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嫁が魔王の娘だった件 〜Dランク盾使いの僕ですが、ツンデレで世界最強の妻を一生守り抜くと決めました〜  作者: 神無月 奏
第一部 辺境編

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第14話 自慢の息子

「お前たちはここに残れ。俺があいつらを追う」


そう言うと、シドはあっという間に闇に紛れてしまった。

目の前には炎に包まれた村。

建物がひとつ崩れ落ちた。

僕たちは、それを見ていることしかできなかった。


夜が明けた。

真っ黒な炭と化した家々。

村は燃え尽きてしまっていた。


「なにかこっちに向かって来るわよ」


ティナがそう言って、村の東側に走る街道を見つめている。

たしかに……何かが向かってきているようだ。

何も見えなかったのが、豆粒くらいの大きさになっていた。

次第に大きくなっていく。


昨日のこともある。

僕は警戒しつつ、ティナの判断を待った。

ティナならここからでも見えるはずだ。


「荷馬車みたいね。乗っているのは一人で、武器は持ってなさそう」


荷馬車、ということは行商人だろうか……。

僕は安心したと同時に、別の不安を覚えていた。


荷馬車に乗った人物はかなりの速さで近づいてきた。

だいぶ馬を走らせているのだろう。

村の手前まで来ると、荷馬車から飛び降りて走り出した。


「な……なんだよこれ。村が……」


跪いて嗚咽を漏らしていた。

声をかけることができなかった……

クレアが小さく祈りを捧げた。


その男は、ハッとしたように立ち上がり、廃墟と化した村の中へ駆け出した。


「親父!」


僕たちは後を追った。

彼が向かったのは、詰め所があった場所だった。

その焼け落ちた建物の前で立ち尽くしている。


「そんな……親父……親父ぃ!!」


僕は確信した。

それと同時に、その残酷な現実に心が引き裂かれそうだった。


「……スコットさんの息子さんですよね」


「……あ、あなたは? 親父……俺の親父は!?」


僕は、この村が魔物に襲われたことを彼に話した。

そして、スコットさんからの手紙を手渡す。

彼はその手紙に目を落とした。


「自慢の息子なんて……何も言ってくれなかったのに……」


手紙を握りしめたまま崩れ落ちた。

しばらくすると、少し落ち着いたのか、彼は立ち上がって僕のほうに向きなおった。


「……申し遅れました。私はスコットの息子のマーカスと申します。ライルさん……ですよね?」


「はい……」


「この前、帰ってきたときに、しきりに父が話していました。ライルさんたちは村を救ってくれた恩人だと」


「ごめんなさい……」


僕は、結局は村を救うことができなかった……


「いえ、決してライルさんを責めているわけではありませんよ。父は本当に嬉しそうに話していましたから」


マーカスさんは目を伏せて僕に尋ねた。


「父の……父の最期はどのようなものだったのですか?」


僕は言葉に詰まってしまった。

——これ以上、この人を傷つけたくない……


「スコットさんは最後まで村のために戦ったわよ」


ティナ……

僕はティナに助けられてばかりだ。


「……スコットさんは立派でした」


クレアもそう言って短い祈りを捧げた。

——クレアまで……


「そうですか……父らしいですね。ライルさんたちに看取ってもらえてよかった……」


「……マーカスさんは、これからどうするのですか?」


「メルカティア自由都市に行ってみようと思います」


——メルカティア自由都市。

リンドルのずっと東にある国だ。


「あそこは有数の商業国家ですから……そこで稼いで、いつかこの村を再建させたいと思います」


マーカスさんはそう言うと、深くお辞儀をして、荷馬車に乗ってきた道を戻っていった。

——彼が無事に目的地までたどり着けますように。

今の僕には、そんなちっぽけな祈りしかできなかった……


◇◆◇◆◇


あいつらは必ず拠点に戻るはずだ。

そうすれば黒幕がわかるかもしれねぇ……

俺は、奴らの後を追っていた。


ライルのあの顔……

俺が止めなければ、こいつらに斬りかかっていたかもしれねぇ。

それだけは何としても止めたかった。


——あいつが手を汚す必要はねぇ。

そういうのは俺だけで十分だ……


「しっかし、あんたもよく一緒に仕事してた仲間をやれるよな……」


「仲間? これでやっと村を出られたんだ。あんな何もない村で一生過ごすなんてごめんだよ」


「あはは! その村はもうないけどな!」


——どこまでも腐っている奴らだな……


しばらく後をつけていると、奴らは大きな館にたどり着いた。

周りは石の塀に囲まれていて、門には兵士が立っていた。

——ずいぶん立派な館だな……


「仕事が終わった。領主様に報告してくれ」


奴らのひとりが門番の兵士に声を掛けた。

門に掲げられた紋章が目に入った。


——黒幕は領主かよ……しかも、あの紋章……いったん戻ったほうがよさそうだ……


◇◆◇◆◇


マーカスさんと別れてから半日くらいたっただろうか、シドが戻ってきた。


「なんかわかったの?」


「あぁ……黒幕はここの領主だった」


「は? 領主が自分のところの人間を殺したの?」


ティナが憤慨している。

エルデンハイムでは考えられないことだ……


「そういうことになるな。ただ……領主まで絡んでくると、そんな単純な話じゃねぇかもな」


「そうだね。慎重に行動しないとね」


——悔しいけど、貴族には簡単に手を出せない……

ティナは僕の顔をちらっと見た。


「領主のところに乗り込むわよ!」


「……おい。ライルの話聞いてたか? まぁ、もう少し探る必要もあるし、とりあえず移動するか」



僕たちはシドの案内で領主の館近くに身を潜めていた。

——どうにかして証拠をつかめれば、貴族相手でも告発できるはずだ。


「どうするのよ。ここでじっとしててもしょうがないわよ」


そのとき、あの若い兵士が歩いているのが見えた。

次の瞬間、その男はティナに殴り飛ばされ、きりもみしながら地面に倒れた……

ティナはその男を引きずってこちらに戻ってくる。


「捕まえたわ」


シドが頭を抱えた。


「慎重に行けって言っただろうが……しょうがねぇ、こうなったらこいつを利用するぞ」


一応は加減したみたいで、気絶しているだけのようだ。

シドはその男を揺り起こして、首元に短剣を突き付ける。

相手は何が起きたのかわからない様子だった。


「おまえが何をやったのか、知っているぞ。ここで殺してやりたいんだが……」


シドが凄むと、その男は震えながら懇願した。

一瞬、本気でそう思ってしまった自分に気づいて、僕は握った拳を隠した。


「ひぃぃ……な、なんでもするから殺さないでくれ!」


「なら、領主のところまで案内してもらおうか」


男はこくこくと頷いた。



男を先頭にして僕たちは館の門に向かった。


「わかっていると思うが……変な真似するなよ」


完全に悪人の台詞だ……

だけど、僕は止める気にはならなかった。


「りょ、領主様に客人だ。仕事の件だ、俺が案内する」


男は門番にそう言うと、そのまま門を通り抜けようとした。


「待て、お前。その顔どうしたんだ?」


腫れ上がった男の顔を見て、門番が呼び止めた。

緊張が走る。

シドが腰に隠してある短剣に手をかけた。


「……あぁ、これは酔って転んでしまってな。このざまだ」


「まったく。あまり浮かれすぎるなよ」


門番はそう言うと、自分たちの持ち場に戻っていった。

なんとか切り抜けたみたいだ。


中庭に入ると、武装した男たちが巡回していた。

見えるだけでも結構な数だ。

冒険者風の見た目や盗賊まがいの者、明らかに正規の兵士ではない者ばかりだ。


新しい仲間だとでも思ったのだろう。

男に先導されている僕たちは呼び止められることもなく、領主の部屋の前までたどり着いた。


シドが顎で扉を示して扉を開けさせた。

そして、そのままなだれ込む。


「な、なんだ、貴様たちは!」


あれ、この貴族は……

リンドルの街で、服が汚れたと因縁をつけてきた貴族だった。


「あ! リンドルの街でライルに絡んでたあの豚!」


「な……き、貴様は!」


こいつも僕たちのことを覚えていたようだ。

僕とティナは一瞬、動きを止めてしまった。


その隙を突いて、男が逃げ出そうとした。

——まずい!


その瞬間。


「ごめんなさい!」


クレアが男を殴り倒した……聖典で。

男は気絶したようだ。

その場にいた全員がクレアを見てぽかんとしていた。


いち早く立ち直ったシドが適当なものを見つけて、男を後ろ手に縛る。

そして、領主に尋問を始めた。


「……さて、いろいろ話してもらおうか」


「平民風情に話すことなどないわ。貴様ら、わしにこんなことをしてただで済むと思っておるのか?」


「なぜ村の人たちを殺した」


「殺した? 何を言っておるんだ。あの村は魔物に襲われて滅びただけだろう」


領主はとぼけるように、そう言った。


「ほぉ……あんたの領地に村は一つしかないのか?」


「馬鹿にするなよ。村などいくらでもあるわ!」


「じゃあ、なんであ(・)の(・)村だってわかるんだ?」


領主の顔が引きつった。


「ふん! 虫けらどもがどうなろうと、わしの知ったことではないわ!」


ティナが領主の襟首を掴んだ。

そして、窓の外に片手でぶら下げた。

指輪の食い込んだ太い指が、窓枠にしがみつこうともがいていた。


「あんたねぇ! しゃべらないと落とすわよ!」


「ふん……貴様に何ができるというのだ!」


領主がうるさくわめいていた。


「……あっそ」


ティナが手を離した……

ちなみに、ここは三階だ。


「ぎゃあああああああ!」


悲鳴を上げて落下していく領主の背中を、ティナが真上から跳躍して追い抜く。

二階の外壁を足場にして反転し、空中で襟首を掴むと、そのまま三階の部屋へと跳躍して戻ってきた。

そして再度、片手で窓の外に領主をぶら下げる。


「……次は本当に落とすわよ」

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