トルードのダンジョンマスターと戦う者
見た目がとても愛らしい魔女っ子精霊。
そんなアマノハクは当然のように、オバケカボチャを左手に抱き抱えている。
このカボチャは喋るくせ者レベルなのだが、本日はおとなしそうだった。
でも視線は通常通りに動いており、私と目がかち合うと口が少しだけ動いた気がした。
「みゅー。これから皆さんは、トルードのダンジョンマスターに会われるってことですか?」
アマノハクの言葉を前に、周囲の者はただただ頷くしか出来ない。
そんな空気が流れた。
「えっと、アマノハクさん。何か問題でもあるのですか?」
私が尋ねると、アマノハクは和太鼓アイテムを右手に取り出す。
色は青――水神の和太鼓だ。
「みゅー。もし行くというのなら止めません、が……」
「えっと、なにか問題でもあるのですか?」
「みゅー? 単に戦闘中です」
「戦闘中……キラリさんが……?」
私が聞き返すと、アマノハクは否定しなかった。
アマノハクはその場で、水神の和太鼓を回している。
かなり大きな魔方陣が用意されそうだ。
それはフィースペードが立っている位置を巻き込むくらいには。
「みゅー。世界樹の神秘道へ……」
掠れたアマノハクの言葉を聞きながら、ワープは一瞬で行われる。
ワープ先はダンジョンの入り口。
そこから中に入ると、今度は私が和太鼓を手元に出していた。
先手必勝、というわけではないけれど。
これには意味がある。
風神の和太鼓へと持ち替えていたアマノハクに負担をかけさせまいと思い、ここは私が風神の和太鼓を回したのである。
風神の和太鼓でのワープ先は、ダンジョンの最奥。
キラリがいるボスフロアの手前である。
ここでの邪魔は入らず、無事にワープを終える。
ワープを終えると、今度は激しい打撃音が通路から聞こえてきていた。
「みゅー。やはり戦ってますね」
「キラリさん、誰と戦っているのかな?」
私はちょっと気になってくる。
気になりながらボスフロアへと進んでいくと、妖精の羽をひろげているキラリが素早い動きで低空飛行していた。
「行くよっ」
キラリが部屋の中央付近にいる冒険者に向かって、鋭い鎌を向ける。
速度をつけて切りかかろうというのか。
ただ、私は見えていた。
キラリは結構なダメージを負っている。
まるで余裕がないかのように。
「はあっ!」
キラリが鎌を縦に振ると、金属音が響き渡った。
とてつもない威力が出そうな攻撃手段。
だが、様子が変だ。
勢いよく突撃して繰り出したキラリの攻撃を、軽く受け止めていそうで……。
「ふん。ダンジョンマスターというのは、こんなもんか」
「くっ……」
キラリが押されている。
ダンジョンマスターが負ける……?
それはちょっと深く考えすぎかもしれないけど、出来たらキラリの助けになりたい。
けど、それは出来ない。
キラリのピンチ以上に不思議だと感じたのは、冒険者の声と姿に見覚えがあったことだ。
キラリと戦っている冒険者は、間違いなくヴァルハリーザだった。
それだけではない。
「隙が大きいのだナッ!」
ピリコがヴァルハリーザの後方から飛び出していくと、キラリの背後を取っていた。
そのままピリコは、手に持っていた短剣で切りかかる。
それがキラリに命中すると、キラリは両足を地面につけた。
「うぐぅ……ここまでやられるの、珍しいわ」
「オレはこんなものでは負けない。そろそろ、チェックメイトだ」
ヴァルハリーザが持っている黒い片手剣で、とどめを指す。
キラリがリスポーンしたというログが流れると、ボスフロアに静けさが訪れた。
「ヴァルハリーザさん……」
私はとても驚いた。
ピリコとの連携もあってか、ダンジョンマスターのひとりを倒した。
いや、それ以上にヴァルハリーザとの再会に喜ぶべきなのかもしれない。
「おう、新たな敵か?」
戦闘を終えたヴァルハリーザは、すぐに私たちに気がついた。
「ヴァルハリーザ、ちょっと待てナッ」
「何だ?」
「ワタシらはいまボロボロだから、ピンピンした強そうな相手と戦っても勝ち目がないナッ」
「まぁ……それもそうだな」
「わかったら、ここからギルドへ無事に帰る方法を考えるのだナッ」
説教じみた口調をするピリコは、現在の状況を理解していた。
ダンジョンマスターとの戦闘によって、ヴァルハリーザとピリコは、かなりのダメージを負っている。
いま私に出来ることは、とりあえず敵意は見せないようにしておくことくらいだ。
「あの、すみません。元々はキラリさんに用事がありまして……」
「キラリって、さっきのダンジョンマスターのことか?」
「そうだろうナッ!」
「はい。そうです……それで……」
私は再会した嬉しさのあまり、衝動を抑えきれていなかった。
そんな私が背中から出したのは、赤い堕天使の翼。
ほんの少しの時間だけ、堕天使モードになっておこうと思った。
「お久しぶりですね、ヴァルハリーザさんとピリコさん」
「おう……!」
「どっかで見覚えがあると思ったら……魔界にいた堕天使だったナッ」
ヴァルハリーザとピリコはすぐに警戒を解いていた。
赤い堕天使の翼を前にして、魔界ダンジョンでの出来事を思い返させる。
ただ、私の心は過去より未来へと向かっているのは確か。
この場で私が真っ先にやりたいこと。
ヴァルハリーザとピリコに謝ることだ。
「あのときはちょっと偽名を……本当の私はパルトラです。オシリスでダンジョンマスターをやってます」
「……おうっ。オマエ、どうりで強かったわけか」
「それは納得の回答だナッ!」
意外にもヴァルハリーザとピリコは、私の強さを褒め称えてきた。
これなら今後、不用意な心配はしなくても良さそうである。
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