第一精霊研究所
「ここが、第一精霊研究所か」
フィナが早速、本棚に置いたあったファイルに手をかける。
「校内に研究所は三カ所あるのですけど、わたくしはですね、ここで精霊について勉強をしていました」
セレネはそう告げると、フィナが持っているものとは別の資料に手をかける。
ここで、先ほどの戦闘を振り返る。
研究所での待ち伏せ。
紺色の紐に、文字が擦れた名札。
メルヘンマトンになっていた担当教員が、セレネの先生であったことに、私は心苦しくなりそうだ。
「ここには、どんな資料があるのですか?」
この場でひとり、三角座りして気を休めているところ申し訳ないのだけど、セレネに尋ねた。
「第一精霊研究所では、小さめの精霊についての、たくさんの研究資料が管理されています。大精霊のことは、もうご存知ですよね?」
私とフィナは、その場で頷く。
「大精霊については、各国が協力して研究されていきましたが、小さい精霊までなかなか研究されなかった。この世界には、そういう歴史があります」
「何故、大精霊しか研究されなかったのですか?」
「すべては利益があるかどうか。各国の代表は、それだけで判断されておられました」
「ふむ……酷い話だ」
「フィナの言った通り、そう思いますね」
「大精霊の研究が進み、小さい精霊の存在があやふやにされつつあった。そんなある日、各国の代表が一斉に後継者へ引き継ぐタイミングが訪れたのです」
「後継者に引き継ぐ……?」
フィナは首を傾げた。
そこまで悩まなくても……推測できなければ難しいか……。
各国の代表が一斉に後継者に引き続ぐってことは、現実的ではない。でも、起きてしまった。
それを起こせるのは、アップデート。もしかしたら、シクスオのサービス開始を意味しているのかもしれない。
そう推測出来れば、答えは簡単だ。後継者はシクスオ運営側の者という結び付けが可能となる。
ギルドが世界に六か所あって、それぞれの国が治安を守るために活動している。
シクスオには国王が存在しなくて、ギルドが世界の管理をしているのだから、そう考えるのが妥当だと思うわけで……。
では、各国の代表とは?
流石に、精霊研究所でそのような資料は保管されていないだろう。
もし考えられるとしたら、タイトルくらいしか。
……うん、何もわからない。
いまはまだ、誰も知ることができないだけかも。
「表舞台から降りた元代表たちは、蓄えていた資金を使って設立しました。クローニア学園を」
セレネは語るのをやめない。
この学園が誕生した経緯を――。そこから、小さい精霊の研究が始まったことを――。
「それで、竜の宝とは」
フィナが、セレネに問いかける。
「これまでに、モンスターが何度も口にされてましたね……。そうですね、お二人さんに、そろそろ話さないといけません」
セレネは、持っていた資料の最後となるページを開けていた。
「竜の宝とは、賢者の石のことです」
「なるほど、賢者の石……」
「伝説のアイテムじゃないか!」
資料をじまじまみているフィナは、開いた口が塞がらない。
「賢者の石は、各国の代表が旅をしていた頃に、名前のわからないモンスターからドロップしたお宝であり、クローニア学園での研究を支えてきた大切なものだと教わりました。学内では、賢者の石を用いた実験が積極的に行わていましたが……」
「モンスターの襲撃か?」
「そうです。モンスターとの紛争は、クローニア学園を中心として、これまでに何度も起こきてきたと授業で学んでいます」
「あれっ……?」
「パルトラさん、でしたっけ。どうされました?」
「襲撃は一度ではなかったの?」
「そうですね。前回の襲撃時、わたくしはまだ入学していなかったので、詳しくは存じないのですが……。今回は紛れもなく、歴代でもトップクラスに最悪だと呼べるくらいには、甚大な被害をもたらしていますね」
「セレネさんは、入学していない。ね……」
この場で立ち上がった私は、セレネが開けている資料に目を通しにいく。
賢者の石は紛れもない、レアアイテム。その中でも特に入手するのは最難関とも言えるだろう。
竜の宝と言ってる辺り、ドロップできるモンスターはドラゴン系になると思う。
そんなレアアイテムを巡っての争い。
どのみち、モンスターと人間が、対立してしまうのは仕方ないか。
賢者の石という、存在しているだけで、無限の可能性を信じてしまう魅力があるのだから。
「次は……というか……賢者の石があるところに案内してもらえませんか?」
セレネに、ひとつのお願いを持ち掛ける。
これは賭けだ。私が強い、ただそれだけで。
賢者の石が仮にあるとして、この紛争を終わらせることができるというのなら、私が賢者の石に触れることが最も最善手である。
エネミースコアが必要なら、いくらでも払ってあげる。
私自身は、そうわかりきっていた。
但し、選択できる行動の中で、もっとも過酷な道でもある。
「それは……たしかに知っているけれど……」
セレネは、拒絶反応をみせていた。
「あのですね、厳重なセキュリティが施されていて」
それもそうだ。クローニア学園での研究を支えてきたレアアイテムなのだから、そんなに容易く触れることのできないものでしょうし。
「あたしには理解しがたいが、そこをなんとか頼む」
フィナは跪いていた。
そこから、全身を使った全力全開の、土下座。
私も、フィナみたいにお願いプッシュしようかな……。
やっぱり土下座するする度胸はないから、別に口だけでよいか。
「お願いします、セレネさん!」
「うーん……わかりました。そこまで仰るというのなら」
セレネは、研究所内にある本棚の側面を触り始めた。
「たしかこの辺に……」
セレネは手先で何かを探していると、カチッと音が鳴る。
すると、本棚が下に沈んでいく。
「これは……隠し通路ですね!」
壁と床、全面が銀色に光る通路を目の当たりした私は、とてもワクワクした気分になる。
「それで、賢者の石がこの先にあるのですか?」
「はい。厳重といっても、生徒や先生が使うのですから、手の届くところに隠されている。という表現が正しいでしょう」
セレネは、この道を何度も通ったことがある。
胸を張っているということは、本当にこの先に、賢者の石があるのだろう。
「フィナ、行きますよ?」
「ああ。この資料は、そのままでいっか……」
フィナは、手に持っている資料を置いて、ついていくことにした。
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