黒い端末からのログイン
大手VRゲーム会社ひとつにつき、地方都市が一か所存在する。
地方で働ける人口の過疎化が進んでいく解決するために、国が声を上げて発展を望んだ結果である。
バリアフリーは首都圏より丁重に作られて、新しい学校が出来て、VRゲーム会社そのものの利益のために働く。
働き者は相変わらず首都圏まで出てくる者が多いが、それでも選択肢が出来たことによって特定の地域が資金のやり繰りに苦しむことは少なくなった。
そんな街づくりをなされて早十年、地方都市の中でも最大規模とも呼ばれているL市での売上予想は、下火の道を辿っていた。
L市の担当会社は、アモネイド株式会社。シックス・スターズ・オンラインをはじめとしたVRゲームを展開している。
アモネイド株式会社から渡された黒いスマートフォンの端末が十個。そのひとつは、夜叶が持つことになった。
探偵さんが把握していた一覧表に記載されている住所氏名のひとつが合致してしまったので、拒否権はない。
残りの九つは探偵さんが配達の手配をしてくれるということで、夜叶の仕事が増えることはないが……。
「怖くないというのは、嘘なんだけど」
街が静まり返る夜の個室。ひとりごとに口を開いた夜叶は、端末の電源を入れた。
画面には、『ようこそ』という文字だけが浮かび上がる。
ここから先に進むには、VRゲームを遊ぶための環境を整えるのみ。
必要な機器は部屋の中に完備されている。なので、あとはシックス・スターズ・オンラインを遊ぶようにする際と同時なことをやれば良い。
夜叶自身、シックス・スターズ・オンラインを遊んだことはないのだけど、やり方は何となく知っていた。
探偵さんから、暇つぶしに遊んでみるのはどうかなと用意されていたのだが、今日に至るまで触れたことすらなかった。
こういうの、なんだか新鮮味を感じる。
依頼を達成する為にゲームの世界へと飛び込むのだけど、VRのゲームなんて今まで興味なかった分野だった訳だし……。
夜叶は小型のリング機器を片手に装着し、寝室のベッドの上に横たわった。
「ログインすれば良いのよね……?」
仰向けの状態で黒いスマートフォンを握ると、リング機器を着けていない右手の指先で画面に触れた。
すると――。
ログイン、エラー。ログアウトします。
という電子音声が聞こえて、夜叶は目を覚ます。
「ここは……教室ですか……?」
微かに開いている窓辺から、冷たい風が流れ込んでくる。
VRゲームの世界だと聞いていたが、雲行きは少しばかり怪しい。
窓の外には白い桜が雪のように舞い上がり、凍てつく夜の世界を演出していた。
そして、薄っすらと見えたのは。
「これはゲームっぽいキャラクターというか……」
ふわふわっとした白のドレスコードとベレー帽を身に着けている、自分の姿だった。
ポニーテールに近いというべきか。長いピンク色の髪が背中のあたりで束ねられており、髪が前方の視界を遮って動きににくくなることはなさそうだった。
「それで、どうしよう……そうだ……!」
まずは情報を集める。
探偵さんがやっていそうなことでもあるので、一応だけど自分にも出来るはず。
夜叶はそう思い込むしかなかった。
依頼内容は、スペードの記憶を探すこと。
教室には、たくさんの机と椅子が並べられているだけ。
寒さを感じるので、温かい場所へ移動したい。
何もないことを把握すると、夜叶は廊下に出てみた。
「薄暗い……けど」
先ほどよりほんのり暖かくなった気がする。
廊下全域に暖房が入っているのだろうか。少なくとも、そう肌身で感じれる。
それで、どっちに行こうか。
夜叶から見て、右と左に廊下が続いている。
この廊下はどこまで続いているのか、階段があるのかすらよくわからない。
ゲームだとダンジョンだとか冒険というが、この場ではそんな気分にはならない。
本当にどっちへ進むのか。途方に暮れそうになった時だった。
「あれ、窓の外……」
夜叶は廊下の窓に近づき、すぐに見下ろす。
「白い、桜の木です……。それに誰か……いる……?」
いち、に、さん、よん。……会社から出された端末の数はたしか。
夜叶は頭の中で考える。
全部で九人、白い桜の付近に立っていた。
自分を合わせて十人だ。黒いスマートフォンの端末も全部で十個ある。
あの九人は、もしかしたらゲームの参加者なのでは……?
つまり、自分はあそこに行けば良いのかな。
夜叶は窓を開けていた。
あそこに行きたい。早く、行きたい。
気がついたら、三階くらいの高さにある廊下から身を放り投げていた。
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