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嫁が魔王の娘だった件 〜Dランク盾使いの僕ですが、ツンデレで世界最強の妻を一生守り抜くと決めました〜  作者: 神無月 奏
第一部 辺境編

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第15話 墓標

「わ、わかった! 話すからやめてくれ!」


ティナは領主を部屋の中に放り投げた。

投げられた領主は、床を転がり壁にぶつかってやっと止まった。

なんとか起き上がりガタガタと震えている。


「じゃあ、もう一度訊くが、なぜ村の人たちを殺した」


「む、村のやつらは魔物に殺されたのだ!」


ティナが領主へ一歩踏み出した。

領主は尻をついたまま、壁に背中を押し付けた。

逃げ場がないのに、まだ後ろに行こうとしている。


「ひぃぃ! よ、寄るな! ほ、ほ、本当だ! 魔物に襲わせるゆえ、門が閉まらないようにしておけと言われたのだ!」


「……魔物に襲わせる? どうやって魔物に襲わせた? それは誰の指示なんだ?」


「し、知らん! 本当に方法は知らんのだ! そうしろと指示されただけなのだ!」


よほど怖かったのだろう、涙まで浮かべて、ペラペラと話し始めた。


「だから……誰に指示された」


「そ……それは……」


ティナがもう一度詰め寄ろうとしたときだった。

外から激しい剣戟の音が聞こえてきた。

剣と剣がぶつかり合う音とともに、怒声も聞こえてくる。


窓から中庭を見下ろした。

そこには、領主の私兵たちと戦っている集団がいた。

よく見ると、騎士団の旗を掲げている。

一瞬、あの騎士団長の顔がよぎる。

だが、旗に掲げられた紋章は、以前見た騎士団のものとは違っていた。


「……を捕らえよ!! 抵抗するものは斬って構わん!」


指揮官のような騎士が何かを大声で叫んでいるが、肝心な部分が聞き取れない。

戦いは一方的で、騎士団があっという間に中庭を制圧し、建物内になだれ込んできた。


廊下から甲冑の擦れ合う金属音とたくさんの足音が近づいてくる。

それから数分もしないうちに、部屋に騎士たちが突入してきた。


「おお! ちょうどよかった! 曲者だ、こいつらを捕らえよ!」


騎士団を見た領主が、安堵の表情を浮かべて声を上げた。

さっきまで震えていたとは思えない変わりようだった。

だが、領主の思惑通りにはいかなかったようだ。


「私は近衛騎士団長レナード。ダルトン・ヘイズ。貴公を領民虐殺の容疑で捕縛する!!」


レナードと名乗った男が領主の姿を確認するなり宣言した。

続いて部屋に入ってきた騎士たちに指示を出す。


「……な! 近衛騎士団!? 話が違うではないか!」


「話とはなんのことだ? 無駄なあがきはやめよ」


「何かの間違いだ! コンラッド殿を呼んでくれ! あの方がすべて知っている!!」


「何を馬鹿な。そのコンラッド殿からの通報があったため、王命によりここにいるのだが?」


領主は絶句した。

脂ぎって赤らんでいた顔が真っ青になっていた。


「連行しろ」


「くそぉ! コンラッド! 謀りおったなぁぁ!」


そう言い残して、騎士たちに連れていかれた。

レナードは部屋に残された僕たちを見て怪訝な顔をして尋ねた。


「して、そなたたちはなぜ、この部屋にいるのだ? よもや強盗というわけでもあるまい……」


レナードは、縛られて部屋の隅に転がされている兵士をちらっと見た。

——たしかに傍から見れば強盗に見えなくもない……


「誰が強盗よ!」


ティナが即座に反応する。


「わ、私も何もしていないです~!」


クレアが聖典をぎゅっと抱きしめて必死に弁明している。


——凄くまずい状況だ。ティナがいるから捕まらないだろうけど、お尋ね者になってしまう……


しばらく沈黙が続いた。

周りの騎士たちも警戒している。

僕たちを遠巻きに囲むようにして剣を握っている。


「まぁよい。そなたらのおかげで罪人を捕らえることができた。礼を言う」


その一言で、騎士たちが剣を収めた。

そして、レナードは後ろに控えていた従者に何かを指示した。

その従者は僕たちに革袋を差し出した。


「褒美だ。受け取るがよい」


受け取った革袋はずしりと重かった。

僕はシドを見たが、彼は静かに頷いただけだった。



騎士団が館の捜索をするため、僕たちは領主の館から追い出された。

縛っておいた兵士は、僕たちの証言により、領民虐殺の実行犯ということで連行されていった。

なんともやりきれない気持ちだった。


「結局、何もできずに終わったね……」


僕はうなだれた。


「そうでもねぇよ……」


「そうよ!」


「いや、ティナは暴れたからいいけど……」


「なんですって! 私はあんたのこと心配して言ってるのよ!」


シドが僕の肩に、ぽんと手を置いた。


「スコットさんをやった奴や領主は騎士団に渡しちまったけど、色々わかったこともあるじゃねぇか」


僕はシドを見た。

シドは手を広げて親指を折ってみせた。


「まず、村を襲った魔物は人によって呼び寄せられたってことだ」


——そういえば、領主は『魔物に襲わせるから』と言っていた。

本当にそんなことができるのだろうか。

だとしたら大変なことだ……


「そして、領主のさらに上に指示した奴がいるってこと……」


人差し指を折って、シドが一呼吸置いたあと、中指を折る。


「んで、その領主が口にした名前が、コンラッドだ」


「……誰よそれ」


ティナはクレアを振り返った。

ぷるぷると首を横に振っている。

僕は、その名前に心当たりがあった。


シドはその様子を見てため息をつく。


「あのなぁ……村に来るとき、街道で止められただろ。そのときにいた騎士団長の名前じゃねぇか……」


「え! あの青マント!? やっぱりあいつが黒幕だったのね!」


ティナが拳を握りしめた。


「待て待て、まだ黒幕と決まったわけじゃねぇ。ただ、何らかのつながりがあるのは確実だ」


——たしかに、あの領主もさっきのレナードという近衛騎士団長も、コンラッドと言っていた。


「まぁ……ほとんど黒だとは思うけどな。それにそいつの後ろにいた副長も絡んでるだろうな」


シドが薬指を折った。


「それにだ、近衛騎士団があの領主を捕らえに来たタイミング、ずいぶんと早すぎると思わねぇか?」


たしかに、村が焼かれてから一日しか経っていない。

王都から来たにしては早すぎる。


「これは俺の勘だが、もともと仕組まれていた可能性が高ぇな」


騎士団長に副長、そして近衛騎士団……僕はまだ何か引っかかっていた。

なんだろう……

二人に共通する何かがあったはずだ。


「黒といえば……あの黒い球も、そのお二人が持ってましたね~」


——そうだ! あの二人に会った場所には、必ず黒い球があった。


「そうだよ! やるじゃねぇかクレア! これで五つだ」


そう言って、シドは最後の指を折りたたんだ。


「えへへ」


クレアはシドに褒められて嬉しそうにしていた。


「じゃあ、やっぱりその二人を捕まえちゃえばいいじゃない!」


「そんなことできるわけねぇだろ……相手は貴族だ。今の俺たちがどうこうできる相手じゃねぇんだよ……」


「じゃあ、黙って見てるわけ!?」


グレンツの村を思い出したのだろう。

ティナが悔しそうに顔をゆがめている。


「まずはあの黒い球の正体を突き止めよう」


全員の視線が僕に注がれる。


「あの球が何なのかはわからない。だけど何かの陰謀に使われていることは間違いない」


あの村がなぜ狙われたのかはわからない。

でも、あそこにあの黒い球があった。


滅びた村……割れた球。

この二つが無関係だとは思えなかった。

あの球が何なのかがわかれば、グレンツのような悲劇を防げるかもしれない。


「そうだな。調べてみるか」



その夜は野営をした。

久しぶりに焚火を囲んでの野営だ。

パチパチと薪の弾ける音が響く。

揺らめく炎がみんなの顔を照らしていた。


僕はやりたいことがあった。

それをみんなに切り出した。


「リンドルに帰る前にあの村に戻ろうと思うんだけど……」


全員が頷いてくれた。

すべて燃えてしまったけど、弔いはしてあげたかったのだ。

そして、褒美のことについて、僕はある提案をした。


「ライルがそう言うなら、いいわよ!」


「いいじゃねぇか」


「いいですね! さすがライルさんです」


みんなが賛成してくれた。


それから僕たちは、交代で見張りをしながら眠りについた。

今日までかなりの強行軍だった……

みんな顔には出さなかったけど、疲れていただろう。


ティナもすぐに眠りに落ちていた。

僕はティナの寝顔を見つめて、彼女の髪を撫でた。


「ライル……」


起こしてしまったかと思ったが、寝言だったみたいだ。

昼頃まで十分に身体を休め、グレンツに向かった。


村に着くと、その近くにお墓を作った。

ただ土を盛って、木の墓標を建てただけの質素なものだ。

遺体は、もう灰になってしまっていた。


クレアが祈りを捧げている。

シドが、どこから持ってきたのかお酒をお墓に供えていた。

そして、ティナも小さく祈りを捧げていた。

……ただ、その言葉は魔族のものだった。


僕たちは、マーカスさんがいつか戻ってきてくれることを願って、墓標に小さなメッセージを残した。


『村の再建のために』


お墓の下には、騎士団からもらった報奨金をそのまま埋めておいた。

マーカスさんが見つけてくれても、くれなくてもいい。

ただ、これがこのお金の一番正しい使い方だと思った。

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