探偵事務所の助手と依頼
探偵事務所に居候している秋星夜叶は、革製のソファーの上で仰向けになっていた。
「……むにゃ」
もうお昼過ぎなのに、まったく眠気が取れていない。
同居している探偵さんは外に出かけているので、玄関からのインターホンが鳴り響いていたとしても、すぐに誰かが対応するなんてことはない。
この場にいるのは夜叶、ただ一人である。
「……助手としての、努力くらいはしないと」
面倒そうに起き上がると、玄関のドアの前に立ち、小さな穴から客人の顔を確認する。
車椅子に乗った小柄な女性がひとり、必死に手を伸ばしてインターホンのボタンを押していた。
「この方は、たしか」
初対面なのだが、容姿の印象については聞き覚えがあった。
朝方、探偵さんが言ってた依頼者のひとりで間違いない。
「ようこそ……」
ゆったりとドアを開けて、客人を招き入れる。
助手としてのお仕事は、最低限こなせるつもりだけど、自信はこれっぽっちもなかった。
「すみませんね、探偵さんがお留守なのに訪問しちゃって」
お淑やかな声が、探偵事務所に広まる。
「べつにだいじょうぶ……だから」
「緊張されていますか?」
「……うん」
ソファーに座った夜叶は、すぐに頷く。
緊張は中々ほぐれない。だが、探偵さんがいない中で夜叶は十分受け答え出来ていた。
「緊張しすぎて話の内容が入ってこない心配をしましたが……平気ということでしたら、本題に行きますね」
小柄な女性は、車椅子のありとあらゆる場所に隠していた小さめの箱を、テーブルの上に乗せる。
小さめの箱は全部で十個。
中身はすべて黒のスマートフォンだった。
これはいったい何だろう。
「えへへ……依頼内容はですね、この端末からのみログインすることが出来るゲーム空間へ行き、スペードの記憶を探してほしいのです」
「ゲーム……?」
「そうです!」
小柄な女性は車椅子から立ち上がった。
「足、だいじょうぶですか?」
「足ですか? 全然平気ですよ。今は福祉関係の商品開発に携わっていまして」
「そうなのですね……」
福祉関係の仕事とゲームがどう関わっているのか、夜叶は理解に苦しむ。
「えへへ……細やかな疑問をもたれているかと思いますが、今回のご依頼は前職との繋がりが大いにあるのです。端末を配布すべきお方の住所リストは探偵さんが持っていると思いますので、よろしくお願いしますね」
「は、はい……」
探偵さんがいない中で、思ったよりスムーズに事が運んでしまっていた。
話しやすいし、何よりも明るい。
夜叶は、小柄な女性がもつコミュニケーション能力はとても高いものだと見た。
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