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幼馴染にフラれた日、ヤケクソで助けた男の子の姉がクラスのお姫様だった 〜お姫様直々のプロデュースで、幼馴染を見返します〜  作者: 桜 偉村
第十二章

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第147話 芽生えたモヤモヤ

予約投稿忘れてました……すみません!

「やっと終わったー……」


 潤が翔の前の席に勢いよく腰を下ろし、そのまま机に音を立てて突っ伏した。


 夏休み明け初日ということもあり、授業は午前中のみだった。

 しかも、一時間目は集会で潰れたし、その後の授業も宿題の提出などがあったため、普段に比べれば緩いものだった。


 だというのに、潤はまるでフルマラソンを走ったかのような疲労具合だ。


「今日は序の口で、明日から本格的に授業が再開するけどな」

「ふっ、さっきまで英語やってたからな。日本語がよくわからねーぜ」

「いや、お前寝てただろ」

「うっ」


 潤の席は翔よりも前方なので、寝ているかどうかはすぐにわかる。

 翔も寝ていなければ、という条件付きではあるが。


「というか、潤が日本語よくわからないのは、英語やってなくてもじゃない?」

「ぐはっ!」


 翔の容赦のない指摘ですでにダメージを受けていた潤は、近くまでやってきていた美波の追撃で撃沈した。


「二人とも容赦ないね」


 美波とともにやってきた彩花が、突っ伏した——というより打ちのめされた——潤を見て苦笑した。

 その視線がふと、教室の後方の扉付近に向けられる。


 翔もそちらを見ると、中村たちがそそくさと教室を出ていくところだった。

 ジャージ姿なので、これから部活に行くのだろう。


 ペンキの一件以来、彼らは文化祭準備に顔を出さなくなった。

 いや、ペンキの一件というよりは、名前呼びも含めた翔と彩花との対立というべきだろうか。

 美波とも一悶着あったようだが、翔と彩花は外に出ていたため、詳しいことはわからない。


「あいつら、本当あり得ないよね」


 美波がグッと眉を寄せた。

 不愉快さを隠そうともしていない。


「別にいいんじゃない。来てもらっても、お互い気まずいだけだし」

「でも、みんなが準備してる中で、自分たちだけ何もしないのはおかしいでしょ」

「それはそうだね」


 吐き捨てるような美波の言葉に、彩花が淡々と返した。

 それで、美波もそれ以上深追いする気は失せたようだった。


「そういえば、潤は部活に行かなくていいの?」

「今日は休みだからな。ハァ、テンション下がるぜ……」


 潤が机に突っ伏したまま、どんよりとした空気をかもし出している。

 ここまで覇気のない彼は、初めて見たかもしれない。


 そう感じているのは、翔だけではなかったようだ。


「こんなにうるさくな——元気のない潤は初めてだな」

「うるさくなく——元気がなくて野球してない潤なんて、誰かわかんなくね?」


 亮平のわざとらしい言い間違えに、森本がすかさず便乗した。

 そして、野球部カルテットの最後の一人、奈良坂がニヤリと口の端を吊り上げて、


「夏休みのない八月のようだ」

「夏休みの話はやめろ! というか亮平と森本はわざとらしく言い換えるな!」

「「「うるさ」」」

「ひどすぎるだろ!」


 ハモった三人に、潤が泣きついて崩れ落ちた。


「さすがに潤が不憫だぜ」

「おもしれー」


 翔たちだけではなく、周辺のクラスメイトも吹き出している。

 その笑いの波が収まったところで、宮城が「それじゃあ、お昼ご飯を食べた人から文化祭準備を始めるよー」と声をかけた。




◇ ◇ ◇




「急なお願いで申し訳ないんだけど、予定よりもペンキの減りが早くて……誰か暇な人で一緒に買い出しに行ってくれる人いないかな?」


 各々が昼食を終え、準備を開始してから三十分ほど経過したころ、宮城が申し訳なさそうに教室の中央で声を上げた。

 すかさず、翔の隣にいた彩花が手を挙げる。


「私、ちょうど手が空いたところだから行くよ。せっかくだし、他にも追加で買ってきたほうがいいものあれば一気に買っちゃわない?」

「ほんと? 助かるー! あ、それならもう一人、できれば男子も荷物持ちで来てくれると嬉しいんだけど」


 宮城が、ぐるりと教室を見渡す。

 その視線が、ふと翔に向いた。彩花の視線も自然とこちらに向けられていた。


 翔は、装飾の細かい切り抜き作業の真っ最中だった。

 指先に集中していなければ、すぐに端がよれてしまう紙細工で、ここで手を離せばこれまでの作業が水の泡になる。


 翔が口を開く前に、彩花が小さく目を伏せた。

 事情を察してくれたらしい。


「俺が行こうか」


 代わりとばかりに手を挙げたのは、亮平だった。


「あ、桑田君、手が空いてるの?」

「ちょうどな。他に行きたいやつがいなければ、だけど」


 亮平が、肩をぐるりと回しながら立ち上がる。

 その背中に、すかさず冷やかしの声が飛んだ。


「亮平、ハーレムじゃーん」

「ひゅーひゅー」


 冷やかしの集中砲火を浴びても、亮平はと言えば「そういうのは二人に失礼だろ」とサラリと取り合わない。

 さすが『ミスターギャップ萌え』、発言までイケメンだ。


「おいおい、華麗な盗塁決めたな」

「牽制球当ててやろうか」


 森本が親指を立て、奈良坂が投球フォームに入る。


「やめろ。本職ピッチャーの牽制はシャレにならない」


 亮平が苦笑いを浮かべながら、肩をすくめた。

 三人のやりとりを見て、潤が不思議そうな顔をしながら、


「よくわからんけど、亮平って盗塁上手いよな!」

「よくわからんなら退場してろ」

「頭にデッドボールでも受けたか? いや、潤の頭がエラーしてるのは平常運転か」

「だからひどすぎるだろ!」


 潤は本日二度目の悲鳴を上げた。

 再び、クラスに笑いが広がる。


(相変わらずだな。潤は)


 翔は、苦笑して紙細工に視線を戻した。

 ——同時に、胸の奥で、小さなモヤモヤが揺れている。


 こんな気持ちは抱くべきじゃないし、間違っても表に出してはいけない。

 そう自分に言い聞かせて作業に戻ろうとした、ちょうどそのときだった。


 誰かが、すぐ近くに立つ気配がした。

 ——彩花だった。

 いつの間に近くに来ていたのだろうか。


「彩花、どうした?」

「これ、途中で捨てようか?」


 彩花が指さしたのは、空になった翔のペットボトルだった。

 ……わざわざ、そのために来てくれたのか。


「ああ……頼む。暑いから気をつけろよ」

「うん、ありがと——あ」


 彩花が、ふっとニヤリと口角を上げる。

 何かイタズラを思いついた子供のような表情だ。


「……どうした?」

「ううん、なんでもない。翔君も作業がんばってね」


 彩花は、空のペットボトルを軽く揺らしながら、宮城と亮平のもとへ戻っていく。

 翔は、その後ろ姿を数秒だけ目で追ってから、紙細工に視線を戻した。


 ——気づけば、さっきまで胸の奥に居座っていたモヤモヤが、どこかへ流れていっていた。

 翔は、小さくため息を吐いた。


「草薙。その作業、代わってやろうか?」


 亮平が、出発前に声をかけてきた。

 声と表情に含みがある。彩花と一緒に行きたくないのか、と暗に揶揄ってきているのだろう。


「いや、これは集中してやっちゃわないとだから、大丈夫だ」

「そうか。じゃ、行ってくる」


 あっさり引き下がった亮平は、宮城と彩花を追って教室を出ていった。

 三人の背中を、翔は無意識に目で追ってしまっていた。


 ふいに、彩花がドアの前で振り返る。

 翔と目が合うと、口元がほんの少し緩んだ。


「っ……」


 翔はなぜか照れくさくなって、慌てて手元に視線を戻した。

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