体育館の探索
何もかも、投げ出したくなる。
その気持ち、すごくわかるのだけど。
「わたくしは、これからどう生きていけば……」
セレネの涙腺が、崩壊していた。
堪えても、堪えきれない。彼女の涙。
私が石化の魔法を使わなければ、グラウンドであれだけの生徒がモンスターになっていた、という現実を受け止めることなんて、容易く出来ないだろう。
現状、出来ることは、私たちがこの手で精霊を倒すしかない。
そんな精霊をスカウトしたい気持ちもあるが、改心させるのが前提になってくる。
あとは、精霊を突き動かしている元凶を叩くことくらいか。
「セレネさん。道案内、お願いできますか?」
もう泣かないで、と耳元で囁いておく。
「はい……。わたくしがくじけて、誰がこの学園を救えるのか」
セレネは絶望しても、まだ前を振り向ける。
その心を突き動かす原動力が何なのか、少し気になるところだけど。
「道案内ですね。体育館の真下が、精霊研究所となっておりまして」
体育館の出入り口には、わき道が存在していた。そこから階段で降りていくと、薄暗い通路が続いている。
更にその先へと進んでいくと、壁と床が結晶化している地点に到達する。
「精霊と結晶には密接な関係があるとして、当学園では、研究対象となっておりました」
「ふむ……精霊の研究ね……」
シクスオのギルドには、様々なデータベースが保管されていて、ある程度は自由に閲覧することができる。
しかしながら、精霊に関する情報は、ほとんどわからずじまいだった。
シクスオには六つの国があり、それぞれの国に強大な魔法石と関連付けられた属性があって、対応する精霊が力を貸してくれるシステムとなっている。
国を支える存在が、アレイが言っていた通り大精霊としたら、それよりも小さい精霊がいてもおかしくはないのだけど、ギルドのデータベースで閲覧できる情報の中に、小さい精霊に関する記述はなかった。
つまり、データベースで見れなかった情報が、この学園にあるということ。
確信はないけど、研究所にいけば何か精霊についてもっと詳しい情報を得られるかもしれない。
まずは、そこを目指してみるか。
「セレネさん、精霊研究所はどこにあるのですか?」
「そうですね……とにかくついてきてください」
セレネは、結晶化している通路を迷うことなく進んでいく。
右、右、左、右、右――。
道が複雑だったのか、モンスターと遭遇することはなく。
「着きました。ここが第一精霊研究所になります」
結晶化した壁にのめり込んでいるような形で、鉄の扉が設置されていた。
「ぐぐ……これ、開くのか?」
フィナが試しに扉に手をかけたものの、動かせそうな気配がなかった。
「ここは、精霊学科の者であれば誰でも開けれます」
「先に言ってよ……」
セレネが扉に手をかけると、勝手に開いていく。
『タカラ、ココニナイ。リュウノタカラハドコダ?』
部屋で待ち伏せしていたメルヘンマトンと、セレネの目がかち合う。
「フィナ、銃で顔を狙ってください!」
「わかった!」
戦闘態勢に入ったフィナは、銃を構えて数発打ち込む。
『グゴゴ――』
やはり、魔法攻撃がかなり効いている。
メルヘンマトンの弱点は顔の部分で、魔法に弱い。
このモンスターの攻略難易度は、対処法さえ把握すればそこまで難しくないといえる。シクスオの魔法攻撃は、各種詠唱魔法のほかに、銃や弓といった飛び道具系全般が該当する。
反面、体が結晶に覆われているので、物理がほぼ通用しない。
「わたくしも、追撃します!」
セレネは弓を放った。
それがメルヘンマトンび顔に刺さると、左足を大きく一歩後退させる。
「パルトラ、とどめを頼む!」
「フィナ、わかってますよ。宿れ、炎の球体!」
私は、炎の弾を解き放った。
きっちりメルヘンマトン顔に直撃させて、燃やし尽くす。
『グゴ――』
メルヘンマトンは倒れた。
残骸がその場に残り、ドロップアイテムとして、青の欠片を二つ獲得する。
これは、新たな色のモンスター素材だ。エネミーポイントで引き換え可能アイテムが増えたことで、より多くのモンスターが作成できるようになった。
それはさておき、どうしてモンスターが、厳重であるはずの精霊研究所にいたのか。
「こんなこともあるのですね……」
「そうだな。どんなところでも、油断してはいけないよな?」
「いえ、そういうことではなく」
セレネは、メルヘンマトンの首元から目を離せずにいた。
何かあるのかな?
私は、セレネがじっと見つめている場所を一緒に確かめる。
メルヘンマトンの首元にあるのは、紺色の紐だ。
その紐の先端には、名札。
クローニア学園精霊学科――担当教員――。
名前のところは文字か擦れて読み取れなかったけれど、失望したセレネの表情からして面識はあったのだろう。
「本校の生徒だけではなく、先生までもが……」
セレネはそれ以上、メルヘンマトンを見ることはなかった。
「わたくし、先に入っておくね」
「流石に見てられないな。あたしも……一緒に行く……」
「あっ、二人とも待ってください」
いま目を離したらいけない気がして、私もすぐについて行く。
残骸として残ったメルヘンマトンのことをもっと調べたかったけど、二人のメンタル面を考慮したらそんな余裕はないと思わざるえなかった。
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