フィナとの腕試し
冒険者フィナのダンジョン探索は孤独だ。
けど、確実に進んでいっているのは確かである。
暫くぼんやりと眺めていたが、地下六階層への到達が見えてきた。
そろそろ移動しておくか。
地下六階層のボスは、私なのだから。
†
「はぁはぁ……モンスターの気配が消えた?」
無事に地下六階層に辿り着いたフィナは、息を切らしていた。
道中のダークスライムは全て無視。それがフィナにとって正解だった。
けどね、私はダンジョンマスターとして、フィナの前に立ちはだかってボスモンスターらしく振る舞うのみ、だよ。
「ここはダンジョンのボス部屋です。ここはひとつどうでしょうか?」
「戦うってことでしょ……!」
「そうですね。フィナさん、私が勝ったらお友達になってください。負けた場合は……」
私は、エグゼクトロットを構えた。
「ドロップしたレアなアイテムをもらっていく。レアスキルが二つもあるダンジョンマスターを倒せば、当然の権利だ」
フィナは戸惑いながらも、白い剣を私に向けた。
「ボス戦は、あたしの合図ではじめても良いのか?」
そう問いかけられたので、私は両手の力を少し抜く。
「どうぞですー」
「では……」
足踏みしたフィナが、一瞬で距離を詰めてくる。
そして、横方向から重めの一撃。
「おっと――」
私はエグゼクトロットを縦方向にして受けきる。
流石に反応できる速度ではあるが、長期戦になると不利になること間違いなし。
魔法は使ってみたいところだが、中途半端な距離だとあの銃の射程距離内に入ってしまいそうで油断できない。
「受けてるだけでは、あたしに勝てませんよ!」
「そ、そうですね……」
うーむ、困った。
フィナは単独で地下四階まで到達した者なだけある。
重い攻撃と軽やかな攻撃を混ぜながら私に斬りかかってくるので、隙が生まれない。
しかも剣の速度が速い。フィナは何かしらのSONICのユニークスキルを持っている疑いさえ出てきていた。
スキルSONIC同士がぶつかると、ほぼ互角。
時間が経つにつれて、体力勝負になってくるだろう。
そうなれば、魔法職の私を崩すチャンスは必ず訪れる。……と思っているのでしょうか。
ここで見せつけよう。現実世界のオブスタクルで得た、私の身体能力を。
私は後方へ跳ねるようにジャンプすると、近くの壁に両足をつけた。
そこから踏み込んで、フィナの元に飛びついていく。
エグゼクトロットを大きく振りかぶって、ガードの構えをするフィナの剣に狙いを定めて全力で叩く。
「この程度なら大したことなさそうな――」
どうしてか、フィナは自信を持ち始めていた。
私の狙いはそこじゃない。
力いっぱい振ったことにより、私はより遠くへ距離を取ることに成功した。
「よっと、ここなら」
軸足に地面を付けて振り向く私は、油断しているフィナの姿を目視する。
エグゼクトロットを適当に投げてから、詠唱を開始する。
「いでよ、光の雷鳴――」
「距離をとって詠唱かっ! 魔法は止めないと……うぐっ……」
エグゼクトロットを左足に貫通させたので、フィナは身動きが取れなくなった。
「ここからでは、魔法の銃弾も届かないっ……」
フィナはその場でもがこうとする。
「無数の流星となりて、降り注ぐ」
詠唱を終えた私は、何の躊躇もなく光の隕石を解き放った。
その隕石が地面に着弾すると、円形の稲妻を発生させる。
隕石の数はひとつ、ふたつ。
いや、全部で十六あった。
隕石と稲妻が飛び交い、敢えなくフィナがリスポーンしたという通知が入る。
私がエグゼクトロットを投げたことにより魔法の威力は下がってしまっていたのだが、一撃で勝負を決めるには問題なかったようだ。
そして、フィナがいたであろう場所に煌めく何かが落ちている。
私はエグゼクトロットを回収するついでに手を伸ばしてみた。
すると、アメジストの髪飾りを獲得したというアナウンスが流れる。
効果はモンスターと対話することができるようになるSSR装備である。これは間違いなくレアドロップだった。
やはり、フィナは固有スキル持ちであったか。
「でも、これはどうしましょうか……」
フィナが、こんな装飾品を付けていた覚えはない。
戦利品として私が身につけても良いのだろうけど、装備した際の効果は、高レベルのダンジョンクラフトを持っていた私にとっては必要とは思えないものだった。
効果も重複しないというか、ダンジョンクラフトの固有スキルによって常時その効果を得ているから意味がない。
その上、ダークスライムのような、もとから対話することの出来ないようになっているモンスターまで存在する。
私が装備しようとすると、丁寧に注意書きが表示されていたのだ。
これは、せっかくだしフィナに……。
そう思った矢先、フィナが目の前にワープしてきた。
ギルドにいた受け付けのお姉さんを連れて。
「あらあら。チュートリアルでたまたま担当することになって会話を交えた、パルトラさんね」
受け付けのお姉さんが私に向けてお辞儀をすると、フィナが顔をしかめた。
「お母さん、こんなの聞いてないんだけど!」
「お友達を作りたいと言ってシクスオ始めたフィーちゃんが、いつまで経ってもソロプレイだけしているものだから、お母さんは心配してるのよ?」
「うっ、それは……」
フィナの背筋が縮こまる。
「フィーちゃんは、あたしより強いプレイヤーのお友達ならほしいって言ってたよね? ちゃんとお母さん、告知も出したわよ」
「ダンジョンの作成者であれば、強いのは確かだけど……それはレアスキルを持っていたからであって」
「あらあら。パルトラさんは実力も本物だったのに?」
「ぐっ……」
「それに、女の子同士で気軽に話しかけやすいかなって、お母さんは思うのだけど」
「お母さんは少し黙って……」
フィナは、意気消沈しかけていた。
このダンジョンの攻略で力を発揮しきれなかった上、私に完敗した。おまけに、続けてきたであろうソロプレイに対して母親から咎められる。となると、フィナが抱えていたプライドはズタボロで間違いなかった。
「とりあえずフィナさん、私とお友達になって、ダンジョンを一緒に作ってくれますか……?」
「う……うん、あたしでよければ……」
フィナは軽く頷いた。
「ありがとうございます! フィナさん、よろしくお願いします!」
「パルトラさん、こちらこそよろしくです……」
私とフィナは握手を交わした。
「フィナさん。早速ですが……フレンド登録とかしてみましょうか?」
「フレンドの登録はまだ早いかな……」
「あらあら。お友達になったパルトラさんとフレンド登録をしておくと、記憶の石像を共有することができるのに、すごく勿体ないわよ?」
「お母さん、あたしはやるからもう帰って!」
怒鳴り散らかしたフィナが受け付けお姉さんの背中を押すと、何処かにワープしていき、フィナと二人っきりになった。
「フィナさん、フレンド登録をすると、利点もあるのですね」
「フレンド登録の利点のこと、あたしは全く知らなかったけど」
「そうですね……とりあえず、登録しましょう!」
私からフィナに対してフレンド申請を行った。すると、すぐに承認された。
フィナとフレンド登録することで、フィナが設置してある記憶の石像を共有可能となり、私の行動範囲を広げられる。
もっとも、私がダンジョンに置いた記憶の石像のほうが、使用頻度は多そうに思えるけど。
「ところで、このアイテムをご存知ですか?」
私は、アメジストの髪飾りをフィナに見せてみた。
「これは見たことないです。どこで手に入れたのですか?」
「それは……フィナさん、欲しいですか?」
「えっと」
「悩んでますね。では、お近づきの印として、フィナさんにあげます」
といって、フィナの手に無理やり握らせた。
「あ、ありがとうございます」
一瞬だけ戸惑っていたフィナは、アメジストの髪飾りをしっかりと目に焼き付ける。
その後、フィナはアメジストの髪飾りを頭につける。
「ど、どうでしょうか?」
「とてもお似合いですね!」
私は、フィナを褒めたたえる。
フィナとは順調に打ち解けているようで、少しほっとした。
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