本格的に、配信はじめます
「配信、始めますよ~」
シクスオにログインした私は、ギルドにいることを確認するとすぐに配信を開始する。
:はじめまして。おはようございます
:VRゲームの朝活……だと……!
:今日は休日だから学校もないだろうし
:もしかして、いっぱい配信するのかな?
:そうだと嬉しいね
早朝なのに、配信ログが賑やかだった。
しかも、チャンネル登録者数も百五十を超えていた。
昨夜、ダンジョンマスターとしての振る舞いが良かったのかもしれない。
同時接続者数は百にも満たないのだが、それでもたくさんの方がみてくれるみたいなので、悩みの種がひとつ壊れたようで嬉しく思う。
「えっと、本日は午前中の配信のみになります。やりたいことは新しいモンスターを作るのと……マルチモードでギルドに入っているので……」
「おはよう」
「フィナさん、おはようございます」
ギルドで待ち合わせしていた、フィナと顔を合わせる。
:昨日の人か
:お友達になった方ねぇ
:そーなんだ
昨日の配信をみていた方がコメントに書き込んでくれたおかげて、状況説明する手間が省けた。
これなら早速、本題に入れそうだった。
「フィナさんには、最優先で案内したいところがありまして」
「昨日のダンジョンか」
「そうですね。ダンジョンクラフトのスキルを使えば、フィナさんも一緒に連れていけるのでしょうかね……」
「それはどうだろうか。互いにフレンド登録しているから、記憶の石像がある場所への移動だったら確実に出来るとわかっているのだけど」
「記憶の石像はフレンド間で共有できるのでしたね。それで行きましょう!」
私はシクスオのメニュー画面を開き、自分が設置してある記憶の石像へとワープした。
フレンド登録をしているプレイヤーを含む記憶の石像の一覧表がメニュー画面に表示されていたので、フィナはフィナ自身の操作によってワープすることになる。
:ワープしたぞ
:二人は、どこに行くんだ?
:ダンジョンを製作する部屋だよ
:なるほど
「ここは……」
「私の、作業スペースですね。クラフトルームと言います」
ワープした先は、青っぽい円盤が床に刻まれている部屋。
:すげー
:俺、こんなマップみたことない
「へぇー」
フィナは、部屋の中央に浮かび上がっている、立体のダンジョンマップに興味を持つ。
私のダンジョンにあるクラフトルーム。そこにフィナが入って来れたということは、フィナにも何かしらの権限を得たということなのだろうか。
一度、フィナにステータスの確認をしてもらおうかな……。
「フィナさん!」
「あたしのことは呼び捨てで大丈夫だ」
「では、私のことも、パルトラって呼んでください」
「うん……そうさせてもらう」
「それで、フィナはこの部屋に初めて入りましたよね。フィナ自身の身に、何か変わったことはありませんでしたか?」
「これといって特に……いや、あるかな」
フィナは何かに気づいていた様子だった。
「あたしのステータスに、ダンジョンクラフトのゲスト状態と表示されてるな」
「ふむふむ……」
フィナがゲスト状態ということは、恐らく私がホストなのだろう。
ダンジョン作成に携わる重要な物事は、私にしか動かせなくて、そのほかの簡単なことであればフィナにもできるという意味なのだろうか?
いろいろ試していくと、仕様が分かるかもしれない。
「パルトラは、今から何するの?」
「フィナ、まずはモンスターの種類を増やしましょう。冒険者の残骸はダークスライムにあらかた回収させましたので、それらを使ってゾンビでも作ろうと思います」
「ゾンビを作るのか……」
「そうですね。ゾンビを作るのです!」
「ゾンビを作る……。あたしは何をすれば」
「一緒に素材集めですね。ゾンビを大量に作るには素材もたくさん必要になりそうですから」
「まずは素材集めか」
「そうですね。私のダンジョンの周辺には、どんなモンスターがいますかね……」
:オシリスだから、ダークスライムはいるね
:素早く走ってるやつも居なかったか?
:デーモンウルフだぞ
:それだ
:あとはレアモンスターがいて
:それは遭遇率が低いからな、無理に探す必要はないというか
「レアモンスターなんているのですね」
「時々だが、パルトラは何をみているんだ?」
「配信ログです。オシリスのフィールドにいるレアモンスターの情報が流れているのですが……」
「風の噂、程度にしか聞いたことないやつか」
フィナは、首を横に振る。
フィナでもまだ、オシリスのフィールドで出えるレアモンスターには遭遇したことがないということか。
「ということは、レアモンスターは簡単には見つからなさそうかな……」
そのレアモンスターが落とす素材で、ゾンビが作れるかは不明。
:デーモンウルフのドロップアイテムに、肉ってなかったか?
:たしかにあるぞ。しかもドロップ率は高い
:肉って常温だと腐敗しやすいけどな
「それだっ」
「パルトラ、どうした?」
「デーモンウルフはお肉をドロップするみたいなので、それをかき集めてから何らかの方法で腐敗させるのはどうかと思って……」
「商品加工みたいに、か。悪くないかも」
フィナは、デーモンウルフを倒して肉をかき集める提案に納得した。
でも、肉をかき集めるだけでは駄目だ。
モンスターを生み出すには、ここから更に考えないといけない。
まず第一に、アイテムを即時腐敗させる魔法なんてないような……。
腐敗させるには、菌とか?
それじゃあ、炎魔法で温めるのは駄目で、水系統もよくない気がして。
:デーモンウルフは、たまに良質な肉が落ちなかったか?
:たしかそうだったはず
:質が高いアイテムで生まれたモンスターは、強いモンスターが生まれやすい。とか
:その説があるか……
:仮にモンスターの量産って考えると
:そこはどうだが
「うーん……」
「パルトラ、どうしたんだ?」
「配信ログですよ。肉って自然放置して鮮度が落ちれば、徐々に腐敗していくはずですが……」
時間が掛かる。モンスターひとつひとつを生み出すのに手間を掛けても良いのだけど、少なくともダンジョン内に解き放っているダークスライムよりは弱いレベルに設定しておきたい。
なので、ゾンビは量産型で作るのが好ましいのである。
「腐敗かぁ……。他の国にそんなアイデアあったかも」
フィナは世界地図を広げていた。
そして、じっと見つめる。
「ベフュモに、そんな技術があったっけ……?」
頭を抱えるフィナは口を酸っぱくする。恐らく、うろ覚えなのだろう。
:ベフュモ?
:ベフュモは、昼寝できる農場がある長閑な場所だね
「ごめん。なんか思い出せそうで駄目そうだ」
「いえいえ、フィナはいろんなところへ冒険していたのですね?」
「はい。あたしはトルード出身でして」
:トルード!?
:お友達、トルード出身だったのか
:トルードとベフュモは近い
:オシリスからだと、どっちも遠いか……
「むっ……」
私が『隣の国にはまだ行きません』という顔つきになると、配信ログが暫く止まった。
いまはトルードについていろいろ聞きたいので、フィナに耳を傾けてみた。
「トルードには世界樹があって、その影響を受けたベフュモが農場を中心に大きく発展したとなっている」
「世界樹から農場、国そのものに自然エネルギーがたっぷりのように思えますが……」
「そうそう、そのことでだが……。ベヒュモの文明が発展したことによって誕生した肥料なんだけど、作り方とかが参考にならないかなと」
「フィナ、肥料の作り方ですか?」
「そうだ」
「なるほど?」
ええっと……。
肥料はたしか土を捏ねて。
デーモンウルフが落としたお肉と混ぜて、捏ね続けたらできるのかな。
やってみる価値はありそうだ。
フィールドにいるモンスターは一定時間で自然に湧き出るので、デーモンウルフを倒すことには問題なさそうである。
あとは混ぜる土をどうするか。
その辺の方針が決まれば、ゾンビモンスターを生み出していく作業に入ることが出来そうだ。
「よし、やります。まず新しい部屋は、こうやって……」
私は右手にエグゼクトロットを構えると、立体のダンジョンマップに近づいた。
:おっ、はじまったか
:どんなモンスターが誕生していくのか楽しみだ
私はダンジョンのなかに、作業スペースとなる新しい部屋を作った。
昨夜、ダークスライムが倒した冒険者の死骸を、そこに寄せ集めておこう。
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