宛先のない手紙
宛先のない手紙がメリーアンに届いたのはドナルドが屋敷に結婚の申し込みに来てから、一週間後のことだった。 メディオン家の紋章が封筒についていたので、ドナルドの手紙だろう。 今回は使者は直接私に渡さず、屋敷の門番に託したらしい。 手紙にはこのようなことが書いてあった。
(前世のメリーアンへ
僕は君の話が信じられず、屋敷に戻ったが、母の部屋の箪笥にあったハンカチ、父の書斎に机にあった古くなった飴玉、その他僕の知らない屋敷のことが、君の話通りだったので、君の話は本当だったのだろう。 それから、僕は医者に調べてもらったが、やはり君の言うように種なしだった。
僕は母が亡くなってから、父から伯爵領を守ることだけを教えられてきた。 人を上手く愛することが出来ない僕との結婚生活はきっと君には辛いものだったんだろう。 これからは、僕を愛してくれた女性のお金をたよらないように、何とか自分だけでこの領を守っていきたいと思う。 僕の犯した過去の過ちは、君に謝ってもあやまりきれない。 君を不幸にしたのは、伯爵家を守るという執念とつまらない僕のプライドのせいだと思う。 君の心を守ってあげられなくて、すまなかった。
メリーアン、愛し方を知らない僕だったけど、僕の性格から愛していない女とは暮らせない。 たぶん僕なりに君を愛していたのだと思う。 そしてこの手紙は君が許してくれるなら、君の手で燃やしてくれ。 今の僕は君が幸せになることを祈っている)
メリーアンは彼の手紙を読み、静かに暖炉に火をくべ、燃やした。
彼を愛することは出来なかったが、恨みはすでに消えていた。
ドナルドは自分の乏しい愛情の中から、私を愛してくれていたのかもしれない。
彼は8年間一度も愛人を作ることはなかったし、私たちが別荘に行った時、別荘に顔を出さなかったのも、彼なりの私に対する配慮だったのかもしれない。
私が社交界に出なくなった最後の半年は、私は彼との夜を拒否することが多かったが、ベッドを共にするときはいつも優しく接してくれていた。
それは私にとっては義務的な悲しい愛されかたであったが、あれが彼なりの私への愛だったのかもしれない。 私は、母の葬儀の後、実家に戻ろうと思えば戻れたのに、戻らずいたのは、その僅かな絆が切れなかったせいなのかもしれない。 あの最後の日、彼から別れると言われて私は絶望してその絆を切ろうと死を選んだのかもしれない。
私は過去からの贈り物として、投げつけた日記に書いてあったたメディオン家の問題、事業の管理方法、農業経営の管理方法、農地改革、新しい事業、自分のやってきた仕事を彼に資料として贈ろうと夜遅くまで何日もかけまとめた。 そして不良債権化してる債権を3つ売り出すように書いた。
その債権は買い取り手がない債権だが、売りに出たら、私の薔薇の化粧品の売り上げからすべて買い取ろうと思う。 これで当面の伯爵家の倒産は抑えることができるだろう。
最後に今伯爵家にわずかに残る財産は新しい事業には使わないで、鉄道の記事が出る前に、自分できちんと調べ、後に王国で行う初めての鉄道事業に投資するように、伯爵領から出た利益は、できるだけその事業の債権を買うことに使うように、と書いた。
開発計画を持つ鉄道会社の名と所在地も書類の中に重要事項として書いておいた。
前世、伯爵家は情報が遅くなってしまい、会社の初期頃に貴族あてに募集した債権の買い取りに遅れてしまって、残念な思いをしたが、その後、その鉄道会社の事業には王国が乗り出し、王国では唯一の鉄道となり、最初に安い金額で債権に投資した貴族は後にその債権の恩恵に永続的に受けられることになる、と重要な情報を書いておいた。
私は薔薇の化粧品の売り上げ利益はすべてこの事業の債権を国営になるまで買い続けようと思っていたが、我が子爵領や隣の領土はもう十分に豊かなのでこれ以上の資産はいらない。
私は、手元にある日記帳をすべてドナルドの思い出とともに燃やしてしまった。
冬の足跡の近い、枯れ葉舞う晩秋の夜のことだった。




