スペードの記憶を回収して
●パルトラ
仮想空間XZは、天翔る銀河の創造天使を応用して作成した、特別なゴミ箱のようなダンジョン。
通常、オンラインゲームにゴミ箱のような空間なんて存在しない。
けれど、それを可能にして探索できるようにしたのは、私自身の意思によるもの。
シクスオの世界で女神ネフティマと手を繋ぎながら、十のエリアを作成する。
ニケとノアちゃんサポートもあって、世界の造形と安定化がなされている。
探索に一時間という制限が掛けられているのは、スキルを過剰使用するのを避けるためである。
女神ネフティマによると、無理をするとスキルが暴走する方向へ成長してしまうかもしれないとのこと。それをさせない為にも、だった。
そんな空間に冒険者を招いて、探索させて、生前のフィナが持っていた記憶『スペードの記憶』を探させることに、なかなか積極的になれなかった。
だけど、三カ国ダンジョンマスター交友会の二日目、ニケが連れていたフィナの姿を思い出す度に、心が痛むのはもう嫌だった。
あのフィナは間違いなく人形だった。
操り人形にすらなれない、異形の存在。
それは認めてはいけないと悟った。ニケ自身も反省していて、なんとか生前の記憶を取り戻そうと協力的だった。
私が新たな仮想空間を作り出すくらいの大きな干渉を起こせば、現実世界で新たな犠牲者が出る。
そんなこと分かりきっていた。
けど、仮想空間ZXのことは、冒険者に行動を託すしかなかった。
私自身が、仮想空間ZXの探索を行えないからだ。
入念な準備が行われた後、冒険者にお願いして、『スペードの記憶』を探させる依頼をした。
そして、悲劇は起きていた。
塔エリアは、がれきの山となってしまった。
けど、希望が確かにあった。
そこには、煌めく青い欠片のようなものをがある。
「あそこにあるもの……気づいて!」
私は声を掛けていた。
スキル『輝きの調理劇場』の所持者に向けて。
「えっと、声……どこから」
すぐに反応があった。
「ここです」
「どこ……?」
「とりあえず、青い欠片の位置をこちらで把握しています」
顔が曖昧にしか捉えられない私は、彼女を全力で誘導することにした。
少女が動いて、青い欠片を発見する。
それを一生懸命に手を空の方向に差し出されると、私はそれを掴もうとした。
また地響きかもしれない。
少女の足場がぐらついて、バランスを崩しかける。
「ここだっ!」
私は青い欠片を掴み取った。
掴んだ瞬間、青い欠片をこちらの世界へと引きずり込んだ。
エリアのひとつが崩壊して、ほぼ偶然に近い状況だったけれど、『スペードの記憶』の回収を果たせたのだ。
「無事に届いて、よかった。これで」
私の目では、はっきりと捉えられないが、少女が倒れ込んだように思えた。
そこに、熱そうなモンスターと土のモンスターが寄ってくる。
間もなく、次の犠牲者が出る。
ここはいち早く、仮想空間XZを閉じないといけない。
女神ネフティマによると、仮想空間XZを開いていると十人の犠牲が出るとなっている。
これを食い止めるには、とにかく早く閉じるしかない。
「強制ログアウトさせます、仮想空間ZXっ!」
「……」
女神ネフティマとの手を離して、無理やり閉じた。
「ああ、やったか……」
ニケはスペードの記憶を、両手で大切に包み込んでいた。
そのまま横たわっているフィナに向かって、『スペードの記憶』を注ぎ込んだ。
「……あたしは、死んでいたのではなかったのか?」
まだ両目は閉じている状態で、口だけが人間のように動く。
声は間違いなくフィナだった。
「フィースペードの目とかは時間が経てば、じきに動くはずだ。麻酔が切れるみたいに。それはそうと、仮想空間での冒険者のことだが」
「ニケさん。あの冒険者は生きている、のかな……」
「さぁな」
「私、どう詫びたら良いのですか」
依頼を終了させて残ったのは、未来に対しての不安と罪悪感だった。
もしあの少女が死んでいたとしたら……。
どこかで選択肢を間違ったのかもしれない。
それを確かめる術は、私自身にはない。
ノアちゃんが現実世界で接触しているとのことなので、その報告を待つことにする。
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