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嫁が魔王の娘だった件 〜Dランク盾使いの僕ですが、ツンデレで世界最強の妻を一生守り抜くと決めました〜  作者: 神無月 奏
第一部 辺境編

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第12話 ピクニック

「あんたたち、コソコソなにやってるの?」


僕はティナの声ではっと我に返った。

シドがまだ愚痴を言っていた。


「おい。聞いてんのか?」


——昔のことを思い出してて聞いていなかったなんて言えない……

僕は、シドではなくティナに返事をした。


「う、うん。シドとお義父さんのことを話してた……」


「……まったく、男ってほんとバカよね!」


返す言葉がなかった。

——どちらにしても怒られるんだね……




それから数日後、冒険者ギルドでミレイユさんに呼び止められた。


「ライルさん、あなた宛てに手紙が届いているわよ」


「おっ、ラブレターか?」


「なんですって!?」


クレアはびっくりしたように両手を口に当てていた。

ティナがカウンターに身を乗り出す。

ミレイユさんの冷たい視線が刺さった。


「絶対に違うと思うよ……」


そう言って、僕はミレイユさんから手紙を受け取った。

その手紙は丁寧に折りたたまれて、封筒に入れられていた。


「おいおい。ますます怪しいな」


「……」


——ティナの目つきが怖い。


封筒から手紙を取り出して慎重に広げた。


「スコットさんからだ」


「……チッ」


シドが残念そうにしていた。

ティナは……すでに興味をなくしたみたいだ。



手紙にはこう書かれていた。


『ライル様、仲間の皆さまもお元気でしょうか。あれから二ヶ月ほど、皆さまのおかげで魔物の襲撃もなくなり、村の者たちも安心して暮らせております』


そして、徐々に村に人が戻ってきていることや、パン屋のおばちゃんがティナに会いたがっていたこと、子供たちの様子などが書かれていた。

それと、スコットさんの息子さんが一度帰ってきたそうだ。

行商人をしていて国中を回っているらしい。


『男手ひとつで育てた自慢の息子です。ライル様も冒険者としてお忙しいでしょうが、近くに来た際には是非、お立ち寄りください』


ほんの少し前のことだったのに、とても懐かしく感じた。


「ふ~ん」


すぐ耳元で声が聞こえた。

ティナは結局、気になって一緒に手紙を読んでいたらしい。


「ねぇ。会いに行きましょうよ!」


「いいですね。私もリタちゃんたちに会いたいです」


ティナとクレアが目を輝かせていた。

僕はシドの顔を見た。


「まぁ、いいんじゃねぇの」


「じゃあ、みんなで会いに行こうか」


「あら、ちょうどいいわ。あなたたちにお願いしたい依頼があるのだけれど……」


話を聞いていたミレイユさんが、僕たちに声を掛けた。


「依頼ですか?」


「そう。依頼と言っても、そんなに難しいものじゃないわ。ただ街道を見回ってくれるだけでいいの」


「ずいぶん簡単な仕事ね」


「ギルドでは定期的に巡回の依頼を出しているの。でも、北にはなにもないでしょ。だから、お願いできる人がいないのよ」


「なるほど。了解しました」


そう言ってミレイユさんから依頼書を受け取った。


「お願いします」



僕たちは北の村に向けて出発した。

ひたすらまっすぐな街道をのんびりと歩いている。


「ピクニックみたいですね~」


クレアがはしゃいでいた。

その言葉を聞いたティナが深刻な顔をした。


「ティナ、どうしたの?」


「お弁当買ってくるの忘れたわ!」


「……ちゃんと用意してあるから大丈夫だよ」


ティナは心底ほっとした顔をしていた。

そして、僕に腕を絡ませてきた。


「昼間からいちゃつくんじゃねぇよ……」


「なによ。シドもさっさと結婚したらいいじゃない」


「俺は気楽なのがいいんだよ」


みんな気持ちに余裕があった。


「ねぇ! お昼にしましょ!」


「はい! お昼にしましょう!」


「二人とも……出発してからまだ一時間しかたってないよ……」


ティナもクレアも不満そうだった。

それから半日ほど歩いただろうか。


「しっかし、なんもねぇなぁ……」


「そうですね。それに人もいませんね~」


ミレイユさんが言っていたのも頷ける。

前にグレンツの村に向かったときは、気に留めていなかったけど、本当に何もなかった。

見渡す限り、草原と森が広がっているだけだ。


時々、ぽつんと建物があるが、ほとんどが無人で朽ち果てていた。

休憩にちょうどよさそうな草地を見つけた。

切り株があり、丸太が転がっていた。


「それじゃ、ここで休憩しようか」


「ライル! お弁当!」


ティナは待ってましたとばかりに僕にお弁当を要求する。

クレアも目をキラキラさせていた。


「ちょっと待ってね。みんなの分を買ってあるんだ」


僕はそう言うと、みんなにお弁当を配った。

もちろん、一番最初にティナが持っていったのは言うまでもない。


「お、気が利くじゃねぇか。干し肉で済ませるところだったぜ」


お弁当の中身を見た瞬間、ティナの顔がぱぁっと明るくなった。


「これって!?」


「うん。ティナの好きな串焼きをサンドイッチにしてもらったんだ」


「ライル、愛してる!」


——初めて言われた気がする……でも、なんか軽くないかな……

最近、毎日のように、あの串焼き屋に通うので、すっかり常連になった。

出かけることを話したら、店主がこれを作って渡してくれた。


昼食をとりながら、のんびりとした時間を過ごした。

夜は野営をし、朝になってまた村を目指した。


特に代わり映えのない行程が続いた。

グレンツまであと一日というところだった。


少し先にいくつもの人影が見えた。

旅人や商人ではなさそうだ。

僕たちは警戒しながら、街道を進んで行く。


……それは完全に武装した集団だった。


「止まれ!」


僕たちは行く手を阻まれた。

全員、揃いの装備だけど、所属を示す旗は掲げられていない。

剣と盾、そして弓を肩に掛けている。

どこかの兵士なのだろうか。

だけど何かが変だ……


先頭の男が声を張り上げた。


「この先に何用だ! ここから先は封鎖されていて通れんぞ!」


「は!? いきなりなんなの!」


いきなりの言われようにティナが食って掛かる。


「僕たちはリンドルの冒険者です。この先にあるグレンツの村へ向かう途中なのですが」


ティナを押さえながら、目的を告げた。

だけど、返ってきた答えは冷ややかなものだった。


「冒険者だろうと通れぬものは通れん。さっさと引き返せ」


「そう言われましても……」


騒ぎを聞きつけて、責任者らしい人物がこちらに向かってきた。


「コンラッド様!」


さっきまで横柄な態度だった兵士が急にかしこまった。

コンラッドと呼ばれた男は、青い裏打ちのマントを羽織っていた。

僕たちの姿を確認して、あからさまに嫌そうな顔をした。


「貴様たちは……」


それはコルネ村で遭遇した王国騎士団長だった。

ティナとは犬猿の仲といってもいい。


そのときのことを思い出したのだろう、ティナが口を開く。

それをシドが止めた。


「やめろ。おい、いいから行くぞ」


シドの様子がいつもと違う気がした。

僕たちは、今にも騎士団長に飛び掛かりそうなティナを引きずるようにしてその場を離れた。



——騎士団が見えなくなるところまで移動した。


「なにすんのよ! あんなの蹴散らしちゃえばいいじゃない。まずはあの青マントからだわ!」


「まぁ、落ち着け。あの騎士団長の後ろにいたやつ……見たか?」


「見てないわよ」


「僕も……ティナを止めるのに必死だったから」


「なによ!」


後ろにいるクレアを見た。

クレアは、こてんと首をかしげていた。


「おまえらなぁ……。あれはグレンツの村にいた副長だぞ」


「誰よそれ」


ティナが怪訝な表情をした。


「会っただろうが。教会から黒い球を持って行ったやつだよ」


「なんでそいつが騎士団にいるのよ」


「しらねぇよ。だけど、なんか引っ掛からねぇか?」


——たしかに、あの騎士団長、そしてスコットさんの村で会った副長……

なんだか嫌な予感がした。


「村に行ってみよう。スコットさんに訊けば何かわかるかも」


「でも、騎士団に道を塞がれていますよ」


「強行突破ね!」


「やめてよ……そんなことしたらお尋ね者になっちゃうよ?」


「バレなきゃ平気よ!」


本当にやりそうだ……

とにかく、どうにかして村に行く方法を考えなければ。


「暗くなるまで待つしかねぇな」


森に身を潜めて暗くなるのを待った。

その間に地図を広げ作戦を練る。

この森を抜けていけば、村の近くに出られそうだ。


交代で仮眠をとった。

夜通し歩き続けることになるだろう。

少しでも休んでおかなければ。


陽が落ちて、あたりが暗くなった。

月明かりだけが地面を照らしている。

僕たちは行動を開始した。


「明かりは使えねぇ。夜目は利くほうだが……こりゃなかなか大変だな」


いたるところに木の根や岩がある。

森の木々に遮られ月明かりも届かない。

その暗闇を進まなければならなかった。

そんな中、ティナはひょい、ひょいと進んでいく。


「……ティナ、こんな暗い中で見えるの?」


「え? ふつう見えるわよね?」


僕とシドは顔を見合わせて肩をすくめた。

ティナに先導してもらい、順調に進むことができた。


夜通し歩き続け、空が白くなってきた頃、やっと森を抜けた。


「やっと抜けたわね」


「おい……あれ……」


——僕たちは、目の前の光景に目を疑った。

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