メリーアンの絶望
ドナルドはある日、金褐色の髪に緑の目の私にそっくりな女性を館に連れてきた。
「今日から彼女は離宮に住み、私の子供を産んでもらう」彼のまるで報告のような言葉に私は耳を疑ったが、彼は淡々とした口調で「すべては家のためだと」と私に言った。
どうやら彼は私のことを妊娠不能と決めつけたようだ。
私は仕方なく了解したが、心には大きなしこりを作った。
彼は定期的に夜、離宮に通うようになり。そのことで私の心は壊れそうになったが、次に日の夜は、彼はまるで私を慰めるように優しくして抱いてくれた。
私たちは外では何事もないようにふるまい、社交界でもいつものように仲良い夫婦を演じていた。
3か月もする連れてきた女は妊娠して、私と彼女は遠く離れた別荘に僅かな使用人達と移った。
別荘で私とそっくりな女性と時々ではあるが顔を合わせることがあり、彼女は口が重くなにも話さなかったが、私と彼女の間には不思議な感情が芽生えるようになった。
彼女が妊娠してお腹が大きくなっても一度も別荘に現われない男、私には定期的に仕事の連絡だけがきていたが、冷たいドナルドの心に私の心も凍り付いた。
やがて彼女は、医者が別荘に派遣され、男の子を産んだ。
連絡を受けたドナルドはその日の夜、私に「彼女と2人ってきりにしてくれ」と私を遠ざけたが、次に日彼女の姿は何処にもなかった。
そして生まれたばかりの子を私に渡し、この子を自分の子として育てるように私に言った。
私は子供の母がどこに行ったのか?気になり何度も彼に聞いたが、彼はなにも言わなかった。
この時私は、彼への愛を失いかけたが、伯爵家を継ぐ跡取りが必要だと言う彼の言葉に自分なりに納得して子供にミゲルと名付け、愛情を注いで彼を育てることに決めた。
彼と結婚して7年ほどたった時、私の実家の事業に傾きが出てきた。
隣の子爵領に、新たに金鉱のある比較的に強固な洞窟を発見して、父は今回は前回のことへの謝罪に隣の子爵家を金銭的に応援しようと思ったのだ。
新しい洞窟は私が譲渡された洞窟に近くにあったので、たびたびお互いの鉱夫達がぶつかり諍いが絶えなかった。
夫のドナルドは新たに金の鉱山が子爵領に発見されたことで、金の値段が下がることを心配して、新しい金の発掘を様々な手段で妨害行為をしていたのだ。
妨害行為に怒った父が伯爵家に乗り込むと、ドナルドは鬼のような形相で何の根拠もないことと、私の父親を遠ざけた。 私が何度彼に頼んでも妨害は続いたようだ。
この両家の争いを心配した母は、自分が病気だったことを父に隠し、何とか私達を仲裁しようと、何度か我が家を訪れたが、帰りの馬車が事故を起こし、崖に落ち、あっけなく死んでしまった。
私は子爵家に戻り母の葬式に参加したが、主人のドナルドは葬式には参加しなかった。
私はこの時ドナルドは計算高い冷たい男とはっきり認識してた。
その後、伯爵家と両子爵家との争いは続き、嵐が2日ほど続いた日にその事件は起きた。
強固な洞窟が崩れたのだ。 2日目に嵐の晩、心配して洞窟を訪れた作業員が3人が何者かに倒され、洞窟の入り口付近が意図的に崩され、この洞窟での金の採掘は国から危険と中止命令が出された。 金を掘り出す手前だった父と隣の子爵様は大損害を被った。
このことで、私の父の信用が崩れ、次第に今までやっていた事業も小さくなり借金をするようになっていった。 私はドナルドに頼み、今まで父からの援助の金額の三分の一でも返してほしいと頼んだ。
彼は冷たく私に、そんなことは不可能だと、言った。 そのころから彼は私を社交の場には連れていかなくなり、一人で参加するようになった。 私は彼には何も期待せず、伯爵家の帳簿を付け、財産管理をして、何とか子爵家にもこのお金がいかないかと、細工しようと思っていた。
そして、私のそばにいるミゲルを我が子のように可愛がった。
ミゲルは3歳を過ぎると、髪の色が灰色から、黒い色に変わった。 その髪の色にドナルドはミゲルをあやしむようになり、医者から自分が子種のないことを聞かされたらしい。
ミゲルの母親は秘密保持のため子供が16歳になるまで、修道院に入れられていた。
彼女は、付き合っている男から逃れるためにドナルドとの出産の契約を結んだようだ。
その修道院を彼女の居所をみつけた男が時々訪れ、その黒い髪の男がミゲルの父親らしいと、判断したようだ。 ミゲルは、私と同じ緑の目を持つが、確かに、ドナルドにはあまり似ていない、ドナルドは灰色の髪に青い目だ。
彼は私からミゲルを取り上げ、「この子の父親は頭の悪い、素行の悪い暴力男で顔だけが取り柄の男だ、自分の後継者には相応しくない、ミゲルを孤児院に入れ、代わりに頭の良い灰色の髪の男の子を我が家に迎えよう」と言った。
私は、立派にこの子を育てるから取り上げないでくれと泣いてドナルドに訴えたが、彼は私から、ミゲルを奪い何処かに連れて行ってしまった。 私の絶望は頂点に達した。
彼にとって私はいったい何なのだろう? 彼にとり私はこの伯爵家を維持するための只の道具、彼はこの伯爵領のことしか考えていない。 この時私の心は完全にひび割れた。
何もかも私のせいだ、母の死、父と友人である隣の子爵様にも迷惑をかけ、私が我がままを言わなければこんなことにはならなかった。
伯爵家との身分不相応な結婚を望まなければ、父や家族を不幸にまきこむこともなかった。
私はドナルドを殺し、自分も死のうとその時思った。




