命をどこまでも燃やして
●フミエル
「あーあ、ふたりとも死んじゃったね」
その台詞を吹っ掛けたのは、間違いなくわたしだった。
炭鉱エリアに倒れているのは、意識を失ったムーンスノアとリノエル。
激闘の末に相打ちである。それ以外の言葉が思い浮かばなかった。
仮想空間XZで冒険者を倒しても、現実世界での命は保証される。
支障があるとしたら、スペードの記憶を探す速度くらいだろう。
では、どうして冒険者を意図的に減らしているのか。
その答えが、もうすぐ分かる。
「いるのでしょ、屑籠の女神イトラージュ」
ムーンスノアとリノエルの身体が白くなっているのを、フミエルは見ていた。
身体が白くなっているのは、この二人だけではなかった。
ミカドラ、ポップベーブ、シイタちゃん。リノエルが不意打ちで倒した冒険者も含まれる。
仮想空間ZXで倒された冒険者の魂が、一か所に集まってくる。
シックス・スターズ・オンラインには、『ネフティマ・システムズ』がある。
その製造過程で生まれた試作品が、ここに眠っているとして、それが現実世界へと持ち出せるとしたら?
「スキル発動、モンスタークラフター!」
フミエルは集まってくる白い物体に手を伸ばした。
この命、どこまでも燃やして、彼女を召喚しなければならない。
フミエルはその使命に駆られていた。
命の引き換えは、端末を超えて行われる。
判定はAIによるもので、通常なら不可能と言われるだろう。
けど、あの黒色の端末は少々特殊な構造となっている。
ゲームの中で命の燃やす機能、そんな馬鹿げた機能がもし実装されていたとしたらどうなるか。
製造元は、フミエルの知り合いから頼み込んだもの。
資金源の一部はあの街から盗ったもの。
全ての仕込みは、既に完了している。
そして、不可能を可能にする。
フミエルの身体もまた、屑籠の女神イトラージュに吸収されていった。
この召喚を止めるものなんて、誰も現れない。
召喚に成功。わたし、やりました。
それはそうと、思ったより少し違ったこともあるか。
屑籠の女神イトラージュは確かに存在する。
けど、それは空っぽの器としてだった。
そこに自由意志などない。
行動を決定づけるのは、屑籠の女神イトラージュの中に入り込んだフミエルだった。
試しにスキルを使い、新たなモンスターの召喚を試みる。
腕が炎の刃となっている竜人と、大地を自在に操って迷宮を支配する姫様を頭の中にイメージした。
その後、火の魔神メテノドラグ、地の魔神ラビュリースの召喚を行った。
●リリークラン
早くスペードの記憶を探さないといけなくなった。
ムーンスノアが死んだ。ミカドラ、ポップベーブ、シイタちゃんが死んだ。
リノエルも死んだ。フミエルは死んだも当然の状況。
このことを把握しているのは、リリークランとカラセナだけだろう。
ただ、カラセナの口から、ジャックゲイルとルアーボには伝えることは出来るだろう。
フミエルの現在地は、移動中だ。
塔エリアへ急接近している。
強力なモンスター取り巻きもいるので、戦闘で勝つことは恐らく不可能。
フミエルの目的はわからない。
ただ放置すると危ないのは理解できる。
けど、いま優先すべきことは、スペードの記憶を探すこと。
本棚を見て回っているが、未だにそれらしきものは発見できていない。
ポイ捨てするともう掴みだせない無限の空間から、小さな石ころを制限時間付きで探しださないといけないという、不可能レベルの状況に侵されて頭がおかしくなりそうだった。
「こんな時、探偵さんならどうするかな……」
リリークランは、その場で見上げた。
どこまでも続いている螺旋階段。終わりのない空間。
しばらく眺めていると、地響きがした。
「ふぇ……!」
激しく揺れて、リリークランは螺旋階段から落ちてしまっていた。
フミエルがもう到着してしまったのか。
だとしたら、相当ヤバい。
その前に、自分って大丈夫なのかな。
身体が螺旋階段の真ん中をどこまでも落ちていく。
このまま地面に落下したら、間違いなく自分も死ぬだろう。
……それも悪くないかもしれない。現実世界で、自分って役にたっているのかよくわかっていない。
リリークランは、どこまでも役立たずだ。
そう思った矢先のこと、リリークランの背中に両手が触れた。
「まったく、世話の焼ける助手なことだ」
リリークランをお姫様抱っこしていたのは、ジャックゲイルだった。
「えっと、自分が助手で……探偵さん? えっ?」
「女の姿になっていたのもあるけど、やっと気づいたか。これだからオレはオンラインゲーム系は苦手だっていうのに」
「……もっと早く言ってください。明日の朝昼晩は卵焼きです」
「そうだな。卵焼き尽くしは楽しみだが、早くスペードの記憶とやらを探さないとな」
「それもいりますけど……その前に、アレをどうするのですか?」
「どうするって、何がだ?」
「フミエルさんのことですよ。パーティのリーダーから聞いてませんでした?」
「それなら心配ない。避けられない運命だってあるものだから」
「どういうことです?」
「フミエルという冒険者が暴走することは、最初から女神ネフティマによって預言されていたことであり、犠牲者の数は変わらない」
「犠牲者の数が変わらない……」
「十だ」
「探偵さん、依頼の参加人数は十人ですけど」
「まだ四人生きている」
「四人ですか……とりあえず、カラセナさんのパーティは無事なんですね」
「いや?」
「えっと……」
リリークランが瞬きしていると、ジャックゲイルが地面に足をつけた。
「さっきの大きな衝撃は、でたらめな追撃に過ぎない。ルアーボは死んだ」
「それじゃあ、カラセナさんは……」
「フミエルを引き付けて遠くのエリアへ向かった。少なくとも塔エリアがぐっちゃぐっちゃだから、もうここは探索どころではないな」
「……そうですね」
ジャックゲイルの言った通り、周囲はガラクタの山。
塔エリアはどこまでも続いている永遠の空間だったはずなのに、崩れ落ちて原型すら留めていなかった。
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