誘拐されちゃう!?
「ところで、受け付けさん。ギルドに他のプレイヤーが見当たりませんけど……」
「この建物に入る前に、ソロモードとマルチモードの切り替えをすることによって、仲間をたくさん呼ぶことができる設計になっております。パルトラ様も仲間をたくさん呼ばれると良いですよ!」
「なかま……ですか……。いまはまだ……その……作る気がなくて」
私は言葉が詰まる。
:どうした??
:以前やってたMMORPGの最初のほうだと、もっとイキイキしてたのに
:過去を掘り返すのはやめないか?
:それもそうねぇ
配信ログでは見透かされている。
私自身、分かっているつもりだけど、孤独の寂しさが何処までもつきまとってくるのは、もう嫌だった。
だけど、現状まだ何も変えることが出来ていない。
「パルトラ様の気分が優れない時には、一度ログアウトするのをおすすめします」
「いえ、そういうことでは……」
受け付けの者にも心配をさせてしまった。本当に申し訳ない。
せめて顔の平常心は保たないといけない……。
そう思った矢先、私の手元にメッセージが届いた。
送り主はタクトからである。
この人は、お友達ではない。
けど……何を書いてきたのかは気になる。
私はメッセージを読むことにした。
「俺の師匠が、お前に譲りたいものがあるらしいんだ。広間まで来いってさ」
と、書かれていた。
これは、タクトによる罠かもしれない。けど、何となくこのメッセージは信用できそうだった。
タクトは一度戦ったから、というのもあるかもしれないけど。
「とりあえず、外に出てみます……」
:ギルドの外に行くのか
:おおう、冒険だねぇ
:気を付けていくぞい
配信ログを軽く確認してから、私はギルドから出ていく。
そこから一歩踏み出して、メールに書かれた約束通りの場所へと向かおうとした時だ。
「むごっ……」
ギルドの外へと踏み出て早々に、私は口を押さえつけられた。
:いきなり?
:これは酷いw
:運が良くなかったというべきか
腕でぐっと締め付けられると、掠れた男性の声が、私の耳元に届く。
「すまない、ここはひと目が多いことを忘れていた。指定場所を安易に考えていた、俺様の不手際もあるのだが……」
なんだこれは。
黒髪の男が走っていた。
私は黒髪の男に捕まっており、両足が宙ぶらりんとなっていた。
:あっ
:これは、あれか……
:いきなり誘拐されてる
:ゲームで誘拐されるとは、これは謎展開すぎるねぇ
:やはり見た目が子供だからか
:抵抗はできない感じ?
:無理だろうな
:両足が宙ぶらりんだから、うまく踏みとどまることが出来ないというか
:ご愁傷様ですわね
配信ログのコメントが、やや騒がしい。
このまま私は、どうなっちゃうのだろう。などと思っていると――。
「ひとまず安全地帯まで移動したから、メッセージについて改めて話をする」
急に足を止めた黒髪の男は、私にいつでも詫びるつもりでいた。
:助かった?
:命拾いしたのか
:少なくとも無事だと思う
配信ログの言う通り、私は無傷で平気だった。
ただ単に、路地裏のほうへと連れていかれただけに過ぎない。
それはそうと、ここは路地裏でしょうか。
少なくとも、目の前にいる黒髪の男以外の冒険者はいなさそうだった。
「俺様個人的には、ひと目につかない場所を選んだつもりなんだが」
「うん。とりあえず声をシャットアウトしますね」
私は茶色い杖を取り出すと、軽く振った。
「薄い膜か?」
「そうですね。これで他の者に会話内容は伝わらないでしょう」
私は本題へと戻す。
「それで、私を誘拐してどうするつもりなのですか?」
「誘拐なんてのは誤解だよ、誤解。俺様はタクトの師匠だよ。弟子が迷惑をかけたから、お詫びとして渡したいものがあってだ」
男は、銀に輝く杖を見せびらかす。
「これ、よかったら使え。俺様には要らないから」
先端が鋭くて、槍のように尖っているこの杖を、なんと差し出してきたのである。
なにか裏があるのでは……。
そう思った私が受け取るのをもたついていると、男は私の顔面に向かってその杖を押しつけてきた。
「ちょっと! 何をするのですか!」
「早く受け取れ。お前、ゲーム始めたばっかりなのに固有スキルがふたつあるだろ?」
「それがどうしたのですか!」
「レア度の高い武器とはいえ、シクスオの中だと相応しい者にちゃんと持ってもらいたい、ということだ」
「ふーん……そうなんだ……。あっ……」
なんか言いくるめられてしまった。
あと男に力負けしたので、私の両手には銀に輝く杖がある状態に。
お礼なんて言いにくいけど、私はゆっくりと口を開く。
「えっと……。改めて、ありがとうございます……。ところでこの杖、どのくらいの性能をしているのですか?」
「その武器には秘められた力があるのだが、お前が所持して、はじめて意味を持たらすんだよ」
「私が持ってはじめて意味を成すの?」
「まぁ、そうなる」
男の語尾がハッキリ聞こえる。
その後、私の右肩を叩いて。
「俺様はこれで失礼する」
とだけ言って、立ち去ってしまった。
「ありがとう……ございます……」
私だけしかいない路地裏で、もう一度お礼をしたが、ちょっと不思議な気分を抱く。
私が両手で握りしめている、この銀に輝く杖。
エグゼクトロット――。
容易には手に入らない、SSR級の装備で間違いなかった。
「はっ、本当に誰もいないよね」
周囲を見渡し、他人の目がないことを再確認した私は、無意識にギルドがある方向に歩きはじめていた。
:さっきの人、結局のところ親切にしてきただけか……?
配信ログから、コメントが一つだけ流れる。
「うん、そうだね……まだよくわからないけど、慎重にギルドを目指すよ」
私はできる限り裏道を通っていく。が、ギルドに近づくにつれて、活気あるプレイヤーたちの声が大きくなっていった。
「戦闘、やっていますね」
目の前で、剣を交える男二人が戦っていた。
私は、ギルドの扉がある、すぐ近くで息を潜めることになった。
「これでどうだ!」
「うあああっ!」
戦っていた二人のうちの片方が倒れて、生き残ったプレイヤーが喜んでいる。
プレイヤー同士の戦闘はまだまだ活発である。
チュートリアルが既に終わっていた私は、強い装備を持っているとはいえ少し不安になる。
せめて安全にギルドへ入る方法があったら。
やっぱりお友達がほしい……一緒にシクスオを楽しめる方がいたら、この問題を解消できるかもしれない。
とりあえず今は、隙を見てギルドに入り込もう。
:ギルドに帰って来れた?
:ギルドには入れてる。一応うまくいったねぇ
:それなら良かったが、あの男のプレイヤーはいったい何だったんだ?
:さぁ?
:わからないわね
:強い武器を譲った辺り、悪い人ではないのは確かだと思うぞい
:わかる
:理解できますねぇ
:それはそうと、お友達を作れるかしら?
:それは応援するしかない
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