアの前に四本の光の矢が浮かび上がった。
そして、その光の矢が正確にゴブリンを射抜いた。
「神聖魔法!?」
驚いた。
「はい!最近覚えたんですよ!四本しか出ませんでしたけど、できました~」
そうこうしているうちに、掃討が完了していた。
あっという間だった。
「クレア、凄いじゃない!」
ティナがクレアに駆け寄って抱きしめていた。
「えへへ」
ティナに褒められて、クレアは凄く嬉しそうだった。
「しっかし、今回の依頼はあっけなかったな」
「これじゃ準備運動にもならないわ!……でもクレアの神聖魔法を見られたからいいわ!」
クレアもにこにこしていた。
あまりにあっけなく依頼を完了させた僕たちは帰路についた。
リンドルに戻る途中の山道に差し掛かったときだ。
「おい、金目のものを置いて行ってもらおうか」
僕たちの前に山賊が立ちはだかった。
相手は十人ほどいるだろうか。
山賊たちからは下品な笑い声が上がっていた。
そのうちの一人がこちらに近づいてきた。
そして僕の顔を見た途端……
「ん……あんちゃんは……ってことは……」
その山賊は、僕の少し後ろにいたティナの顔を見た。
「ぎゃあああああああ」
そして、泡を吹いて気絶してしまった。
——あ、この人……前にティナが捕まえた山賊の一人だ。
どうやって逃げてきたのかは知らないけど、また同じことをしているようだ……
「なによ、人の顔を見て気絶するとか失礼ね!」
ほかの山賊たちは、何が起きたのかわからずぽかんとしていた。
そして、あっという間にティナに縛り上げられてしまっていた。
「ねぇ、ティナ。山賊たちが近づいていたの知ってたよね?」
「もちろん知ってたわよ。面白そうだったから黙ってたわ!」
胸を張って得意そうにそう言った。
「……次からは言ってね」
ティナからしたら大した相手ではないのだろうけど、心臓に悪い……
ふと、ティナが思い出したような顔になった。
「あっちに行くわよ!」
そう言うと、足早に歩きだした。
僕たちは後を追った。
目の前には、山賊のアジトがあった。
それも以前とまったく同じ場所に……
ティナがアジトの扉を蹴破って中に入っていった。
「げ!お前は!ぎゃあああ!」
一瞬で制圧して戻ってきた。
「まったく、同じ場所にアジトを作るとか、馬鹿じゃないの!?」
——僕もそう思う……
そのときだった。
「みんなよけて!!」
ティナの鋭い声が飛ぶ。
突然、風を裂く音が一斉に響いた。
僕は、クレアをかばって盾で矢を防いだ。
ティナは矢を素手で叩き落としている。
シドも近くの木に身を隠していた。
森の中から絶え間なく矢が飛んでくる。
ティナも無数の矢を叩き落とすのに手いっぱいのようだ。
このままではじり貧だ……
そのとき……
「私も戦います!」
そう言って、クレアが光の矢を放とうと前に出た。
「クレア!だめだ!!」
ドスッ……次の瞬間、クレアの胸に矢が突き刺さっていた。
「「「クレア!!」」」




