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嫁が魔王の娘だった件 〜Dランク盾使いの僕ですが、ツンデレで世界最強の妻を一生守り抜くと決めました〜  作者: 神無月 奏
第一部 辺境編

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第13話 黒いもの

村が……壊滅していた。

柵がなぎ倒され、建物が崩れ落ちていた。

森に逃げ込もうとした人たちだろうか。

数人がその手前で息絶えていた。


「おい! ライル!」


シドの制止を振り切って、僕は無我夢中で駆け出していた。

僕は開かれたままの門をくぐって村の中へ入った。


そこには、おびただしい魔物の死骸が転がっていた。

そのどれもに無数の矢が刺さっていた。


ティナが何かを見つけて駆け出した。

僕もティナの後を追った。

彼女の視線の先には……崩れたパン窯があった……

いくつものパンが散乱している。


「……」


僕はうつむくティナを抱きしめた。

……震えている。


少し先に目をやると、クレアが跪いて祈りを捧げていた。

彼女の足元には、小さな靴とおもちゃが転がっていた。


「ひどいです……なんでこんな……」


クレアの頬を涙が伝っていた。


「ひでぇことしやがる……」


シドもこの惨状を見て顔をしかめていた。

もしかしたら、まだ生きている人がいるかもしれない。

淡い希望も徐々にしぼんでいった。


そんな中、僕はふと違和感を覚えた。

この村は襲撃があれば、門を閉めて援軍が来るまで耐える手はずになっていたはずだ。

だけど、僕たちが村に入ったときには門は開いていた……


僕は一度、門に戻った。

魔物に破られたのなら、門は壊れているはずだ……


壊れていなかった。

それどころか、閂は壁に立てかけられたままで、落とされた跡すらなかった。

それに、スコットさんや二人の兵士たちの姿もなかった。


僕たちは、兵士の詰め所に向かった。

詰め所の周りには誰もおらず、扉もきっちり閉められていた。


扉を開けて中に入る。

人の気配はなかった。

一番手前の扉を開けた。

たしか、ここは宿直室だったはずだ……


入った瞬間、死臭が鼻を突いた。

誰かがベッドの上にあおむけで横たわっていた。

シドがそっと毛布をめくったが……すぐに毛布を元に戻した。

一瞬見えた顔はスコットさんではなかった。

兵士のうちの一人の顔だったと思う。


「見ないほうがいいぜ……」


シドは僕たちを部屋から追い出した。


「お前たちは、ほかの部屋を見てくれ」


そう言うと、シドは扉を閉めてしまった。

焦燥感を覚えながら部屋の扉を開けていった。

誰もいない……

そして、一番奥にある執務室の扉を開けた。

誰か椅子に座ったまま、机に突っ伏していた。


駆け寄って確認した。

……スコットさんだった。

彼はすでに冷たくなっていた……


「そんな……」


僕は膝から崩れ落ちた。

——なんで……! なんで彼がこんな目に遭わなくちゃならないんだ!

怒りと悲しみでぐちゃぐちゃだ……

涙が止まらない。


ティナが何も言わずに僕の頭をやさしく抱きしめてくれた。

どれくらい経っただろうか。

やっと落ち着いて顔を上げた。


「……ありがとう」


「……」


ティナは何も言わなかった。

部屋の外で待っていてくれたのだろう……

シドとクレアが部屋に入ってきた。


「お前たち、落ち着いて聞けよ……スコットさんの傷、魔物に付けられたものじゃない」


「どういうことですか……?」


クレアがよくわからないといった表情で尋ねた。


「背中から鋭利なもので一突きされている。さっきベッドで倒れてた兵士もだが、二人とも確実に急所を狙われている」


——魔物ではそんな芸当はできないだろう。


「間違いなく、手慣れた人間の仕業だ」


「え……そんな。こんなひどいことをする人がいるんですか!?」


僕もシドも何も言えなかった。


「村に生きている人がいるかもしれねぇ」


「そうだね……もう一人の兵士の人も、どこかにいるかもしれないね」


僕たちは詰め所を後にした。

村の外周から中央に向かって、生存者を探した。

宿屋や食堂、子供たちが遊んでいた広場、思いつくところはすべて探した。

だけど動いている人は誰ひとりとしていなかった。

悲しみだけが積み重なっていく。


「教会に避難した人がいるかもしれないです!」


クレアが思い出したように声を上げた。

たしかに……あそこなら建物も頑丈そうだった。

足早に教会に向かう。



——目に飛び込んできたのは固く閉ざされた扉と、中に入れず、扉の前で折り重なって倒れている人たちだった。


「そんな……」


——教会が人を救うことができなかった……それはクレアにとって、とてもつらいことだったのだろう。

彼女はその場に座り込んでしまった。


「クレア、まだ中に人がいるかもしれないよ」


そう言って扉を開けようとしたが、開かない。

よく見ると、扉の取っ手に鎖が巻きつけられていた。


「誰がこんな……」


僕が呟くと同時に、ティナが扉を蹴り開けた。

鎖がちぎれ、扉の金具が勢いよく弾け飛ぶ。

ティナが真っ先に飛び込んだ。


——中は、しんと静まり返っていた。

誰もいない……

シドとクレアも続いて中に入ってきた。


「誰もいねぇな……」


「……」


奥に進んでいった。

そして、僕たちは祭壇の前で足を止めた。

……いや、足を止めてしまったと言ったほうがいいだろう。


祭壇の上には、あの黒い球が置かれていた。

だけど、それは真っ二つに割れていた。


「これは……」


割れた球に手を伸ばそうとするクレアを僕は止めようとした。


「たぶん大丈夫……この前みたいな嫌な感じはしていないわ……」


ティナがうつむいたまま口を開いた。

それを聞いたクレアは片方の欠片を持ち上げた。


「……!」


欠片は砂のように、さらさらと崩れ去ってしまった。

ティナがもう片方を慎重に持ち上げた。

一瞬光ったように見えたが、やはり同じように崩れる。


「なによこれ……」


「……とりあえず、集めて持って帰ろうか。誰かに見てもらったら何かわかるかもしれない」


僕は少し考えてから言った。

僕の意図を察してくれたのか、ティナが頷く。

そして、集めた砂をすべて革袋に入れ、口を固く縛った。


教会から出たあと、もう一度、村を捜索した。

だけど、結局、若い兵士の姿を見つけることはできなかった。

陽が落ちようとしていた。


「明日、村の人たちを埋葬してあげよう……」


「はい……」


村を出る前に一度、スコットさんの所へ戻ってきた。

あのままにしておくのは、あまりにも不憫だったからだ。


執務室には抜かれることのなかった剣が立てかけてあった。

彼の亡骸を宿直室の空いているベッドに横たえて毛布を掛ける。

そして、彼の剣をそっとその上に置いた。


村から少し離れた場所で野営をすることにした。

さすがに、あの惨状の村の中では休む気になれなかった。


封鎖を突破してきたので、火は起こせない。

僕たちは、交代で見張りに立つことにした。


「僕が最初に見張りに立つよ」


みんな心身ともに疲れ果てていたと思う。

それぞれ、適当なところを見つけて横になっていた。

周りが見渡せる場所を見つけて腰を下ろした。


——もっと早く村に来ていれば、こんなことにはならなかったのではないか。

——前にこの村に来たときに、もっとできることはあったのではないか。


考えれば考えるほど、自分の無力さを実感した……

思いにふけっていると、隣にティナが座った。


「ライルは悪くないわよ……」


少しびっくりしてしまった。

そんなに顔に出ていただろうか。


「私だってライルの考えていることくらいわかるんだから……」


「ありがとう……ティナは寝ないの?」


「一日くらい寝なくても平気だし。それに……あんたがそんな顔してたら寝られないわよ」


「ごめん……」


ティナが大きなため息をつきながら、僕の肩に頭をあずけた。


「あやまらないの……」


それからしばらく、二人とも何も言わなかった。



突然、村のほうが明るくなった。

ティナの顔が険しくなっていた。


「シド、クレア起きて!」


急いで二人を起こした。



——村が燃えていた……

どんどん火の手が広がっている。

村には火の気はなかったはずだ。


僕たちは村へ向かって走り出した。

村に近づいたとき、門から数人の人間が出てきた。

全員が松明を手に持っていた。


シドが僕たちを手で制し、近くにあった草むらを指さして、身を隠すよう指示した。


「まったく馬鹿なやつらだぜ。おかげで面倒が増えちまった」


「これで片付いたな。あれは回収できたのか?」


隊長格だろうか、男が問いかけた。


「いや、それが……教会には何もなかった」


「どういうことだ。扉には鍵をかけておいたのだぞ。……まぁいい、どうせ全部燃えてしまうしな」


村を焼いている炎と松明が、その男の顔を照らし出した。

——目を疑った……それは、あの若い兵士だった……

目的を達したのか、奴らは村を離れていこうとした。


僕とティナは怒りに任せて飛び出そうとした。

それをシドが止める。


「待て、奴らには黒幕がいるはずだ。今、あいつらをぶちのめしたら、それがわからなくなっちまう」


たしかにその通りだ。

スコットさんや村の人たち、ただそこで一生懸命に生きていた……

その報いは必ず受けさせなければならない。


僕の心に黒いものが湧き上がってきた。

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